テロ等準備罪は、2017年(平成29)に改正された組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法(正式名称「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」以下、本法と表記する)第6条の2に新設された犯罪である。2017年6月15日に成立し、7月11日に施行された。表題は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」罪である。複数人による特定の犯罪遂行の計画、実行準備を処罰するが、その実質は、遂行計画の合意が基礎であり、共謀罪といえる。組織的犯罪集団の活動として行う罪(1項)と、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、維持・拡大する目的で行う罪(2項)とがある。本罪の法定刑は、計画行為の対象犯罪が死刑、無期もしくは長期10年を超える懲役・禁錮が科される場合は5年以下の懲役・禁錮、長期4年以上10年以下の懲役・禁錮の場合は2年以下の懲役・禁錮である。
本罪の構成要件は、団体・組織性(2項では不正権益に関する目的)、遂行計画、実行準備からなる。団体・組織性は、本罪適用の前提で、計画が団体の活動として組織により遂行されるものであることを意味する。団体は、共同の目的を有する多数人の継続的集合体で、暴力団や会社が典型であるが、これに限らない。集会や群衆は含まない。本罪にいう「団体」は、このうち、共同の目的が本法別表第三の犯罪を実行することにあるものをいう。「テロリズム集団」は例示にすぎず、「組織的犯罪集団」への該当は、あくまで複数人が別表第三の犯罪に該当する行為を目的に結合しているか否かで判断される。そのため、同好会や親睦団体でも条件を満たせば、本罪適用の可能性がある。法案審議で出た国有林での「キノコ狩り」の事例は、これを示唆する。組織は、指揮命令系統に基づき行動する団体内の実行部隊である。遂行計画は、別表第四に掲げる犯罪(277の罪)の遂行を、2名以上で具体的に合意することである。合意は最終的なものでなければならないが、計画の詳細まで決まっている必要はない。実行準備は、条文では、資金・物品の手配、関係場所の下見が例示されるが、これに限られない。本罪の対象犯罪には、ハイジャックのように、予備を処罰するものがあるので、それらの予備罪と実行準備との関係が問題となる。なお、本罪の規定の仕方から、実行準備を客観的処罰条件とする見解もある(その場合、計画に合意した者が実行準備について何も知らなかったとしても、本罪の刑事責任を問われる。これに対し、実行準備を本罪の構成要件要素とする立場からは、実行準備について認識していることが、計画合意者の刑事責任を問うために必要となる)。
政府が本罪の新設を急いだおもな理由に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の必要性と国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の加盟がある。しかし、TOC条約はテロ対策を目的とせず、他方、本罪はテロ以外の多数の犯罪をも対象とすることから、説明の平仄(ひょうそく)(つじつま)を疑問視する見解もある。未遂が処罰されないものを含む多くの犯罪を、実行より早期の段階で処罰することは、従来の刑法体系と整合しないとの批判が強い。対象犯罪の選定への疑問や、捜査機関の監視の早期化、自首減刑規定による密告の危険性、会社法、金融商品取引法、税法などの経済関連犯罪を対象に含むことによる先進的ビジネスへの萎縮(いしゅく)的影響などを懸念する意見もある。
[安達光治 2018年9月19日]
(大迫秀樹 フリー編集者/2017年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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