鯨油(読み)ゲイユ(その他表記)whale oil

翻訳|whale oil

デジタル大辞泉 「鯨油」の意味・読み・例文・類語

げい‐ゆ【鯨油】

ヒゲクジラ類から採取した油。悪臭を防ぐため水素を添加して硬化油とする。

くじら‐あぶら〔くぢら‐〕【鯨油】

から採取した油。灯火用などにした。げいゆ。

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精選版 日本国語大辞典 「鯨油」の意味・読み・例文・類語

くじら‐あぶらくぢら‥【鯨油】

  1. 〘 名詞 〙 鯨から採った油。臭気のある安価な油で、主として、灯火用とされた。げいゆ。
    1. [初出の実例]「とりまぜての高声に、鯨油(クジラアブラ)の光のよしあし」(出典:浮世草子好色一代女(1686)三)

げい‐ゆ【鯨油】

  1. 〘 名詞 〙 鯨の脂皮、脂肉、骨、臓肉など体の各部から得られる油。灯油、せっけん原料、グリセリン原料、皮革・食品工業などに用いられた。〔造化妙々奇談(1879‐80)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「鯨油」の意味・わかりやすい解説

鯨油 (げいゆ)
whale oil

クジラの脂皮(真皮中の脂肪層,ブラッパー),脂肉,舌,内臓,骨などから採取した油。鯨油にはシロナガスクジラナガスクジライワシクジラザトウクジラなどのヒゲクジラ類から採取したナガス鯨油と,マッコウクジラツチクジラのようなハ(歯)クジラから採取したマッコウ鯨油がある。両者は成分的にも異なり,通常鯨油という場合はナガス鯨油をさす。捕鯨の歴史は古く,日本では慶長年間(1596-1615)には紀州太地浦に捕鯨場が開かれており,西欧でも10~11世紀にビスケー湾を中心に行われ,鯨油が採取されていた。近年クジラ資源量が急減し,工業原料としての鯨油の存在はすでに失われてきている。

国内の捕鯨基地では,脂皮は切断し,鉄がまに入れて直火で加熱し,浮上したてんぷら状の脂皮をすくい上げ〈いり皮〉として食用とし,かま中の残油を脂皮油とした。骨油,臓油は原料を蒸しがまで2~3kg/cm2の加圧下で約10時間煮熱し,油を溶出させ,これを連続式遠心分離機で分離した。捕鯨母船上では,脂皮はハルトマンボイラー,骨,内臓はクワナーボイラーという加圧がま中で,その内部回転装置でかきまぜつつ短時間で効率よく加熱処理する。鯨油の採取量はクジラの種類,産地,年齢で多様であるが,シロナガスクジラ1頭の平均採油量は120バレル(19.6kl)とされる。以前国際捕鯨条約では,含油量の最も高いシロナガスクジラを基準として,シロナガスクジラ1頭=ナガスクジラ2頭=ザトウクジラ2.5頭=イワシクジラ6頭,の換算率が用いられていた。日本では,かつては年間約7万4000t(1969)生産されたことがあるが,将来はその生産は期待しえない。

ナガス鯨油はグリセリンと脂肪酸が結合したグリセリド主成分とし,約1%の不ケン化物を含む。構成脂肪酸は飽和脂肪酸約25%で,パルミチン酸が主成分。高度不飽和脂肪酸は約15%で他は大部分オレイン酸である。魚油に比較して,高度不飽和脂肪酸の含量が少なく,変質しにくく,長期の保存に耐える。マッコウ鯨油のみはセチルアルコールC16H33OH,オレイルアルコールC18H35OHなど高級一価アルコールの脂肪酸エステルで,液体の蠟である。

古来,灯用,セッケン原料,グリセリン原料,製革工業,鉄鋼用焼入れ,減摩剤に用いられた。水素添加した硬化鯨油はセッケン,食用油(マーガリン,ショートニングオイル等),化粧品原料としても広範囲に利用されている。マッコウ鯨油は食用にはならず,精密潤滑油,硬化してろうそくの原料,界面活性剤用の直鎖高級アルコール原料として用いられたが,今日では合成品に代替されている。
執筆者:

鯨油が盛んに利用されるようになったのは捕鯨業が発達した江戸時代,とくに後期以降である。最初はおもに灯用に供されたが,1732年(享保17)の大飢饉後,稲の害虫駆除に利用されはじめ,文化・文政ころには九州,四国,中国地方にまで広く除蝗(じよこう)のために使われるようになった。幕末の農学者大蔵永常の著《除蝗録》(1826)には,一般に油での害虫駆除は元禄・享保ころまでは知られていなかったが,筑前国で菅公の廟の灯明の油に虫が飛びこんで死ぬのを見て思いつき,水田に鯨油を注いでその上へ虫を落として駆除したとある。明治前期にも鯨油は依然としておもに除蝗用に使われたが,その後,石油その他の化学薬品が使用されるに及んで漸次減少した。大正年代には硬化油工業の発達とともにその原料としての需要が増大し,一方では海外への輸出が急に増加した。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鯨油」の意味・わかりやすい解説

