六訂版 家庭医学大全科「シェーグレン症候群」の解説
シェーグレン症候群
シェーグレンしょうこうぐん
Sjögren's syndrome
(膠原病と原因不明の全身疾患)
どんな病気か
シェーグレン症候群(SS)は、歴史的には1930年にスウェーデンの眼科医シェーグレンによる関節リウマチ(RA)を合併した
慢性
血液検査では多様な自己抗体が陽性になり、多臓器に特殊なリンパ球の
1993年度の厚生(当時)省特定疾患自己免疫疾患調査研究班の検討によると、シェーグレン症候群の有病率は人口10万人に約15人とされています。男女比は1対14で女性に多く、発症年齢のピークは40~60代となっています。都道府県により異なりますが、難病特定疾患と指定されて医療費の補助を受けられるところもあります。
原因は何か
原因は自己免疫疾患と考えられています。自己免疫疾患とは何らかの原因で免疫異常が生じ、自分の体にある蛋白質を抗原として認識して自己抗体やリンパ球により自らを攻撃してしまう病態です。自己免疫応答を誘導する先行因子として、細菌やウイルスの感染が関係しているとの報告があります。引き続き起こる炎症は、リンパ球で作られるサイトカイン(IL1、TNF
最終的には、細胞傷害性リンパ球などにより唾液腺・
症状の現れ方
臨床症状は多様ですが、大まかに腺症状と腺外症状とに分けられ、それぞれ表7のようになります。
問診の際にチェックすべき項目は以下のとおりです。
・食事の時、水を必要とするか?
・口腔乾燥感があるか?
・舌先に異常な感覚がないか?
・味覚の異常があるか?
・唾液腺がしばしばはれるか?
・眼が疲れやすいか?
・眼がゴロゴロするか?
・眼の
・日に3回以上、眼薬をさすか?
このような問診によりドライマウスやドライアイ症状の有無を診断します。ドライアイは、“疲れ眼”の6割を占めるといわれていますが、その乾燥症状が即シェーグレン症候群ということではありません。
腺外症状としての関節炎は、関節リウマチと同じように朝のこわばりがあり、両側に関節痛が起こりますが、関節リウマチと異なりこわばりの持続時間が短時間であり、関節の変形を来すような激しい関節炎は少ないです。しかし、当然ながら関節リウマチを合併した二次性シェーグレン症候群では、関節リウマチに特徴的な関節炎の所見を示します。
検査と診断
いくつかの特徴的な症状を示す症候群であるために、診断基準により確定診断が行われます。1999年に改訂された厚生省(当時)の診断基準を表8に示します。
検査には、眼科検査、生検病理組織検査、口腔検査、血液検査などがあります。眼科的検査のひとつはシルマー試験です。これは、ろ紙を下まぶたに当てて涙液量を測定する検査です。5分間で5㎜以下を陽性所見としています。ローズベンガル試験と
小唾液腺と涙腺生検は組織学的にSSを検討するために必要な検査です。導管周囲に50個以上の
唾液腺造影は唾液腺の組織破壊の程度を反映します。直径1㎜以上の小点状陰影が認められれば陽性です。最近では唾液腺シンチグラフィを用いた検査も行われます。軽症例では
血液検査では、CRP陽性、赤沈値亢進など炎症反応が陽性であり、高ガンマグロブリン血症が60~80%にみられています。とくにガンマグロブリンのなかでIgG、IgAが増えており、また血液の
赤血球も白血球も減る傾向にあり、貧血および白血球減少症は約30~60%の頻度でみられています。血小板数の変化はまれで、10%以下の頻度で減少がみられますが、そのなかには
自己免疫疾患の原因である自己抗体の存在は、種類としては抗核抗体が70~80%と高率に検出されます。抗La/SSB抗体は、本症に特異性が高く診断的意義が高いのですが、検出率は20~30%にとどまります。本抗体陽性の患者さんは、常に抗Ro/SSA抗体も陽性です。抗Ro/SSA抗体は陽性率が50~70%と抗La/SSB抗体に比較して出現率の高い自己抗体です。抗Ro/SSA抗体は他の膠原病にも検出されるため、特異性は抗La/SSB抗体より低いことになります。リウマチ因子は関節リウマチの合併のあるなしに関係なく約70%の患者さんで認められています。
その他の自己抗体として、抗RNP抗体、抗セントロメア抗体、抗ミクロゾーム抗体、抗ミトコンドリア抗体などが検出されることがあり、多様な自己抗体が現れる自己免疫疾患です(表9)。ツベルクリン反応の陰転化、自己リンパ球混合培養反応の低下、NK細胞の機能低下などもあって、これは細胞性免疫の異常としてとらえられています。
区別すべき疾患としては、ドライアイを来すアレルギー性結膜炎などの眼疾患、糖尿病、唾液腺萎縮症、薬剤の副作用などによるドライマウス、他の自己免疫疾患(膠原病)、とくに関節リウマチや全身性エリテマトーデスの合併について適切に診断することが、治療にあたるうえで重要になってきます。
治療の方法
治療は腺外症状の有無により異なります(表10)。腺症状だけの腺型シェーグレン症候群では、日常生活ではあくまでも対症療法が中心となり、外部環境に気をつかい、眼や口に風が当たらないようにメガネやマスクを使用し、室内では加湿を心がけてください。
ドライアイに対して、防腐剤を含まない人工涙液(眼薬)、プラグを用いた涙点閉鎖、ドライアイ保護用眼鏡などが有効です。ドライマウスに対しては、うがい、サルベートなどの人工唾液、ガム、
活動性で炎症症状が強い腺外型や二次性シェーグレン症候群に対しては、その炎症を抑えるために副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)が使用されます。とくに活動性が高いと考えられるのは、①進行性の間質性(かんしつせい)肺炎、
