翻訳|Stendhal
フランスの小説家。本名アンリ・ベールHenri Beyle。地方都市グルノーブルの富裕なブルジョア家庭の生れ。7歳で母を失い,父や家庭教師に代表されるブルジョア的偽善を憎みつつ反抗的な少年時代を送る。数学に優れたため,16歳でパリに出て,名門校受験の機会に恵まれたものの,彼の本心は〈モリエールのような劇作家になる〉ことにあり,結局は受験を放棄,やがてナポレオンのイタリア遠征軍に加わり1800年春ミラノの土を踏む。灰色の年月の後に訪れた解放としてのイタリア体験は決定的だった(彼が自ら選んだ墓碑銘は〈アッリゴ・ベール,ミラノ人。生きた,書いた,愛した〉である)。まもなく軍職を離れ,パリで1805年ごろまで劇作家を目ざして文学修業に精進するが,少年時代以来,彼の精神形成に最も深くかかわったのは18世紀的合理主義であり,この時期の修業は後年の作家の形成に深い意味をもつ。その後再び軍属としてナポレオン軍に従い,モスクワ遠征を含む外地体験を積み,また官吏としてパリで華やかな生活も経験した。
1814年帝政崩壊とともに失職,以後文筆活動が本格化する。第二の故郷イタリアでの長期滞在,多く不幸な結末に終わる数々の恋愛事件,筆禍によってミラノを追われパリで文壇を放浪した失意の時代を経るうち,評伝,旅行記,美術評論,文芸時評に筆を染めた。なかでは《恋愛論De l'amour》(1822)が有名だが,小説としては《アルマンス》(1827)が処女作である。長い不遇の後,1830年七月革命後の政変で領事職を得たが,この年発表した《赤と黒》が彼の代表作となる。以後ローマ近郊のチビタベッキアに領事として駐在する一方,休暇を得て何回かパリに長期滞在する生活が続き,その間に長編小説《リュシアン・ルーベン》《ラミエル》,自伝《エゴティスムの回想》《アンリ・ブリュラールの生涯》(いずれも未完,死後発表)を執筆,また《カストロの尼》(1839)をはじめとする《イタリア年代記》の諸編,《旅行者の手記》(1838)などを発表したが,38年パリで口述筆記により完成した長編《パルムの僧院》こそ生涯の傑作であろう。死は,42年パリ滞在中に,街頭で脳卒中のかたちで彼を襲った。
ロマン派の時代に生きながらロマン派の饒舌に耐ええなかった感性豊かな魂が,18世紀的合理精神に拠りつつ,自らの内面の自伝を語るとすればどうなるか。その答えがスタンダールの小説の書き方だったといってよいだろう。時代の偽善,退廃,抑圧に抗しつつ,ひたすら自由を希求する精神が〈生き〉,〈愛する〉ためには,どのように行動し,どのような内面の劇を経験しなければならなかったか,それをスタンダールはいっさいの虚飾を去った簡潔な文体で〈書いた〉。すべては主人公の眼を通して見られ,主人公の内面の劇として語られる。心理分析の小説として,時代を告発する政治小説・社会小説として,未到の境地をひらきえたゆえんであり,近代小説の一典型として今なお多くの読者をもちうるゆえんでもある。文体と手法の斬新さが,生前の不評,死後の栄光をもたらしたのはある意味で当然のことであった。
執筆者:冨永 明夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
1783~1842
フランスの小説家。グルノーブルに生まれ,陸軍に勤務後文筆生活に入る。『赤と黒』『パルムの僧院』などを書き,時代を批判した。精緻な心理解剖に優れ,文体は簡潔である。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…自我主義と訳される。利己主義を意味するエゴイズムと区別して,スタンダールがとくに好んでこの言葉を使用した。〈エゴティスムといえども,`それが誠実なものである限り’,人間の心を描き出すひとつの方法である〉(スタンダール《エゴティスムの回想》)。…
…散文では,言語という手段を純粋な機能だけに限定するために,簡潔,平明,的確などが貴ばれる。スタンダールが法典の無味乾燥な文体を散文の理想としたことは知られているが,彼はロマン派の修飾や連想や色彩に満ちた文章に対して,非情で正確な抽象語のうちに,人間情熱のあらゆるもつれを冷酷に解析するための用具をみたのである。したがって事物そのものの堅固さに達しようとしながら,彼の散文は極度に抽象化され,記号化されている。…
…フランスの小説家スタンダールの長編小説。1839年刊。…
※「スタンダール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
世界各地で古くから行われている遊戯の一つ。日本では,小豆,米,じゅず玉などを小袋に詰め,5~7個の袋を組として,これらを連続して空中に投げ上げ,落さないように両手または片手で取りさばき,投げ玉の数や継...
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
6/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
5/20 小学館の図鑑NEO[新版]昆虫を追加
5/14 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新