翻訳|Quebec
カナダ東部に位置する州。面積154万0680km2はカナダ10州のうち最大。人口754万6000(2006)はカナダ全人口の24%にあたり,その約8割がフランス系。カトリック教徒の比率は約9割に達する。この面積と人口構成が近年盛んなケベック州の分離・独立運動に物理的可能性を与えている。州都はケベック,最大都市はモントリオール。両都市ともに北アメリカでは歴史が古くフランス色が濃い点が特異で,観光都市としても知られている。州名は,インディアンの語で〈川が狭まる場所〉を意味する。州の大半を占めるカナダ楯状地は従来不毛の地とされ,わずか州全土の4%にも満たないセント・ローレンス川流域の農業が長らく主要産業であった。しかし交通網の発達や技術革新の結果,近年は楯状地の森林,水,鉱物資源の価値が高く評価されている。州第1の主要産業である工業の中心は,豊富な水力発電を用いるアルミニウム工業で,アメリカ,ロシアに次いで世界第3の生産高をもつ。その他伝統的な繊維工業,製紙や家具製造など,林業に基づくものが目だっている。第2が建設業,第3の水力発電はカナダ全産出量の約2分の1を占める。第4の鉱業は,アルミニウムの原鉱であるボーキサイトをはじめ,鉄鉱石,銅,金,スズ,石綿が主産物である。同じくカナダの大州であるオンタリオの高い国民所得との格差が問題であったが,近年その差は縮まってきている。
1534年セント・ローレンス川をさかのぼったフランス人J.カルティエは,沿岸をフランス領と宣言したが,恒久的植民地建設は1608年のシャンプランによるケベック要塞を待たねばならず,いわゆる植民者が到来したのはようやく1617年であった。毛皮交易とカトリック布教を支柱とした北アメリカのフランス植民地ニューフランスは,ケベックを中心として拡大した。しかし,フレンチ・インディアン戦争で1763年に勝利を得たイギリスは,ニューオーリンズに至る広大な版図と約6万5000人のフランス系住民を支配下に収めた。イギリスはケベック法(1774)を制定して,フランス民法,フランス語,カトリック教の維持を認めたが,アメリカ独立革命の結果ケベック植民地の西方に王党派(ローヤリスト)が到来し,彼らはケベック法による封建的統治を嫌い,1791年同植民地は東西に分割され,東のフランス系住民の多い地域はロワー・カナダ植民地となった。ロワー・カナダは農業を主要産業とし,聖職者の影響力が強かったが,19世紀も半ば近くなると,政治の民主化を求める運動が生じた。支配者階層がイギリス人もしくはイギリス系カナダ人であったので,この運動は同時にフランス系対イギリス系の民族抗争であった点が特徴的であった。1837年L.J.パピノーの反乱は,フランス系カナダ人の同化吸収こそ問題解決の鍵の一つである,とする〈ダラム報告〉を生む結果となり,41年に成立した連合カナダ植民地で,かつてのロワー・カナダはカナダ東部に編成される。しかし,この結果フランス系カナダ人の〈生存〉意識は強化され,67年カナダ自治領成立に際して,カナダ東部はケベック州として参加するに当たり,フランス語の使用をはじめとする既得権が保証された。
ケベック州は政治的・経済的な意味で長らくカナダの後進地域とみなされてきた。1944年以来60年まで政権を独占したM.デュプレッシ率いる国家連合党は,政権獲得後右傾化・反動化したことで知られていた。しかし50年代の知識人,労働者,学生による近代化の運動が奏功して,60年に自由党が政権を掌握,経済の公営化,教育と宗教の分離,技術教育の導入など一連の改革運動に乗り出した。政治的覚醒や生活水準・教育水準の向上は,ケベック人の意識をさらに先鋭化し,76-85年および94年以来,ケベック州のカナダからの分離・独立を唱えるケベック党が政権を担当している。ケベック独立をめぐっては州民投票が2度行われ,1980年は賛成40.5%,反対59.5%であったが,95年には賛成49.4%,反対50.6%と,賛否の差が大幅に縮まった。
執筆者:大原 祐子
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カナダ東部の州。面積135万5743.08平方キロメートルはカナダ10州中最大、人口723万7479(2001)はオンタリオ州に次ぎ第2位である。州都ケベック。住民の約74%がフランス系で、イギリス系は4.1%にすぎない。大陸性気候で、1月の平均気温は零下10℃、7月は11~21℃である。自然地理的には、セント・ローレンス低地、アパラチア高地、カナダ楯状地(たてじょうち)の三つに区分される。