ステロイド薬の用量は、重い病変に対しては適切な時期にプレドニゾロン換算で30~60㎎/日を投与し、また、炎症症状が弱い場合では、5~15㎎/日と比較的少量で十分な効果が得られるでしょう。症状、検査所見などから必要と思われる時には積極的に使用するべきです。
免疫抑制薬(シクロホスファミド)も重症例では有効とされていますが、腎毒性、悪性リンパ腫の発症の危険性を考慮しなければなりません。投薬は最善の戦略を立て、注意深く行われなければなりません。さらに、慢性甲状腺炎、
腺型シェーグレン症候群は、一般に予後が良好です。腺外型や二次性シェーグレン症候群は、活動性が高く難治性であることが問題になります。とくに、進行性の間質性肺炎、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、中枢神経障害、高粘度症候群などの病変が現れた場合は予後が不良になります。シェーグレン症候群には悪性リンパ腫の合併もみられており、その発症率は健常人に比して40~80倍高いと報告されています。
病気に気づいたらどうする
ドライマウス、ドライアイ、関節痛などの症状に気づいたら、リウマチ科の専門医、とくに内科系リウマチ専門医の診察を受けてください。確定診断には、血液検査、眼科的検査、歯科口腔外科的検査などが必要であることを認識しておいてください。
日常生活では、うがいなどにより口腔内を常に清潔に保つことを心がけます。
また、シェーグレン症候群の患者さんは、さまざまな薬に対して薬剤アレルギーを起こしやすいので注意してください。
住田 孝之
シェーグレン症候群
シェーグレンしょうこうぐん
Sjögren's syndrome
(のどの病気)
どんな病気か
全身の外分泌腺(涙や
症状の現れ方
自己免疫疾患といわれる病気のひとつです。免疫とは、異物やウイルス・細菌などから体を守るために備わった機構で、それらが体に進入した場合などに、自分以外のものと認識し、攻撃・排除するようにできています。この免疫機構が何らかの原因により異常を来し、本来ならば認識しない自己の体の一部を非自己と認識し、破壊・排除するようになったために生じる病気です。
シェーグレン症候群では、唾液腺や
原因は何か
涙腺が破壊されると涙の分泌が減るため、眼の乾燥症状が出てきます。唾液腺では唾液の分泌が減るため、口腔内乾燥感が生じ、ひどくなると潤滑油としての唾液の減少により、水分の少ない物が食べにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。
また唾液には殺菌作用がありますが、これがなくなるため、カンジダなどによる口腔内
さらには、分泌が低下した唾液腺には口のなかから細菌が進入し、急性の細菌性唾液腺炎を生じたりします。
検査と診断
定められた診断基準があり、これに基づいて検査・診断が行われます。主なものは、涙腺では涙分泌の減少と、それによる眼(角・結膜)の異常を調べること、唾液腺では唾液分泌の減少と腺の変化をみること、さらには涙腺や唾液腺の組織学的変化をみること、血液学的に自己抗体の存在を調べることなどにより診断が行われます。
治療の方法
根本的な治療法はありません。涙の減少に対しては点眼薬が使用されます。唾液の分泌障害に対しては、腺の破壊の程度により、分泌機能が残っている例には残存腺の分泌を亢進させるための薬剤投与が行われます。破壊が進行し、この薬剤の効果が得られない場合は、人工唾液という唾液の代わりになる液体の口腔内
舌炎や真菌症に対してはそれぞれに合った治療が行われます。細菌感染による急性の唾液腺炎が生じた場合は、抗生剤の投与も必要です。
まれに悪性リンパ腫という腫瘍に進むこともあるため、唾液腺のはれが急激に大きくなるようであれば、腫瘍化も念頭に入れておく必要があります。
病気に気づいたらどうする
多くの場合は、眼や口の渇きにより発見されます。このような症状があった場合は、耳鼻咽喉科や眼科、内科の専門医の診察を受けるとよいでしょう。
谷垣内 由之
シェーグレン症候群
シェーグレンしょうこうぐん
Sjögren's syndrome
(皮膚の病気)
どんな病気か
スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンにより発見された
このほかにも皮膚症状や関節症状など、多様な症状を示します。これらの症状は外分泌腺障害の症状と区別して、腺外症状といいます。
原因は何か
原因は不明です。病態には自己免疫が関係していますが、その背景にウイルスが関係しているとする説もあります。
症状の現れ方
中高年では乾燥症状が初発症状であることが多く、若年者では皮膚症状などの腺外症状で発症することが多い傾向があります。
皮膚・粘膜の腺症状としては汗腺の障害による
皮膚症状は線外症状のほうが多く認められます。最も特徴的なものは1~3㎝くらいの環状紅斑です。そのほかでは
本症は関節リウマチ、
検査と診断
シルマー試験、ガム試験を行い涙液、唾液の分泌低下の有無を調べます。また口唇粘膜生検により小唾液腺を病理学的に調べます。皮膚病変がある場合は必要に応じて皮膚生検を行います。
血液検査では抗核抗体高値、リウマチ反応陽性、高ガンマグロブリン血症が認められた場合は、本症が強く疑われます。疾患に特徴的な自己抗体として抗SSA/SSB抗体があります。
治療の方法
軽症の場合は症状に合わせて治療します。乾燥症状には人口涙液点眼薬や人工唾液を使います。程度により外分泌腺を刺激する薬剤や、ステロイド薬を内服します。
病気に気づいたらどうする
皮膚症状は皮膚科、眼症状は眼科、全身症状ではリウマチ膠原病科と、それぞれの症状の専門医を受診します。
関連項目
衛藤 光
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報