ザックス(Hans Sachs、工匠歌人、劇作家)(読み)ざっくす(英語表記)Hans Sachs

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ザックス(Hans Sachs、工匠歌人、劇作家)
ざっくす
Hans Sachs
(1494―1576)

ドイツの工匠歌人劇作家ニュルンベルクの仕立屋の子として生まれる。1509年、ラテン語学校卒業後靴屋に弟子入りし、そのかたわら工匠歌の手ほどきを受ける。5年間のドイツ各地の遍歴を終え、16年に帰郷、19年には結婚して靴屋の親方となり、やがて工匠歌の親方となる。23年、ルターの宗教改革に共感し、これをたたえた詩『ウィッテンベルクの小夜啼(さよな)き鳥』を発表し、詩人としての第一歩を踏み出した。以後家業の靴づくりに精を出すかたわら、工匠歌の振興に努め、同時に詩作にも励み、73年筆を絶つまでに、工匠歌約4300編、説話詩・笑話詩など約1700編、劇210編の計およそ6200編の作品を書き残している。この間、60年には妻と死別翌年再婚したが、76年1月19日、5年間の遍歴時代を除き一生を過ごしたニュルンベルクで没した。81歳。ザックスは、このころ台頭し始めた市民階級の旺盛(おうせい)な生活力と精神を代表し、人文主義の精神に基づき、作品を通じて穏健中正な処世訓を説き続けた。なかでも滑稽(こっけい)で教訓的な謝肉祭劇において、その本領がもっとも発揮されており、代表作に『天国の遍歴学生』(1550)、『仔牛(こうし)を孵化(かえ)す』(1551)などがある。ワーグナーの楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1868初演)は、ザックスの名を長く後世に伝えるものである。

[田中道夫]

『藤代幸一・田中道夫訳『ハンス・ザックス 謝肉祭劇集』全2巻(1979、80・南江堂)』

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