翻訳|compass
船舶や航空機の針路を定め、方位を測定するための計測器。羅針儀、羅針盤ともいう。地球の磁場の方向を基準として磁石を使って方位を測定する磁気コンパスmagnetic compassと、地球の自転軸の方向を基準にして、こまの原理を応用して方位を測定するジャイロコンパスgyro compassの2種類が普及している。新しい方式としてGPS(global positioning system=全地球測位システム)衛星を用いるGPSコンパスGPS compassやレーザージャイロlaser-gyro、ジャイロシンコンパスgyro-syn compass(航空機で使用)など各種のものが試みられている。ラジオコンパスradio compassといわれる装置は無線方位測定機をさし、電波の到来方位を探知する装置である。
[飯島幸人]
コンパスの始まりは紀元前11世紀ごろ中国の周代につくられた指南車であるといわれていた。しかしこれは、回転しても一定方向をさす機械的な歯車装置であって、磁石を使ったものではないとされ、コンパスの元祖であるという説は否定された。コンパスの語源はラテン語のcompassusで、comは「円」を、passusは「くぎり」を表し、「円を方位に分割する」という意味である。
磁気コンパスは、散見される記録によると、初期のものは陸上で八卦(はっけ)などに使われたが、船用のものは11世紀の初めに中国でつくられ、12世紀の終わりごろにはヨーロッパに伝えられていたらしい。これらの磁気コンパス以前に、北欧バイキングは、太陽を用いるバイキングコンパスを使っていたことが明らかになっている(1948年にグリーンランドで発掘され、1978年にコンパスと断定された)。初期のコンパスは、針を磁石でこすって磁化させ、この針を紐(ひも)で吊(つ)るしたり、針を藁(わら)に刺して水に浮かべたりして北を検知したものと思われる。13世紀に入るとコンパスはかなり発達し、方位の目盛りもできてきたようであるが、コンパスとしてのいちおうの形をなしたのは14世紀に入ってからである。イタリア人ジョヤFlavio Giojaが1300年ごろに、磁針と方位を書いたカードを一体にしたコンパスをつくり、持ち運びが可能になったといわれているが真偽のほどは定かではない。さらにイタリア人カルダーノがジンバルリング(遊動環)を発明し、船が揺れてもコンパスは水平を保つようになり、コンパスとして完成された。
今日のような精度の高いものになったのは19世紀後半で、1873年にイギリスの物理学者ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿(きょう))によってつくられた。彼は、鉄船のもつ磁気によって生ずる磁気コンパスの誤差、すなわち自差の研究をして自差修正装置を完成させ、現在の磁気コンパスの原型となるものをつくりあげた。トムソンのつくったコンパスは、カード全体を支針の先端で支える乾式コンパスdry compassだったが、さらに船の振動に耐えるため、カードを液の中で支える液体コンパスliquid compassに改良された。
現在、磁気コンパスは主役をジャイロコンパスに譲り、補助的航海計器となってしまった。
[飯島幸人]
ジャイロコンパスは、高速に回転するこま、すなわちジャイロが一定方向をさす性質を利用したコンパスである。地球の自転に感応して真北をさし、磁気コンパスのような自差がないので、コンパスの主役となった。1906年、ドイツのアンシュッツHermann Anschütz(1846―1931)が初めてジャイロコンパスの試作機をつくった。アンシュッツは薬学者であったが、当時盛んであった北極探検に興味をもち、潜水艦によってこれを試みることを計画した。しかし、潜水艦の中では地磁気が遮断され、しかも極地方では水平磁力が弱くなるので磁気コンパスが使用できなくなることから、ジャイロコンパスの製作を志したという。1911年に初めて実用できるジャイロコンパスを完成させた。同じころアメリカのスペリーもジャイロコンパスの研究をして、1912年に完成させた。日本に輸入されたのはアンシュッツ式が最初で、1913年(大正2)に軍艦金剛がインド洋を経て持ち帰っている。同年には、日本海軍はスペリー式とアンシュッツ式の比較試験を行っている。この二つのジャイロコンパスはつねに競争しながら進歩、発展を続け、今日でも世界の主流の地位を保っている。1990年代に入ると、カーナビゲーション(car navigation=自動車経路誘導システム)で用いられるGPSから到来する電波の位相差を測定することによって方位を知ることができるので、GPSコンパスは船舶でも利用されるようになってきている。
[飯島幸人]
『茂在寅男・小林實著『コンパスとジャイロの理論と実際』(1971・海文堂)』▽『伊関貢・庄司和民著『ジャイロコンパス及オートパイロット』(1973・海文堂)』▽『飯島幸人・林尚吾著『航海計測』(1986・成山堂書店)』▽『西谷芳雄著『コンパスと自動操舵』(1988・成山堂書店)』▽『前畑幸弥著『ジャイロコンパスとオートパイロット』(1993・成山堂書店)』
製図用具。両脚器、ぶんまわしともいう。円や円弧を描くのに使用され、また直線などを等分割するときにも利用される。
[編集部]
円や円弧を描くときに用いる道具。古来はぶんまわし(規)といったが,ポルトガル語に基づくコンパス(compasso,根発子とも書かれた)という呼名もすでに《日葡辞書》《和漢三才図会》などに見え,早くから用いられていたらしい。起源についてはさだかではないが,ギリシア幾何学がコンパスと定規の上に築かれているところからみても,その発生の古さがうかがわれる。日本で西洋の近代的なコンパスが作られるようになったのは,鉄砲鍛冶の出であった和田貞一郎が,1869年(明治2)ころにフランス式のコンパスを作ったのが最初である。なお,明治の前半までは,製図器機を総称してコンパスと呼んでいた(製図用具)。また羅針儀をコンパスということもあり,これについては〈羅針盤〉の項目を参照されたい。
執筆者:大西 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 航法の基本機能である繰返性については,紀元前から経験則の集積である航路誌により,2点間の方向と距離(航走日数で表現されていた)の情報を得て,あまり確実性が高くはなかったが一応保たれていたようである。 また針路と航走距離から推測位置を求めることも,コンパス(羅針儀)などの利用で一般化していった。このコンパスは,中国で指南針と呼ばれ,11世紀に航海用として用いられており,これがヨーロッパに伝えられたといわれている。…
…羅針儀,コンパスとも呼ばれる。船や航空機などで方位を測定するために用いられる器具で,原理から,磁石の指極性を利用して方位を知る磁気コンパスと,高速で回転するこまの運動を利用するジャイロコンパスに分けられる。…
… リズムと拍子,拍,形式の関係はスペインのフラメンコにおいてより自由な形を示している。コンパスcompasと呼ばれるリズム周期をもつフラメンコでは,不均等な音価から構成される不均等5拍子を形成している。 リズムと形式の関係は西欧以外ではもっと多様な形でみられる。…
※「コンパス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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