改訂新版 世界大百科事典 「シバナ」の意味・わかりやすい解説
シバナ
seaside arrowgrass
Triglochin maritimum L.
シバナ科の多年草。日本では河口や干潟の縁の塩分を含む湿地にはえる。葉は細く,根生し,断面は半円形で,長さ10~40cm,基部に葉鞘(ようしよう)と葉舌がある。シアン化合物を含み,特有のにおいがする。5~10月に,直立する高さ15~50cmの花茎を出し,総状に多数の花をつける。花柄は長さ1.5~3mmで,花被はない。おしべは6個で,上下の2輪に分かれて3個ずつつく。葯は無柄で,舟形で淡緑色の葯隔付属突起に包まれている。おしべは心皮より早く熟し,付属突起とともに落ちる。心皮は6枚あって,上下の2輪にわかれて3個ずつつき,おのおのの中に1個ずつの胚珠をもつ。心皮は開花時にはほぼ離生しているが,花後に中心で互いに合着し,熟すと中心に軸を残して6片に分かれる。種子はまっすぐな線形で,種皮は薄くやわらかい。シバナ科はヒルムシロ科とともに,おしべが葯隔付属突起をもつ奇妙な花を有している。このような〈花〉が,ほんとうの花であるか,それとも花序の末端が特殊化した偽花であるかは,まだ十分に解明されていない。名まえは塩分のある所にはえる〈塩場菜〉の意味であるといわれ,若葉を食用にすることができる。北海道~九州,世界の北半球の温帯に広く分布し,大陸では内陸の塩性湖の岸にもはえる。
ホソバノシバナT.palustre L.は淡水性の湿地にはえ,心皮は内輪の3個だけが稔性であり,外輪の3個は不稔で,花軸に合着している。稔性の心皮は熟すと,とがった下端が軸を離れて外側を向く。これが属の学名Triglochin(三つの尖端(せんたん))の語源である。本州北部~北海道,北半球の亜寒帯に分布する。
執筆者:山下 貴司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報