セント・ローレンス低地は、ケベック市を頂点とし、南西方向に延びている。面積は州全体の2%にも達しないが、モントリオールなどの大都市があり、州人口の50%以上を占める。この地域は、五大湖地方と大西洋を結ぶ交通路のため、古くから重要な地域であった。アパラチア地域は、州南東部のアパラチア山脈の延長で、緩やかな丘陵地帯を形成している。また、セッドフォードには世界最大級のアスベスト鉱山がある。混合樹林帯でカエデが多く、カエデの樹液を煮つめたメープル・シュガーはこの地域の特産物として有名である。混合農業を主とし、酪農も行われている。小規模水力発電を利用した製材、製粉、木材加工などの産業もある。カナダ楯状地は、先カンブリア時代の岩石からなり、州面積の80%以上を占めている。無数の氷河湖が点在し、針葉樹林帯で、カナダ経済林の3分の1を占める。地下資源も豊富で、西部には金、銀、銅などの鉱山が、ラブラドルの州境には鉄鉱床があり、この鉄鉱石はセント・ローレンス水路で五大湖周辺の工業地帯に送られている。近年ジェームズ湾に注ぐイーストメーン川流域に大ダム群を建設するなど、水力発電が重要産業となっている。その安価な水力発電を利用したアルミニウム精錬業も世界的に有名である。
[山下脩二]
カナダ、ケベック州の州都。人口16万9076、大都市域人口68万2757(2001)。セント・ローレンス川下流の北岸に位置し、先住民(インディアン)のことばで「川の狭くなったところ」を意味する。市の中心部は標高100メートルのダイヤモンド岬上にあり、北アメリカ大陸に残る唯一の城壁都市である。商・工業地区、住宅地区などは低地にある。1608年にフランスの植民地としてシャンプランが開拓して以来フランス系文化の中心地で、現在でも市民の92%はフランス系である。1663年にフランスの植民地ニュー・フランスの首都となり、1791年ロワー・カナダの首都となった。1841~67年はカナダの首都であった。大西洋横断の巨船が出入する良港をもち、穀物、木材、家畜が輸出される。鉄道の起点でもあり、五大湖地方とは水路で直結され、近代都市として発達している。道幅が狭く、ヨーロッパ都市を思わせる古風な町並みは観光地としても有名で、イギリス・フランス植民地戦争の主戦場であったため、歴史的遺跡も多い。1985年にケベックの歴史地区は世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。1647年建設の教会堂、1823~32年建設の城塞(じょうさい)、フロンテナック城(現在はホテル)などが知られている。1852年創立のラバル大学はカトリック系大学として名高く、フランス語が用いられている。
[山下脩二]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1603年にセントローレンス川中流にヌーヴェル・フランス植民地として創設されたたが,1763年にイギリスに征服されてケベック植民地となり,住民はフランス系カナダ人となった。91年のカナダ法でロワー・カナダと改称され,1867年のカナダ連邦結成ではケベック州(州都はケベック市)として編入された。1960年の「静かな革命」を機にカナダからの独立運動が高揚し,工業化や都市化も急速に進んだ。カナダ第2の都市モントリオールを有する。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 KNT近畿日本ツーリスト(株)世界遺産情報について 情報
…彼らの末裔を主とするフランス系は全人口の29%(1971)を占め,カナダの人口増加に伴ってその比率は減少している。フランス系の77%がケベック州に,12%がオンタリオ州に,4%がニューブランズウィック州に住み,居住地域は東部に偏っている。一方イギリス系は,フランス系と異なってイギリス諸島,アメリカ合衆国から間断なく移民を迎えている。…
…1841年から67年まで北アメリカ大陸に存在したイギリス植民地。現在のオンタリオ州,ケベック州の南部を版図とした。1837年のアッパー,ロワー両カナダ植民地における反乱の一つの結果として,フランス系カナダ人のイギリス系への同化吸収を目的として,二つの植民地の統合がダラム報告により勧告され,実現した。…
…カナダのケベック州の古称。1791年から1841年まで使用された。…
…彼らの末裔を主とするフランス系は全人口の29%(1971)を占め,カナダの人口増加に伴ってその比率は減少している。フランス系の77%がケベック州に,12%がオンタリオ州に,4%がニューブランズウィック州に住み,居住地域は東部に偏っている。一方イギリス系は,フランス系と異なってイギリス諸島,アメリカ合衆国から間断なく移民を迎えている。…
※「ケベック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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