切花用として,また花壇に栽培されるキンポウゲ科の秋まき一年草。花の形からチドリソウ(千鳥草)とも,ヒエンソウ(飛燕草)とも呼ばれる。茎は高さ80~100cm,直立し,上部で小枝を分け,5月に総状にたくさんの花をつける。葉は秋から冬の苗のうちは根生しているが,春に茎が直立すると,掌状に3裂し,さらに2~3回羽状に細裂した葉を茎に互生する。花は赤,紫,ピンク,白などに彩られた5枚の萼が花弁のように見え,大小不同で,基部の最も大きな1片に距がある。八重咲品もある。種子の発芽は15~17℃であるから,まきどきは東京地方で10月中旬。移植は好ましくないので直まきする。苗の育ちをみて逐次間引き,最後に株間を20cm程度とする。花壇や畑のつごうではビニル小鉢で育苗し春になって定植してもよい。寒気には強いので,軽い霜よけ下に保護するとよい。暖地では8月中に適湿の冷蔵庫で発芽させ,ビニルポットで育苗したものをハウスに定植すると早咲きさせることができる。一般に鉢植えは行われないが,矮性(わいせい)の1品種ドワーフ・バタフライdwarf butterflyは鉢植え,花壇専用の青藍色花で,草丈30cmで開花する。また高性種でも苗のうちに心摘みして分枝させると,鉢植栽培ができる。
ヒエンソウ属Delphinium(英名larkspur)は,北半球の温帯域に約250種が分布し,それらの多くは美しい花を有し,数種が園芸植物として栽植される。オオバナヒエンソウD.grandiflorum L.は,中国やシベリア原産の多年草であるが,この種と他のヒエンソウ属植物との交配改良種ジャイアント・パシフィック・ヒブリダGiant Pacific Hybridaは,草丈1m,花径は5~6cmの大輪で,淡青,青,紫,ピンク,白などの花色があり,1茎に数十輪もつける雄大な花穂をつける。高冷地で切花用に栽培されている。
執筆者:浅山 英一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)デルフィニウム(オオヒエンソウ)属の総称。英名ラークスパーlarkspur。直立性の多年草または一年草。葉は有柄で3出複葉または掌状。花は総状、穂状、円錐(えんすい)花序につき、おもに青紫、赤紫、淡紅、白色などの花を開く。萼片(がくへん)は5枚、花弁状で、後部のものは伸びて距(きょ)となる。花弁は2~4枚、上部の2枚は萼距の中にある。属名はギリシア語のdelphin(イルカ)により、花の形からついた。山地に生え、アジア、ヨーロッパ、北アメリカに約200種分布し、園芸品種は数千種に上る。日本では秋播(ま)き一年草のヒエンソウ(飛燕草)Consolida ajacis (L.) Schur(D. ajacis L.)が多くつくられていたが、近年はD. elatum L.、D. formosum Boiss. et Huet.、D. grandiflorum L. var chinense Fisch、などを材料として育種した八重咲きの高性種(高さ2メートル、花穂は長さ1メートル)や鉢物用の矮性(わいせい)種が盛んに栽培されるようになった。土質は排水のよい肥沃(ひよく)な弱アルカリ性土壌が適する。日光に当てるとよい。本属の植物はデルフェニンほかのアルカロイドを含むものがある。
[鈴木龍二 2020年3月18日]
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