テロ等準備罪(読み)てろとうじゅんびざい

知恵蔵の解説

テロ等準備罪

テロ組織、暴力団、詐欺集団などの組織が重大な犯罪を計画・準備したことを処罰する罪。安倍晋三政権下の2017年6月、組織的犯罪処罰法(1999年制定)が与党の強行採決によって改正され、テロ等準備罪(共謀罪)の条項が新たに加わった。改正によって、犯罪を共謀した段階での捜査当局の取り調べが可能になり、未遂であっても該当組織の構成員及び関係者は処罰されることになった。重大な犯罪の共謀罪の具体例として、法務省は「暴力団による組織的な殺傷事犯」「悪徳商法のような組織的詐欺事犯」「暴力団の縄張り獲得のための暴力事犯」などを挙げている。
これまで政府は、テロ等準備罪を国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)の加入に欠かせない法案と位置付け、2003年から同趣旨の法案を3回にわたり国会に提出してきた。しかし「未遂の犯罪計画を取り締まることは刑法の基本原則に反する」「憲法が保障する内心の自由を脅かす」などの批判が起こったため、いずれも廃案になったという経緯がある。なお、国際組織犯罪防止条約は、00年に国連総会で採択された条約で、現在187の国・地域が加入している。
改正法で、処罰の対象となるのは、2人以上の集団による犯罪の「実行準備行為」が確認された場合。「実行準備行為」には、犯罪の資金調達、凶器等物品の手配、関係場所の下見などが含まれる。対象となる犯罪は、法務省が分類した「テロの実行(110の犯罪)」「薬物(29)」「人身に関する搾取(28)」「その他資金源(101)」「司法妨害(9)」の5分野の犯罪で、計277に及ぶ。このうち、死刑及び10年を超える懲役・禁固刑に該当する犯罪の計画は、5年以下の懲役・禁固に、4年以上10年以下の懲役・禁固刑の場合は、2年以下の懲役・禁固に処させる。なお、実行前に自首した者は、刑が減軽または免除される。

(大迫秀樹 フリー編集者/2017年)

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デジタル大辞泉の解説

テロとうじゅんび‐ざい【テロ等準備罪】

組織的犯罪集団が重大な犯罪を計画し、実行を準備する罪。
[補説]国際組織犯罪防止条約を締結するため、平成29年(2017)、組織犯罪処罰法第6条に「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」に対する罪として追加された。テロ集団・暴力団・薬物密売組織など違法行為を目的とする団体が、実現可能性のある重大な犯罪を具体的に計画し、それに基づいて実行準備行為を行ったと認識される場合に処罰の対象となる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

テロ等準備罪
てろとうじゅんびざい

テロ等準備罪は、2017年(平成29)に改正された組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法(正式名称「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」以下、本法と表記する)第6条の2に新設された犯罪である。2017年6月15日に成立し、7月11日に施行された。表題は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」罪である。複数人による特定の犯罪遂行の計画、実行準備を処罰するが、その実質は、遂行計画の合意が基礎であり、共謀罪といえる。組織的犯罪集団の活動として行う罪(1項)と、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、維持・拡大する目的で行う罪(2項)とがある。本罪の法定刑は、計画行為の対象犯罪が死刑、無期もしくは長期10年を超える懲役・禁錮が科される場合は5年以下の懲役・禁錮、長期4年以上10年以下の懲役・禁錮の場合は2年以下の懲役・禁錮である。
 本罪の構成要件は、団体・組織性(2項では不正権益に関する目的)、遂行計画、実行準備からなる。団体・組織性は、本罪適用の前提で、計画が団体の活動として組織により遂行されるものであることを意味する。団体は、共同の目的を有する多数人の継続的集合体で、暴力団や会社が典型であるが、これに限らない。集会や群衆は含まない。本罪にいう「団体」は、このうち、共同の目的が本法別表第三の犯罪を実行することにあるものをいう。「テロリズム集団」は例示にすぎず、「組織的犯罪集団」への該当は、あくまで複数人が別表第三の犯罪に該当する行為を目的に結合しているか否かで判断される。そのため、同好会や親睦団体でも条件を満たせば、本罪適用の可能性がある。法案審議で出た国有林での「キノコ狩り」の事例は、これを示唆する。組織は、指揮命令系統に基づき行動する団体内の実行部隊である。遂行計画は、別表第四に掲げる犯罪(277の罪)の遂行を、2名以上で具体的に合意することである。合意は最終的なものでなければならないが、計画の詳細まで決まっている必要はない。実行準備は、条文では、資金・物品の手配、関係場所の下見が例示されるが、これに限られない。本罪の対象犯罪には、ハイジャックのように、予備を処罰するものがあるので、それらの予備罪と実行準備との関係が問題となる。なお、本罪の規定の仕方から、実行準備を客観的処罰条件とする見解もある(その場合、計画に合意した者が実行準備について何も知らなかったとしても、本罪の刑事責任を問われる。これに対し、実行準備を本罪の構成要件要素とする立場からは、実行準備について認識していることが、計画合意者の刑事責任を問うために必要となる)。
 政府が本罪の新設を急いだおもな理由に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の必要性と国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の加盟がある。しかし、TOC条約はテロ対策を目的とせず、他方、本罪はテロ以外の多数の犯罪をも対象とすることから、説明の平仄(ひょうそく)(つじつま)を疑問視する見解もある。未遂が処罰されないものを含む多くの犯罪を、実行より早期の段階で処罰することは、従来の刑法体系と整合しないとの批判が強い。対象犯罪の選定への疑問や、捜査機関の監視の早期化、自首減刑規定による密告の危険性、会社法、金融商品取引法、税法などの経済関連犯罪を対象に含むことによる先進的ビジネスへの萎縮(いしゅく)的影響などを懸念する意見もある。[安達光治]

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