古代ギリシアの詩人。〈牧歌〉の創始者として名高い。シチリア島のシラクサの出身で,詩の題材にもシチリアや南イタリアの神話・民間伝承を採り入れている。けれども詩中の風物はコス島およびエーゲ海沿岸地方に限定されているところから,早くからコス島に移住し,生涯の大半を同地で過ごしたと推定される。出身地シラクサの王ヒエロン2世に詩人としての庇護を求めたが得られず(《牧歌詩集》16番),逆にエジプトのプトレマイオス2世から庇護が与えられたことを感謝している(同17番)ところから,当時文学活動の中心地だったアレクサンドリアにも赴いたことがあるものと考えられている。
テオクリトスの名を高め,その後に多くの愛好者と模倣者を生み出した〈牧歌〉は,都会の喧噪から離れた田園的情景の中に繰り広げられる歌好きの牧童の生活を,ときには卑俗なまでになまなましく描き出しており(《牧歌詩集》1,3~7,10,11,14番),大都会の小市民の生活の一断面を描いた作品(同2,15番)と好一対をなす〈ミモスmimos(活写劇)〉的色彩が強い。しかし彼の描く〈田園〉もやはり,外の世界の政治的状況からは隔絶した静寂が得られる閉鎖的空間という,大都市生活者の目からみた理想としての性格を兼ね備えており,場面をアルカディアに移し変えたウェルギリウスの《牧歌》を経て,やがて〈アルカディア〉が単なる〈理想郷〉を意味するようになる端緒はすでにテオクリトスに見いだされることが指摘されている。ほかに神話を題材とする小叙事詩およびサッフォーやアルカイオスの言語と韻律を模した作品等も含む。これら全31編から成る彼の《牧歌詩集》は,いずれの作品も(若干の偽作の牧歌を除いて)洗練された表現と都会的機知に満ちており,完全な姿で伝承されている作品に乏しいアレクサンドリア時代の文学の実相を伝える貴重な資料となっている。
執筆者:片山 英男
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古代ギリシアの詩人。シチリア島の出身。生涯の大部分を異郷で、とくにコス島とアレクサンドリアで送ったらしい。アレクサンドリアではエジプト王プトレマイオス2世(フィラデルフォス)の愛顧を得た。作品は24編のエピグラムのほかに30編の詩が現存する。彼の名を後世まで高くしたものは「ミーモス」と「牧歌」である。作品の特徴は、生彩ある叙述と豊饒(ほうじょう)な叙情性とドラマチックな構成で、その効果はとくに「牧歌」に著しい。彼は西洋文学における牧歌の創始者、またアレクサンドリア時代を代表する大詩人と目され、後世に大きな影響を与えた。
[伊藤照夫]
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…現存するヘロンダスの《擬曲》(《ミミアンビ》とも呼ばれる)は,男女風俗,追想,恋物語などをかなり卑俗な形で模している。しかし同じ擬曲風とはいえ,シチリア島の詩人テオクリトスの《牧歌(エイデュリオン)》は,高度に文芸化され洗練された趣向を見せている。登場人物は牧童や町の女たちで擬曲風であるが,彼らが歌う歌くらべや,恋愛,別離,追悼などのモティーフや言葉づかいは,テオクリトスが明らかに芸術的造詣の深い文人や学者たちなど,少数読者のために書いているという印象を強くする。…
…田園詩と呼ぶこともあり,羊飼いのほか,牛飼い,農夫らも登場した。前3世紀のアレクサンドリアの詩人テオクリトスによってジャンルとして確立されたが,彼自身は羊飼いでも農民でもなく,腐敗した宮廷に仕える宮廷詩人であった事実に注目すべきであろう。すなわち牧歌文学とは,けっして作者の目に映る現実を表すものではなく,その現実を裏返した陰画であった。…
…みずから詩人および歴史家でもあったポリオPollioは,文人を集めて朗読会を催す習慣を作った。 ウェルギリウスの最初の傑作《牧歌(詩選)》は,〈新詩人〉の精神に従ってアレクサンドリア派のテオクリトスのジャンルをラテン語で試みたものである。しかしローマの現状と将来に対する憂慮と関心が示され,救世者アウグストゥスの下で時代が生まれ変わるという彼の終生のテーマが早くも芽生えている。…
※「テオクリトス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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