精選版 日本国語大辞典 「音」の意味・読み・例文・類語
おん【音】
と【音】
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弾性的な媒質中を伝播(でんぱ)する波。とくに空気中を伝わって聴覚によってとらえられるものだけをいう場合もあるが、音はほとんどの気体、液体、固体中を伝播する。いま、太鼓をたたく場合を考えると、空気の疎密の状態が水面の波のように広がっていく(疎密波)。すなわち、音の伝播は波の形をとるので、音は物理学的には音波といわれる。疎密波の場合、密の部分は空気の圧力が高く、疎の部分は低い。したがって空気中の音波は圧力波であるともいえる。疎密波は媒質を構成する粒子(気体分子など)の運動の方向と波の進む方向が一致している縦波である。気体および液体中の音波は通常は縦波であるが、固体中では縦波のほかに横波も伝播しうる。
もっとも単純な音波は正弦音波とよばれるもので、空間のある点xでの時刻tにおける音圧、すなわち音波の圧力pは
p=A sin(2πx/λ-2πft)
と表される。Aは振幅、すなわち音圧の最大値、λは波長、すなわち音波の山から山までの距離である。また、fは振動数または周波数とよばれ、1秒間に繰り返される回数であり、ヘルツ(Hz)という単位で表される。波の伝播する速さ、すなわち音速cはc=fλの関係から求められる。
[比企能夫]
人の耳やマイクロホンは音波の音圧を検知して音の存在を知る。したがって音圧は重要な量であるが、これは時間的にプラスとマイナスの間を変動しており、単に平均するとゼロになってしまう。そこで通常は実効音圧として、音圧の2乗の平均の平方根が用いられる。正弦音波については、これは振幅Aの約0.7倍となる。一般の音波の場合、実効音圧がであるとき
20 log(/
0)
で計算される量を音圧レベルとよぶ。これは音の強さを示す量の一つである。ここでlogは常用対数であり、0は正常な聴覚をもつ人が聞くことのできる振動数1000ヘルツの最小の音に対する実効音圧で
0=2×10-5 Pa
を選ぶ。ここでパスカル(Pa)は圧力の単位である。音圧レベルの単位としてはデシベル(dB)を用いる。
[比企能夫]
音の強さは物理学的にはそれのもつエネルギーで定義される。音波の進行方向に垂直な単位面積をとり、そこを単位時間に通過する音波のエネルギーをIとするとき、10 log(I/I0)で与えられる量を音の強さのレベルという。I0は前述の0に対応するエネルギーである。正弦音波では音の強さのレベルは音圧レベルに一致する。
音の強さの絶対測定にはレイリー板が用いられる。これは石英糸または白金線で薄い雲母(うんも)板をつるしたものであり、これに音波を横から斜めに入射させたときの回転角から音の強さを定めることができる。
[比企能夫]
同じ振動数の二つの音波が重なると、音波の振幅がそれほど大きくないときには、全体の音圧はそれぞれの波の音圧の和になる。これを波の重ね合せの原理という。その結果、ある場合は山と山、谷と谷が重なって振幅が大きくなり、またある場合は山と谷が重なって打ち消し合い、振幅は小さくなる。この現象を音の干渉という。また、二つの波の振動数がわずかに違う場合、重なり合った波の振幅は時間とともに規則的に大きくなったり小さくなったりする。この現象はうなりとよばれる。うなりの振動数は二つの波の振動数の差となる。
[比企能夫]
一般に自然界で発生する音波はきれいな正弦音波ではなく、複雑な波形をしている。これは振動数の異なるいくつかの正弦音波が重なり合った結果であり、複合音とよばれる。これに対し、ただ一つの正弦音波からなる音を純音という。任意の波形の波にどのような振動数の波がどんな割合で含まれているかを調べるには、フーリエ解析という数学的方法が利用される。ある音を成分音に分解し、それぞれの成分音の強さを並べたものを音のスペクトルという。ある音を成分に分けたとき、もっとも低い振動数をもつ成分音を基音(基本音)、それ以外の成分音を上音という。弦楽器や管楽器の音は基音と、その整数倍の振動数をもついくつかの上音によって構成されている。このような上音は倍音とよばれる。どの倍音がどれだけ含まれているかによって楽器の音色がほぼ決まるが、これは楽器演奏の仕方によっても変わる。以上は原理的なことであり、実際の楽器の音色にはもっと多くの要素が関係しており、複雑である。
