セミクジラ(英語表記)black right whale
Eubalaena glacialis

改訂新版 世界大百科事典 「セミクジラ」の意味・わかりやすい解説

セミクジラ
black right whale
Eubalaena glacialis

ヒゲクジラ亜目ホッキョククジラ科の哺乳類。セミクジラ科では7個の頸椎は全部融合している。温帯亜寒帯に分布し,体長17mに達する背びれのないクジラ。頭部は体長の1/4ないしそれ以上。上あごは下方に湾曲し細い。下唇は大きい。頭部には多数の角質の瘤を有し,上あご前端にある最大のものをボンネットと呼ぶ。これらにはクジラジラミなどが寄生し,白っぽく見える。ひげ板は黒色~青黒色で二百数十枚あり,質は柔軟で長さ2.8mに達する。ひげ板の内縁に生える剛毛も同色。へその周囲の不規則な白斑を除き全身黒色で,肥満する。畝はない。冬期に温帯の沿岸域で繁殖する。妊娠期間は約1年,3年に1回1子を出産する。永続的な群れは1年以内の哺乳期間に限られる。餌はもっぱら甲殻類カラヌスオキアミに限られる。本種は,かつては豊富であったが,動作がおそく,死体が浮くため古くから捕獲され絶滅に瀕(ひん)した。国際条約で1936年から捕獲禁止となったが,日本沿岸で捕獲が禁止されたのは1946年である。日本近海では冬には毎年のように1~2頭の出現が報告されている。近縁のホッキョククジラBalaena mysticetusはやや大型で,ボンネットがなく,北極圏に生息する。南半球個体別種ミナミセミクジラB.australisとして区別することがある。コセミクジラCaperea marginataは南半球の温帯にいる体長6~7mの小型種。
クジラ
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セミクジラ」の意味・わかりやすい解説

セミクジラ
Eubalaena glacialis; northern right whale

クジラ目ヒゲクジラ亜目セミクジラ科セミクジラ属。体長 17~18m。体重 80~100t。出生体長 4.5~6m。全身黒色を呈するが,部分的に白斑がみられるものがある。頭部が著しく大きく体長の3分の1に達する。下顎の上縁が大きく弓状にせり上がっているために頭部上面から観察できる。上顎と下顎にはかさぶた状になった角質層の盛上がりがみられ,個体によってその数や形状が異なるので,個体識別に用いられている。胸鰭 (むなびれ) と尾鰭は大きく,背鰭はない。噴気孔は2個で,左右に離れているために噴気がV字状に 5m近く吹上がる。口内の上顎上面に片側 200~270枚のくじらひげを有し,なかには長さ 3mに達するものもある。ひげの板状部および繊毛部は茶灰色あるいは黒色。開いた口の正面から海水を取込みくじらひげでこし取るようにして,おもに浮遊性甲殻類のカラヌス類を捕食している。遊泳速度が遅く,動作が比較的緩慢である。出産期は冬~春で,繁殖場は熱帯あるいは亜熱帯域。温帯から亜寒帯収束水域にかけて生息する。皮下に厚い脂肪層を有するために鯨油採取の目的から 11世紀頃より捕獲の対象となり,現存数が激減したため 1936年に全面捕獲禁止となる。絶滅危惧種

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セミクジラ」の意味・わかりやすい解説

セミクジラ
せみくじら / 背美鯨
right whale
black right whale
[学] Eubalaena glacialis

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目セミクジラ科のヒゲクジラ。体長15~18メートルであるが肥満型で、体重は100トンに近いものもある。北大西洋と北太平洋の温暖な海に生息する。南半球にいるものは、本種の亜種または別種と思われる。全身黒色で腹部に白斑(はくはん)のあるものもある。頭部は大きく、体長の約4分の1を占めている。背びれはなく、畝(うね)もない。吻(ふん)の上面と下顎(かがく)の縁に、表皮の変形してできた角質の隆起物が散在する。そのうち吻端付近のものをボンネットという。口の中には片側に250枚内外の長いくじらひげがあり、これで浮遊性のカラヌスを漉(こ)して食べる。19世紀には全世界の温暖な海洋において捕鯨帆船で多獲され、日本では江戸時代に、南は三重県から高知県まで、日本海側では山口県から長崎県にかけて、網取式捕鯨で捕獲された。現在は国際捕鯨条約により捕獲が禁止されている。

[大村秀雄]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵mini 「セミクジラ」の解説

セミクジラ

ヒゲクジラ亜目セミクジラ科セミクジラ属に属する大型のクジラ類の一種。背びれのない背中が美しいことから、日本では「セミクジラ」(背美鯨)と名付けられた。体色は黒で、体長は15〜20メートル。頭部は体長の4分の1以上を占めるほど大きく、こぶ状の突起がある。食生は肉食で、動物プランクトンなどの微生物を食べる。北太平洋に生息し、夏季は繁殖のため北に、冬季は越冬のため南に回遊するとされるが、詳しい生態は解明されていない。古くから日本やアラスカなどで捕鯨の対象とされ、19世紀には欧米諸国による商業捕鯨も活発化したことから、個体数が激減。1935年より国際捕鯨委員会(IWC)が国際法による保護を行っている。96年以降は国際自然保護連合(IUCN)がレッドリストに絶滅危惧種として指定している。日本沿岸部やベーリング海など各地で目撃例はあるものの、2014年現在、正確な個体数は分かっていない。

(2014-2-3)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

百科事典マイペディア 「セミクジラ」の意味・わかりやすい解説

セミクジラ

クジラ目セミクジラ科のヒゲクジラ。平均体長メス16m,オス15.2mほど。くじらひげは細長く最長2.8mに達する。ボンネットと呼ばれる頭部の隆起が特徴で,体色は黒。北太平洋,北大西洋,南半球南部に分布。北半球産種をセミクジラ,南半球産種をミナミセミクジラとする説もある。全身にクジラジラミが寄生するものが多い。乱獲のため絶滅にひんし,現在は国際捕鯨取締条約で捕獲を禁止されている。
→関連項目クジラ(鯨)鯨肉バルデス半島

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android