鯨油
げいゆ
whale oil

ナガスクジラ、シロナガスクジラなどのヒゲクジラ類の脂肉から採取するグリセリドを主成分とする油(ナガス鯨油(げいゆ))。シロナガスクジラは世界最大の獣であって、1頭から得られる鯨油は15トンを超える。また、マッコウクジラ、ツチクジラなどのハクジラ類から得られるマッコウ鯨油は、主成分がろうであり、通常、鯨油というときは前者をいう。北極海では鯨類の乱獲がたたり、捕鯨ができかねる程度に減少している。南極海における捕鯨では、鯨類の繁殖を主目的として国際的に捕鯨量を制限している。そのために鯨油の生産量は減少した。

[福住一雄]

採油法

捕鯨船が海岸基地に着いたとき、クジラの脂肪組織は、クジラから切り分けられる。採油は、南極海捕鯨船隊の大きな船上で溶出法により行われている。クジラの脂肪組織は波形の金属ローラーにより細断され、予熱器に送られ、水平溶出器に移される。ここに水蒸気を送り、回転する有孔円筒中で連続的に攪拌(かくはん)しながら、クジラ脂肪組織を加圧蒸煮する。クジラの骨油は、骨を破砕器で砕いてから、鯨油と同様にして採取される。クジラの肝油は、アルカリ浸漬(しんし)および溶剤抽出法でとられる。このようにして得られる鯨油の性状は良好で、酸価は1~2程度である。

 ナガス鯨油、イワシ鯨油のけん化価は190程度、ヨウ素価はそれぞれ130、140程度。炭素数20、22の高度不飽和脂肪酸をも含んでいる。クジラの原油、精製油、硬化油は、せっけん、食用脂、皮革、塗料、印刷インキおよび潤滑油に用いられる。

[福住一雄]

利用の歴史

有史以前からクジラが海岸に接近する地方では、これを多勢で捕らえて食用や灯用に供した。鯨油が盛んに利用されるようになったのは、捕鯨業が成立するようになってからで、ヨーロッパでは10世紀にフランスのバスク地方において、日本では17世紀の初めに紀州で勃興(ぼっこう)した古代捕鯨時代からである。

 日本では、1732年(享保17)の大飢饉(ききん)後、稲作の害虫駆除に利用されだして各地に広がっていった。これは水田に鯨油を注いでその上に害虫を落として駆除したもので、明治に入り石油その他の化学薬品が使用されるに及んでしだいに減少していった。

[大村秀雄]

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百科事典マイペディア 「鯨油」の意味・わかりやすい解説

鯨油【げいゆ】

クジラの脂肉,皮,骨などから得られる油。シロナガスクジラ,ナガスクジラ等のヒゲクジラ類から得られるナガスクジラ油と,マッコウクジラ,ツチクジラ等のハクジラ類から得られるマッコウクジラ油がある。前者は各種脂肪酸のグリセリド,後者は液体蝋を主成分とする。煮取法,煎取(いりとり)法で採取,硬化油とし,マーガリン,セッケンの製造原料,鋼の焼入油,製革用油などに利用された。商業用捕鯨の制限により,工業用原料としてはすでに失われている。
→関連項目動物油脂捕鯨母船

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鯨油」の意味・わかりやすい解説

鯨油
げいゆ
whale oil

クジラ類の肉や骨から得られる油。これらを煮たり炒ったりして採取する。マーガリン,石鹸,硬化油,製革油などとして用いるが,魚油より保存性が高い。おもにマッコウクジラナガスクジライワシクジラなどから採取する。

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化学辞典 第2版 「鯨油」の解説

鯨油
ゲイユ
whale oil

クジラの脂肉や骨などから煮取法または煎取法によって得られる.主成分はゾーマリン酸,オレイン酸,鯨油酸,イワシ酸,パルミチン酸などのグリセリド硬化油,せっけん,マーガリンなどの製造,灯用,製革用油などの広範囲で用いられる.

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栄養・生化学辞典 「鯨油」の解説

鯨油

 クジラ類の脂肉から採油される油脂.ただしマッコウクジラからは液状のろうのみ採油される.硬化油としてマーガリン,ショートニングの原料油に,またセッケンなどの工業用にも用いられた.

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旺文社日本史事典 三訂版 「鯨油」の解説

鯨油
げいゆ

クジラからとった油
鯨油採取を主目的として,江戸時代,特に後期以降に捕鯨が盛んとなった。安価な灯油として,またウンカ(稲の害虫)駆除の特効薬として用いられた。

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世界大百科事典(旧版)内の鯨油の言及

【イネ(稲)】より

…第2次世界大戦後には,2,4‐Dをはじめとする各種の除草剤が導入され,除草作業は一気に化学的除草へと変身してきている。 また害虫の防除についてみると,明治時代にはウンカ類に対する注油法(田面に鯨油や灯油をまき,虫をそこに払い落として殺す)など限られた方法のほかは有効な手だてはなかった。大正時代にはニカメイガの誘蛾灯による誘殺のほかは,卵や幼虫の捕殺が行われているに過ぎない。…

※「鯨油」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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