翻訳|Saint Lucia
中央アメリカの西インド諸島東部、小アンティル諸島中のウィンドワード諸島にあるセント・ルシア島を国土とする国。面積616平方キロメートル、人口16万7000(2006年推計)、17万2000(2008年推計)。首都はカストリーズ。セント・ルシア島は火山性の島で、島の南部には最高峰のギミー山(950メートル)とピトンズとよばれる双子火山があり、これらの山地を熱帯雨林が覆っている。この双子火山は2004年に「ピトンズ・マネジメント・エリア」(ピトン管理地域)として世界自然遺産に登録された。なお、セント・ルシアの名称は、コロンブスが島を「発見」したとされる日が聖人ルチアの祝日であったことに由来するといわれている。
1605年と1638年の二度にわたってイギリス人が入植を試みたが、先住民のカリブ人に殺害されるかあるいは追い出された。1660年にフランス人が入植に成功したが、その後150年間にわたってフランスとイギリスが島の領有を争い、14回も帰属がかわった。1814年のパリ条約によって最終的にイギリス領となった。1967年にイギリスの自治領となり、1979年2月イギリス連邦の一員として独立した。同年に国連加盟。
政体は立憲君主制で、元首はイギリス国王。議会は二院制で、上院は11議席でイギリス国王の代理である総督が議員を任命する。下院は17議席で、直接選挙により議員を選出する。ともに任期は5年。首相は、下院多数派の代表が総督の任命により就任し、内閣を組閣する。
おもな産業は農業で、肥沃(ひよく)な火山性土壌を利用してバナナ、ココナッツ、マンゴー、アボカド、柑橘(かんきつ)類が輸出用に栽培され、なかでもバナナは輸出総額の約25%を占めている(2005)。これらの農業活動は、所有農地2ヘクタール以下の小農民が中心に行っている。2001年以降減少していた観光客数は、2004年から増加に転じ、観光業からの収入は輸出総額を超え、セント・ルシアの重要な産業となっている。アメリカからの観光客が全体の35%を占める(2005)。バナナの輸出による収入は1960年代から国家の発展に寄与してきたが、ラテンアメリカ諸国からの安いバナナとの競合やEU諸国の貿易特恵が無くなったことによってバナナ産業は衰退している。政府は農業生産の多角化を促進するために、農民にココア、マンゴー、アボカドの栽培を奨励している。通貨は東カリブ・ドル(ECドル)。
公用語は英語で、フランス語と先住民の言語との混合語のパトワ語(クレオール語)も使われている。住民の大部分(96%)はアフリカ系黒人とその混血で、3%がインド系。白人は1%に満たない。
宗教はキリスト教カトリックが大部分を占め、ほかにイギリス国教会など。
日本とは1980年(昭和55)に外交を樹立。貿易では、日本へ可変抵抗器、温度計、バイロメーター、光学媒体などを輸出しているが、輸出額はわずかである。日本からは自動車などを輸入し、輸入額は8.7億円である(2010)。
[菅野峰明]
基本情報
正式名称=セントルシアSaint Lucia
面積=616km2
人口(2010)=17万人
首都=カストリーズCastries(日本との時差=-13時間)
主要言語=英語,パトア語
通貨=東カリブ・ドルEast Caribbean Dollar
カリブ海東方,小アンティル諸島南部のウィンドワード諸島にある単独の島国。火山島で,地形は山がちであるが,肥沃な土地に恵まれ,最高峰のモーンギミ山(950m)を中心とする放射状の河川沿いに耕地が開けている。住民は,ほとんどがアフリカ系黒人かその混血だが,インド系住民や白人も若干見られる。公用語は英語だが,実質的にフランス領であった時期が長いため,フランス語系のクレオール語が広く使われるなど,フランス領時代の文化的伝統が色濃く残っている。カトリックの信者が多いこともその一つの現れである。首都のカストリーズが最大の都市で,人口は約5万5000人である。
1502年12月13日の聖ルキアの日(国の祝日)にコロンブスが〈発見〉したといわれているが,ヨーロッパ人による〈発見〉の年代は定かではない。17世紀に入ってイギリス人,フランス人,オランダ人らが入植を試みたが,疫病と先住民カリブ族の抵抗にあい,いずれも失敗した。その後17世紀半ばにフランス人が入植に成功し,カリブ族と平和協定を結んで植民を進めた。18世紀半ばにカリブ海で砂糖生産が盛んになると,島の領有をめぐって英仏が対立するようになり,1814年のパリ条約でイギリスへの帰属が確定した。この間,英仏両国はアフリカから奴隷を移入し,彼らの子孫が今日の住民の大部分を占めている。20世紀に入ってからしだいに民主制が導入されるようになり,1958年には西インド諸島連合の結成に参加した。同連合解体後は67年に内政自治権を獲得したが,74年のカリブ共同市場加盟後,独立の要求が高まり,78年12月のイギリス議会の承認を経て,翌79年2月22日独立を達成した。イギリス連邦内の自治国で,英国女王の名代である総督が形式上統治する。議会は総督指名制の上院(11名)と選挙制の下院(17名)から成り,下院の多数党党首が内閣を組織する。東カリブ諸国機構に加盟しており,司法は東カリブ裁判機構に属する。
かつてこの島の基幹産業であったサトウキビ栽培は,現在ではバナナ栽培と観光業によってとって代わられている。このうち,バナナの他にマンゴー,ココナッツ,カカオなど輸出用作物を中心とする農業部門は,国内総生産の14%,就業人口の40%を占めている。その中でも最も重要なのは輸出の約6割に及ぶバナナであるが,ハリケーンなど天候に左右される弱点があるほか,主要輸出先のEUが優遇措置の撤廃を検討するなど不確定要素が多いため,産業の多角化が急務である。工業は農産加工が主体だが,外資による輸出向け軽工業が伸びている。輸入では食料と工業製品が多く,貿易は恒常的な赤字で,外国借款や観光収入で補っている。輸出ではイギリス,輸入ではアメリカが最大の相手国である。1995年の1人当り国民総生産は3370ドル。
執筆者:橋本 芳雄+志柿 光浩
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