[比企能夫]
人間の聴覚が感知できる音を可聴音といい、その振動数と強さにはある範囲がある。正常な人の聴覚は16ヘルツ~2万ヘルツの間の振動数の音を聞くことができるが、これ以上の振動数の音波のことを超音波という。一方、強さに関しては、前述のように、人間が感知できる最小の音圧は2×10-5 Paである。また耐えうる最大の音圧は60Pa程度であり、音圧レベルでほぼ130デシベルとなる。ただし、音の強さを表す音圧レベルまたは音の強さのレベルは物理学的に決められたものであり、感覚的には振動数が異なる音は異なった大きさに聞こえる。そこで感覚的な音量の単位としてフォン(phon)が使われている。なおこの「フォン」は騒音レベルの単位として以前に用いられた「ホン(現在は「デシベル」を使用)」とは別の単位である。ここでフォン数は以下のようなものである。1000ヘルツの純音を基準にとり、その周波数の音に対しては音圧レベルの値をフォン数として用いる。他の周波数の音に対しては、経験的かつ標準的な聴覚の感度の補正を行う。経験的に定められた感度の周波数依存性は
のようになる。1000ヘルツ以下では、振動数の低い音ほど音圧レベルは同じでもフォン数は小さい、すなわち小さく聞こえる。このようにして決めたものを音の大きさのレベルという。ただし、音の聞こえ方には個人差、年齢差があり、たとえば加齢とともに高い音が聞きにくくなる。[比企能夫]
音の高さの感覚は振動数に依存する。すなわち振動数が大きくなるほど、高い音に感じる。しかしながら、振動数が2倍になっても2倍の高さの音とは感じない。そこで音の高さの感覚的な尺度としてメル(mel)とよばれる単位が使われている。これは1000ヘルツの音の高さを1000メルと決め、それを基準にして他の振動数の音の高さの感じを経験的に数字で表したもので、1000ヘルツ以下ではメルはほぼ振動数に比例し、それ以上ではほぼ振動数の対数に比例している。すなわち、1000ヘルツ以上では音の高さに対する感覚が鈍くなる。二つ以上の振動数の音の混じった複合音の高さは複雑であるが、楽器のように成分音が基音とその倍音からなる場合はその基音の高さの音が聞こえる。これは各成分音の振動数の差が基音の振動数に等しいためといわれている。
[比企能夫]
音には、楽音、騒音などの区別の仕方もあるが、どのような音を「音楽的」な音と感じるかは、主観的なもので断定しにくい。ここでは、物理学的な立場から音楽における音について述べる。音楽は種々の高さ、大きさ、音色の音を時間的に組み合わせてできる芸術であるが、なかでも音の高さは重要である。もし連続的に分布する振動数の音を使ったら、作曲することも演奏することも困難であろう。そこで振動数がとびとびの値をもつ音の配列、すなわち音階を用いる。ところで、音の振動数を順に増加していってみると、振動数がちょうど2倍になると元の音に戻ったような感じを受ける。ある音と、振動数が2倍の音とはオクターブの関係にあるという。そして音階は普通オクターブごとにまったく同じに繰り返して用いられる。各音については、その振動数の比が簡単な整数比をなすときハーモニー(調和音)が出現することはギリシア時代から知られていた。
西洋音楽ではオクターブを7分割した音を用い、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドと名づける。それらは5個の全音と2個の半音で隔てられ、半音の位置によって長音階と短音階に分けられる。音階のなかの二つの音の隔たりを音程といい、同じ段階の音を1度、1段階離れた音を2度というように表す。オクターブは8度である。音階の例として純正律長音階や平均律長音階などがある。
純正律では、たとえば、ド、ミ、ソ音の振動数比が正確に4:5:6になり調和するが、主音(音階の最低音)をずらす(転調する)と、このような関係が成立しなくなり不便である。そのため現在では平均律音階が広く使われている。なお、近代では伝統的な調性音楽に反して無調音楽、十二音技法などの新しい手法も展開されている。
