翻訳|thinner
塗料のコンシステンシー(稠性)を被塗物の形状,塗装方法,塗膜の乾燥条件に合わせて低くする目的で,塗装の際に塗料に加える蒸発性の液体。うすめ液ともいう。塗料に含まれる樹脂,セルロース誘導体,添加物などを析出しないこと,塗膜の白化を起こさないことなどが重要である。通常,溶剤の沸点,蒸発速度,樹脂の溶解力,混和性を指標にして,トルエンその他の芳香族炭化水素類,酢酸エステル類,アルコール類などを混合してつくられる。樹脂の溶解力の面からは,真溶剤,助溶剤,希釈剤に分けられる。真溶剤は塗膜形成主要素を単独で溶解するが,助溶剤は単独では溶解力がなく,溶剤と併用すると溶剤の溶解力を増大させる。希釈剤は単独では溶解力がなく,単に溶液の粘度低下作用のある非溶剤である。
執筆者:大藪 権昭
シンナーによる中毒は,主成分であるトルエンや酢酸エチルなどによるもので,他の有機溶剤でも同じような中毒症状を呈する。そこで,いわゆる〈シンナー中毒〉には単にシンナーによるものだけでなく,接着剤(シンナーにプラスチックを溶かしたもの),マニキュア除光液,フェルトペン,殺虫剤,各種スプレー,クリーニング液,ガソリンなどによるものも含まれる。
シンナーを含め有機溶剤は,中枢神経抑制作用,向精神作用をもち,また,造血器障害など各種の身体症状をひき起こす。シンナー中毒には急性中毒と慢性中毒がある。急性中毒の症状は,麻酔薬,睡眠薬,酒などによる酔っぱらい状態に似た陶酔感を伴い,常習者はこれを〈ラリる〉と呼ぶ。多幸感,めまい,抑制不能,判断力低下,奔放,偉くなった感じ,全能感などを伴い,攻撃的,衝動的となり,反社会的行動を起こすことがある。大量吸入により急性中毒が重症になると,呼吸困難,血圧下降,循環障害で死ぬ。人間では10ml余りのシンナーの蒸気を吸って死んだ例がある。しかし,一般にシンナー中毒というと,上記の急性中毒よりも慢性中毒(依存症)を指すことが多い。吸入したいという欲望が強まり,吸わないと精神状態が不安定となる精神的依存の形成が速やかで,しかも強い。シンナーが手に入らないと,ガソリンなどあらゆる代用品を探す。吸入しないと痙攣(けいれん)などの身体症状が出るなどの身体的依存は確認されていないが,慢性的に吸入すると,体重減少,震え,頭重感,めまい,不眠,食欲減少,吐き気,下痢,肝臓障害,血液障害,気管支炎などを起こすほか,無気力,忘れっぽさ,幻覚,妄想などの精神症状を示し,精神分裂症に似た状態になることがある。また脳波異常も起きる。治療は対症療法しかないので吸入防止がたいせつである。
揮発性有機溶剤吸入については,1900年にベンゼン蒸気を習慣的に吸入したことによる症例が報告されているが,爆発的に流行したのは第2次大戦後である。1947年にスウェーデンでシンナー吸入,1940~50年代に英米でガソリン吸入,1960~63年にアメリカでプラモデル用接着剤吸入(これをglue sniffingといった)が大流行した。日本では1960年代後半からシンナー蒸気吸入がいわゆる〈シンナー遊び〉として青少年の間に流行し,68年にはシンナー乱用によって補導された少年は2万人余,死者110人にのぼった。シンナー遊びは中毒による各種症状や死者の続発また中毒によってひき起こされる暴力行為等が深刻であるのはもちろんだが,シンナーを入手するための盗み,恐喝,暴行なども相次ぎ,重大な社会問題となった。そのため72年8月毒物及び劇物取締法が改正され,シンナーなどの販売や乱用が規制されたが,シンナー遊びそのものはまだ後を絶っていない。
執筆者:小林 司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
塗料の粘度を下げるために用いる有機系の混合溶剤の総称。塗料用シンナーは油性塗料に用いられ、脂肪族炭化水素系である。ラッカーシンナーは芳香族炭化水素、エステル、アルコールなどであり、いずれも引火しやすい。
なお、1967年(昭和42)から68年にかけて社会問題化した青少年のシンナー遊びは、61年9月ごろから流行した睡眠薬遊びにかわって現れたもので、ポリエチレン製の袋の中にシンナーの蒸気を満たし、その蒸気を吸引すると短時間のうちに酔迷状態に陥り幻覚に襲われる。乱用者には脳神経を冒される者が多い。そのために青少年へのシンナーの販売が規制されている。
[垣内 弘]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
塗料の希釈や粘度調節に加える溶剤.塗料用シンナーは油性塗料に用いられ,脂肪族炭化水素系である.ラッカーシンナーは芳香族炭化水素,エステル,アルコールなどであり,いずれも引火しやすい.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
… これらの規定の違反に対しては,登録の取消し,営業の全部または一部の停止処分がなされうる(19条)ほか,刑罰も規定されている(24~27条)。 さらに,シンナー等の濫用に対処するため,1972年の改正によって,興奮,幻覚または麻酔の作用を有する毒物または劇物であって政令で定めるものを,みだりに摂取・吸入またはこれらの目的で所持することを禁止・処罰する規定が設けられた(3条の3,24条の3)。また,引火性・発火性または爆発性のある毒物または劇物で政令で定められたものを,業務その他正当な理由なく所持することも,禁止・処罰されることとなった(3条の4,24条の4)。…
… このほか,青少年の間では,1960年ころから睡眠剤の乱用が流行しはじめた。これが薬事法の改正等によっておさまった後は,65年ころからシンナー等の有機溶剤が乱用されるようになった。そのため,72年に〈毒物及び劇物取締法〉(毒劇法)が改正され,シンナー,接着剤等の乱用行為・知情販売行為が禁止,処罰されるようになった。…
※「シンナー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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