フランスの小説家。本名はMarie-Joseph Sue。はじめ軍医であったが,《海賊ケルノック》(1831)等の海洋小説によって文壇に登場。次いで《アルチュール》(1838)など,風俗小説も書いた。代表作は《パリの秘密》(1842-43年《デバ》紙に連載)で,パリの下層社会を描き,民衆の悲惨な生活への共感を表したものである。次いで発表された《さまよえるユダヤ人》(1844-45年《コンスティテュシヨネル》紙に連載)では,すでに《パリの秘密》において表明された社会主義的な傾向がいっそう強められた。1850年,立法議会議員に選出されたが,翌51年,ルイ・ナポレオンのクーデタに抵抗して逮捕され,アヌシーに亡命,同地で世を去った。彼の小説では,人物が善玉と悪玉とに截然と分けられ,かなり単純な正義感が基調となっている。サスペンス的な手法とあいまって,それが当時の大衆から圧倒的人気を得たゆえんであろうが,今日,文学的には必ずしも高い評価を与えられていない。しかし,デュマ(父)とともに新聞小説の開祖として大衆文学の誕生をもたらしたといえる。
執筆者:高山 鉄男
古代エジプトの神。ヘリオポリス神学によれば,アトゥムの天地創造説話にあって,最初に生まれた神の一人で,アトゥム,テフヌートTefnutとともにヘリオポリスの三柱神となった。太陽の光と大気の化身で,水と湿気の化身たるテフヌートの夫,また大地の神ゲブと天空の女神ヌートの父。頭に彼の名前の由来たる空間,空虚を意味する羽根飾を付けた姿で表される。シューによってゲブとヌートは引き離され,天と地が生じたとされる。シューは他の神々のように信仰の特定拠点は持たないが,デンデラは〈シューの家〉,アポリノポリス・マグナは〈シューの廟〉,エドフは〈シューの所在地〉,メンフィスは〈シューの住居〉と称された。
執筆者:中山 伸一
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フランスの小説家。本名はマリ・ジョセフ・シュー。パリ生まれ。代々高名な外科医の家に生を受け、初め海軍軍医として艦隊に乗り込んだが、父の死とともに文筆に専念。彼の名を一躍有名にしたのは、新聞の連載小説『パリの秘密』Les Mystères de Paris(1842~1843)である。パリの暗黒街にひしめく素性不明の男女、薄幸の美少女、彼女を助ける気品にあふれた人物たちが登場し、スリルと哀歓のドラマチックな展開につられ、新聞売場には読者の長蛇の列ができたという。これ以後、フランスでは新聞の連載小説が19世紀末まできわめて盛んとなる。ほかに『さまよえるユダヤ人』(1844~1845)、『七つの大罪』(1847~1849)など、いずれも大部の連載小説がある。
[宮原 信]
古代エジプトの神話で、原初の創造神から生まれた男神。同時に生まれた女神テフヌトの兄にあたり、シューは空気を、テフヌトは水蒸気を表した。この2神はしばしば2頭のライオンの姿で表される。また、この2神から地の男神ゲブと天空の女神ヌトが生まれたが、父神シューは、初め抱き合っていた2神を引き離したといわれ、墓陵の壁画などには、頭上に羽毛をのせ、上方のヌトを支える姿で表されている。その崇拝の中心地はレオントポリス(ライオンの都)であった。
[矢島文夫]
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