[比企能夫]
世界各地における祭り、祭儀、儀礼には、太鼓、銅鑼(どら)、鈴、鐘などの打楽器が用いられることが多い。北アジアのシャーマンも、憑依(ひょうい)状態になるとき、太鼓などの鳴り物を使うし、日本の東北地方のイタコも、太鼓、弓、一絃琴(いちげんきん)などを用いている。台湾の原住民族(中国語圏では、「先住民」に「今は存在しない」という意味があるため、「原住民」を用いる)が農耕儀礼の際に、銅鑼を鳴らし、太鼓、鐘、鍬(くわ)などをたたくのは、精霊に知らせて作物の実りをよくするためである。インドネシアのバリ島の祭儀にはガムラン音楽がつきものである。この祭儀も、神が降臨してくるという意味で、一つの状態から他の状態への移行に結び付いている。シャーマンの儀礼、先祖祭りなど霊界との交流を図るとき、太鼓、鈴、鐘などの打楽器が用いられる傾向があるので、ロドニー・ニーダムは、霊界との交流と打楽器の衝撃音には深い関連があり、おそらくこれは衝撃音のリズムが人体に与える生理的、心理的効果に由来するものであろうと述べている。日本の神社においても柏手(かしわで)を打ち、鈴を鳴らす。柏手は足を踏みならす音とともにもっとも原始的な衝撃音である。アフリカの諸民族でも祭儀のとき、よく太鼓を打ち鳴らすし、たとえばケニアのディゴは、憑依霊を病人から追い払う儀礼において、ガチャガチャと衝撃音をたてる楽器(カヤンバ)を打ち鳴らす。エチオピアのコンソの社会では、乾期から雨期へ移るとき、一つの年齢階級から次の年齢階級に移るとき、司祭の葬儀のときにかならず太鼓を打つ。つまり彼らの生活のなかでもっとも重要な「推移」のとき太鼓を打つのである。アフリカの民族集団アシャンティやアンコーレでは、太鼓は就任式のときに用いられる。アメリカ大陸先住民は、霊界と関連する音をがらがらによってつくるが、この音も打楽器の衝撃音である。
[吉田禎吾]
『小橋豊著『音と音波』(1971・裳華房)』▽『アーサー・H・ベナード著、小暮陽三訳『音と楽器』(1980・河出書房)』▽『牧田康雄編『現代音響学』改訂2版(1986・オーム社)』▽『早坂寿雄著『音の歴史』(1989・電子情報通信学会、コロナ社発売)』▽『武満徹・川田順造著『音・ことば・人間』(1992・岩波書店)』▽『安藤由典著『新版 楽器の音響学』(1996・音楽之友社)』▽『吉川茂・藤田肇著『基礎音響学――振動・波動・音波』(2002・講談社)』▽『N・H・フレッチャー、T・D・ロッシング著、岸憲史・久保田秀美・吉川茂訳『楽器の物理学』(2002・シュプリンガー・フェアラーク東京)』▽『チャールズ・E・スピークス著、荒井隆行・菅原勉監訳『音入門――聴覚・音声科学のための音響学』(2002・海文堂出版)』
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…キューバ,メキシコ,ベネズエラなどラテン・アメリカのいくつかの地域で,それぞれに固有の民俗舞踊およびその音楽の呼称。なかでも重要なのがキューバのソンで,1910年ころから島の東部に発生し,第1次世界大戦ころ全土に広まって同国の大衆音楽の基本となる演奏形態を確立した。その後のマンボなどはすべてソンから派生したものであり,ニューヨークのサルサもソンの伝統を重視している。リズムは2/4拍子。使用楽器にはギター類,マラカス,ボンゴなどの打楽器類のほか,トランペットなどを含み,六~七重奏に歌を加えた演奏形態が典型的である。…
…中国に起こった言語音に関する学問。中国語の語は原則として単音節から成り,その音節は一般に頭子音+介母音+主要母音+末子音(+声調)の構造をなしている。…
…個々の漢字の示す音(オン)。中国語以外の言語では,中国語の字音をその漢字と共に借用して自らの言語に順応させた音をいい,特に〈漢字音〉とも称する。…
※「音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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