改訂新版 世界大百科事典 「シラカバ」の意味・わかりやすい解説
シラカバ (白樺)
Japanese white birch
Betula platyphylla Sukatchev var.japonica(Miq.) Hara
白い樹皮が美しく,高原のシンボルとして愛されるカバノキ科の落葉高木。シラカンバともいう。山火事跡地などの陽地に群生する。小枝ははじめ暗紫褐色であるが,薄く紙状にはげて白色となる。葉は長枝に互生し,短枝には2枚ずつつく。葉身は三角状広卵形で,不整の鋸歯がある。雄花序は長枝の先端部に形成され,裸出して冬を越し,新芽の開出時に下垂して花粉を散らす。雌花序は短枝に頂生し,冬芽に包まれて冬を越す。果時には円柱形の球果状となり,細長い柄があって下垂する。三叉した果鱗の腋(わき)に,広くて薄い翼をもった3果がある。熟すと果鱗とともにばらばらになって風に飛ばされ,軸のみを残す。岐阜県以東の本州,北海道,千島列島,サハリン,朝鮮,中国,シベリアに分布する。材は民俗玩具などのほか,皮つきのまま建築に使用され,またパルプ用材とされる。薪材としても火もちがよく,皮つきの枝は雨中でもよく燃える。皮を薄くはぎ,細工物や屋根ふきに用いる。材を乾留して酢酸石灰,アルコール,タールをとり,タールは皮膚発疹などの外用薬とする。最近は庭園樹にも利用される。
ダケカンバB.ermanii Cham.はシラカバより高所にはえ,樹皮は灰褐色で薄く紙状にはげる。風のためゆがんだ樹形が多い。枝は紫褐色で果穂は直立する。ウダイカンバB.maximowicziana Regelは肥沃な山の斜面に生え大木となる。樹皮を鵜飼いの松明に用いる。ミズメB.grossa Sieb.et Zucc.(別名ヨグソミネバリ)はサクラに似た樹皮をもち,枝を折るとサリチル酸メチルのにおいがする。アズサとも呼ばれ,古代には弓の材とされた。
執筆者:岡本 素治
カバの語源
カバの語は,カバノキ属の樹木を総称する場合と,チョウジザクラ,ウワミズザクラ,シラカバ,ウダイカンバなどの樹皮もしくはこれらの樹木をいう場合と2通りある。後者は古語の〈かには〉にあたるもので,古くはカバノキとサクラの仲間は,樹皮が似ているので混同されていたが,ともに曲物の材料とされた点は共通している。カバ,〈かには〉は,いずれもウダイカンバおよびオオヤマザクラのアイヌ語カリンパkarimpaによるものといわれる。
執筆者:深津 正
ゲルマンの民俗
生長の早さ,しなやかな枝,白い樹皮のためか,シラカバ(オウシュウシラカバ)は古来ゲルマン人の間で生命,生長,祝福の木とされた。このことは,女神フリッグFriggの聖樹として緑の枝が門や窓にとりつけられ,愛や喜びの印として入口に飾られたことにも表れている。また五月樹としてモミの木を圧倒していることはドイツ語のMaieという語が〈五月柱〉のほか〈シラカバの若枝〉を表すことからもわかる。シラカバは春迎えの木として聖霊降臨祭の飾りにもなる。その若枝で女や家畜の体をたたくと多産を約束するので,北ドイツでは若者が娘をたたいてから枝をプレゼントする風習もあった。またキャベツ畑の害虫を駆除したり,雷よけや家畜の病気よけにも役だつと信じられた。
執筆者:谷口 幸男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報