音の構成(どのような周波数の音がいかなる強さを含むか)が時間とともにどのように変化するかを記録する装置。第2次世界大戦中に開発された音響分析器械で,発話における言語音声(音声学)のように,短い時間に次々にその構成要素が変わっていく音を分析するのには便利な装置である。正式には音声スペクトログラフsound spectrograph,また通称単にスペクトログラフとも称し,これによって得られる図形をスペクトログラムspectrogramというが,しばしばその商品名であるソナグラフの名で呼ばれ,その図示をソナグラムsonagramという。
図1は母音[a]のソナグラムを示している。ここでは横軸が周波数を,縦軸が音の強度を表示するデシベルdBの単位を表している。音波の性質は波の高さ(振幅)と単位時間内に生じる波の数(周波数)により決まる。振幅が大きく周波数が多くなるほど音は大きく聞こえ,それだけに費やすエネルギーつまり音の強さも大となる。こうした異なる音の相対的強さを表す単位がデシベルで1dBの違いは人間の耳で聞き分けられる強さの違いに相当する。そして20dBでは強さは100倍となる。いま帯域フィルターをかけて強さが強ければ濃く,弱ければ薄く記録するように仕掛けておくと図2のような英語の二重母音[a]の音声ソナグラムができる。ここでは縦軸が周波数を,横軸が時間を示している。図面に4本の横縞が浮き出ているが,これらはそれぞれの周波数で示された付近にその音の特徴をなす強さ,すなわち高い振幅が生じていることを意味する。下から第1,第2,第3,第4フォルマントと名づけられ,重要なのは第1フォルマント(F1)と第2フォルマント(F2)である。前半の[a]では,710Hzと1100Hzあたりに,後半の[]では,400Hzと1900Hzにフォルマントが位置している。そして100ミリセカンドmsec(1秒の1000分の1)あたりから2本のフォルマントが離れていく。つまりこのようにして舌の移動するようすが図表の上でとらえられるのである。なお細い縦線は声帯振動により音声が細かく区切られていることを表す。声道には舌の盛上りにより舌の前部と後部に二つの共鳴室ができる。[]では前の共鳴室が小さく後の共鳴室が大となるため,F1は低い周波数にF2は高い周波数に現れる。[a]では逆に前の共鳴室が大で後の共鳴室が小となるため,F1は高い周波数にF2は低い周波数に現れる。すなわち[]ではF1とF2の間隔がひらき,[a]ではせばまる結果となる。このようにF1とF2は舌の前と後の共鳴室から生じる共鳴音の大小に反応している。
いまやソナグラフは単に言語音声を音響的に分析するためのものではなく,ソナグラフの原理を逆転させることにより,ソナグラムに印された図形を読み取って音声に変えることもできる。ソナグラムにフォルマントを記入することにより合成音(音声合成)を作成することが可能となっているし,コンピューターにソナグラフを結合させて言語音声を識別させたり発音させたりする研究も進んでいる。
執筆者:小泉 保
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…音節の基本的構造はCV(C)で表されるが,言語により末位の(C)を欠くものもある。 音響的には,閉鎖音はスペクトログラム(ソナグラフ)に空白で示される。摩擦音では図面にかすれが生じ,歯擦音の場合はとくに著しい。…
…こうした共鳴室に応じて母音は三つの固有の倍音すなわちフォルマントをもつ。音声分析装置ソナグラフにより図示されたソナグラムには,周波数の縦軸に沿って3本の濃い線が現れる。これを下から第1,第2,第3フォルマントと呼ぶ。…
※「ソナグラフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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