ドイツの社会学者テンニエスがゲマインシャフトと対置して用いた語で、利益社会という訳語があてられることもあり、社会学の基本概念となっている。彼によれば、社会を成り立たせるのは人間意志であるが、これは目的と手段との関係において本質意志と選択意志とに分けられ、この後者の選択意志に基づいて成立するのがゲゼルシャフトである。選択意志とは、行為者の本質の無意識的な表現である本質意志に対して、一定目的の達成のための合理的な手段の意識的な選択を意味し、具体的には考量、打算、意識性などとして個人に現れ、社会的には協約、立法、世論などとして実現される。ゲゼルシャフトがこのような意志に基づく限りは、それは一定の目的達成のために、いわば人工的に形成されたものであり、そこにおいては人々は互いに利害の打算に基づいて合理的に行為し、返礼や反対給付がなければ人に対して何もしようとはしない。したがって、そこに成立するのは、利害の一致に基づく一面的な非人格的な関係であり、人々はそこで表面的にいかに親密にふるまうにしても、互いに絶えざる緊張状態に置かれ、あらゆる結合にもかかわらず、なお本質的には分離している。このようなゲゼルシャフトとしてテンニエスがあげるのは、大都市、国民および世界である。
ところでゲゼルシャフトは、それと対概念をなすゲマインシャフトとともに、単に社会の類型概念として考えられているのみでなく、社会の歴史的な発展を示す概念としても用いられ、テンニエスは、ゲマインシャフトの時代にゲゼルシャフトの時代が続くとして、現代をゲゼルシャフトの優位を占める時代と考えた。しかし彼は、ゲマインシャフトが人間の本質意志に基づく限りは、なお社会の基礎をなすとみなし、1910年代の協同組合運動のなかに、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトの総合としてのゲノッセンシャフトを認めようとした。
[居安 正]
『杉之原寿一著『テンニエス』(1959・有斐閣)』▽『テンニエス著、杉之原寿一訳『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』上下(岩波文庫)』
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…共同社会あるいは基礎社会と訳されるが,語の構成からは〈共通あるいは共同していること〉で,この意味で使われることも多い。テンニースの著書《ゲマインシャフトとゲゼルシャフトGemeinschaft und Gesellschaft》(1887)でゲゼルシャフトGesellschaft(利益社会あるいは派生社会と訳される)と対比しつつ,純粋社会学の根本概念とされた。テンニースは人間の共同生活における集合形式,関係形象,規範,価値の研究を社会学としたが,実在的・自然的な本質意思Wesenwilleと観念的・作為的な選択意思Kürwilleとを区別し,前者にゲマインシャフト,後者にゲゼルシャフトという集団類型をたてた。…
…要するに,(1)は人々の一体感による集団であり,(2)は合理的選択による集団であるといえる。(1)はゲマインシャフトや第一次集団と呼ばれるものであり,(2)はゲゼルシャフトや第二次集団と呼ばれるものである。近代および現代の社会では,(2)の集団類型が優勢になるのに対して,(1)の集団類型が劣勢になると考えられる。…
※「ゲゼルシャフト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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