植物の器官が外界の刺激に反応して、刺激の方向と関係のある指向性運動を行うことをいう。刺激の方向への屈曲は正の屈性、刺激と反対方向への屈曲は負の屈性という。屈曲が刺激の方向に対してある角度をもっておこるものを傾斜屈性といい、とくに角度が直角の場合は横屈性または側面屈性とよぶ。刺激の種類によって屈光性、屈地性、屈化性などと名づけられる。
屈性反応は、一般に刺激を受ける側とその反対側との成長速度の違いによっておこる一種の成長反応であるため、刺激が与えられてから反応がみられるまでには時間がかかる。
[勝見允行]
光屈性ともいう。光が一側面から照射されるとき、苗条、イネ科植物の子葉鞘(しょう)(幼芽)、ヒゲカビの胞子嚢柄(のうへい)などは正の屈光性(向日性)を示す。根は屈光性を示さないか、あるいは負の屈光性を示すが、なかにはタマネギの根のように正の屈光性を示すものもある。多くの植物の葉は一般に入射光に対して葉身面が直角になるように動く横屈光性(横日性)を示す。光の方向に対する葉の配列は、日照との関連において生態的な意味があると考えられる。光の感受部位は茎と根ではその先端、葉では葉身または葉柄を含めた葉全体である。
屈光性について、もっとも詳しく研究されているのはイネ科植物の子葉鞘である。子葉鞘の先端が側光刺激を受けると、先端で生産され、下方へ輸送されているオーキシンの不均等分布がおこり、光の当たらない側に多くなる。このため、そこでの成長が光の当たる側より大きくなり、成長のひずみによって屈曲がおこる。このように、屈光性反応は植物ホルモンを介しておこると考えられる。
[勝見允行]
重力屈性ともいう。茎など植物の地上部や菌類の胞子嚢柄は負の屈地性(背地性)を示し、根は正の屈地性(向地性)を示す。芽生えた植物を横にしておくと、茎は立ち上がって重力と反対方向に、根は地球の中心に向かって屈曲し、最終的に重力の方向と平行を保つようになる。これを正常屈地性とよぶ。根茎や匍匐(ほふく)枝にみられるように、成長が重力方向と直角におこる場合は横地性(側面重力屈性)といい、アスパラガスの1種Asparagus plumosusの側枝、エゾヘビイチゴ、ニオイスミレなどの葉、ミズタマソウ、ゴリンバナなどの根茎がこれである。また、重力方向に対して一定の角度で反応する場合を傾斜屈地性といい、側根、側枝葉などにみられる。
重力刺激を感受する部位は特定しがたいが、根や茎では先端の部分が敏感である。根や茎の屈地性は、屈光性の場合と同じように、重力刺激の伝達がオーキシンを介して行われると考えられる。すなわち、植物体を横にしたとき、側面からの重力刺激によって、オーキシンは下側半分により多く分布するようになる。このため、茎部では下側の成長が促進され、根では逆にオーキシン濃度が高すぎて成長阻害がおこり、それぞれ負と正の屈地性を示す。屈地性では、オーキシンのほかにアブシシン酸の関与も明らかにされている。
[勝見允行]
植物の部分が固体との接触によって示す屈性成長運動を屈触性あるいは接触屈性という。巻きひげやつるの屈曲がその例である。巻きひげの場合は、先端よりやや下の部分が敏感で、接触を受けた側が凹面となるように屈曲して成長する。このほかに、一方向からの化学物質に対して示される屈化性(化学屈性)がある。花粉管(柱頭などに対して)や菌糸がその例である。さらに屈化性の一種に、根などが一方向からの湿度に反応する屈水性(水屈性)、酸素濃度に反応する屈気性(酸素屈性)がある。また、熱刺激、電気刺激、水流に対する反応を、それぞれ屈熱性(熱屈性)、屈電性(電気屈性)、屈流性(水流屈性)という。
[勝見允行]
『増田芳雄著『植物生理学』(1988・培風館)』▽『菅洋編『宇宙植物学の課題――植物の重力反応』(1990・学会出版センター)』▽『根の事典編集委員会編『根の事典』(1998・朝倉書店)』▽『横田明穂編、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科植物系全教員著『植物分子生理学入門』(1999・学会出版センター)』▽『森田茂紀著『根の発育学』(2000・東京大学出版会)』▽『山村庄亮・長谷川宏司編著『動く植物――その謎解き』(2002・大学教育出版)』
植物の器官が外部刺激に呼応して一定の方向に屈曲運動する性質で,環境への適応現象の一つである。刺激方向への屈曲を正の屈性,刺激源から遠ざかろうとする屈曲を負の屈性と呼ぶ。屈曲運動は刺激源に面する側とその反対側での生長の差によっておこり,刺激の種類に応じて屈光性phototropism,屈地性geotropism,屈熱性thermotropismなどに分けられる。屈光性の存在は,すでに1880年にC.ダーウィンがイネの子葉鞘(しようしよう)での観察にもとづいて指摘している。ウェントF.W.Wentは,アベナの子葉鞘の先端部で形成されたオーキシンが基部へ輸送される途中で片面を照射すると,光側のオーキシンの流れが影側へとそらされ,その結果として影側でのオーキシン濃度が増加し光側で減少することを明らかにした(1928)。他方,オーキシンの分布は重力によっても影響されるという考えがコロドニーN.Cholodnyによってすでに指摘されていた(1924)。そこで,オーキシンの横輸送とそれによるオーキシン濃度の不均等分布が屈性反応をひきおこすという考えはコロドニー=ウェント説と呼ばれ,現在でも最も信頼される学説となっている。ただし一方では,光照射によって最初におこる反応はオーキシンの輸送阻害であることを示す観察がトウモロコシの子葉鞘においてなされている。すなわち,オーキシンは子葉鞘の先端2mmで形成され基部へは厳密な極性をもって輸送されるが,この極性輸送は光によって阻害される。したがって,片面照射をした光側にオーキシンがたまり量的には影側より多くなる。この事実はコロドニー=ウェント説に矛盾するが,その理由はまだわからない。また,根の屈地性にコロドニー=ウェント説を適用すれば,オーキシンは根の下半分により多く分布することになって,下半分が上半分よりも生長速度が速いという結果をまねいてしまう。したがって,根は負の屈地性を示さなければならないことになるが,これは事実と矛盾する。これに関連して,根端の下半分における生長阻害物質の形成・分泌が正の屈地性をもたらすことを示唆するような事実もある。
下等植物の屈光性で最も有名なのはヒゲカビの例であり,この胞子囊柄は光によって生長が促進され正の屈光性を示す。この柄細胞は高い屈折率(細胞質1.35,液胞1.34)をもっており,平行光線が横から照射されると,この円柱状細胞はあたかも凸レンズのようなはたらきをして,光の入射面に比して裏面のほうがより強く照射される(レンズ効果)。そのために,入射面と裏面との間で生長差が生じ,これが正の屈曲運動をひきおこす。大きな屈折率1.47をもつ流動パラフィン中では,円柱状細胞は発散レンズとしてはたらくので,負の屈光性がみられる。一般に,屈光性における作用スペクトルaction spectrumの解析は光感受性色素の識別・同定に有効な手段となる。
執筆者:前田 靖男
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