トラスト(読み)とらすと(英語表記)trust

翻訳|trust

精選版 日本国語大辞典 「トラスト」の意味・読み・例文・類語

トラスト

〘名〙 (trust)⸨ツラスト⸩ =きぎょうごうどう(企業合同)
※日本の下層社会(1899)〈横山源之助〉日本の社会運動「今まやトラストの向ふ処天下能く敵するものなく」

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デジタル大辞泉 「トラスト」の意味・読み・例文・類語

トラスト(〈英〉・〈フランス〉trust/〈ドイツ〉Trust)

信頼すること。信用。「トラストミー(=私を信じなさい)」
同一業種の各企業が独占的利益を得ることを目的に、資本的に結合する一形態。カルテルと異なり、各企業の独立性はほとんど失われる。企業合同
ナショナルトラスト」の略。「トラスト運動」
[類語](2カルテルコンツェルンシンジケート

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラスト」の意味・わかりやすい解説

トラスト
とらすと
trust

独占的大企業または独占的大企業を形成する企業合同のことをいう。トラストという語はもともと信託のことをさしたが、それが独占的大企業を意味することばに転用されたのは、次のようなアメリカにおける独占体形成の歴史に基づく。すなわち、1879年にスタンダード石油トラストが結成されて、トラスト証券と引き換えに、約40社の石油会社の議決権付き株式がJ・D・ロックフェラーをはじめとする少数の受託者へ委託された。これにより受託者は、これら多くの石油会社の役員の選任と経営管理を統一的に行うことができるようになり、石油製品の販売価格の統制、供給数量の制限などについて独占的支配を行った。このようなトラストをトラスティ方式によるトラストという。スタンダード石油トラストの成功によって、精糖トラスト、綿実油トラスト、ウイスキー・トラストなど多数のトラストの形成に波及した。しかし、1890年に砂糖トラストがコモン・ロー(一般法)により違法の判決を受け、また同年、シャーマン反トラスト法が制定されることによってトラスト規制の強化が実現すると、トラスティ方式にかわって、持株会社の設立による株式の集中的所有に改組されるようになった。これを持株会社によるトラストという。さらに1904年、北部証券会社事件によって同持株会社が裁判所から解散の判決を受けるに至ったので、これにかわってコミュニティ・オブ・インタレスト利益集団)およびフュージョン(企業合同)が形成されるようになった。こうした歴史から、企業合同によって形成された独占体をトラストと称するようになったのである。

 アメリカでは、前記のようなトラスト形成の歴史をみてもわかるように、19世紀以来多数のトラストが形成された。この結果アメリカでは、トラストは独占(モノポリー)の代名詞とされるまでに至った。アメリカの独占禁止法がとくに反トラスト法といわれるのはこういう歴史的理由に基づくものである。とくに、1898年から1903年に至る世紀の転換期におけるトラスト運動により、USスチールアメリカンタバコなど445のトラストが形成され、アメリカはトラストの母国とまでいわれるようになった。

 これに対して日本では、第二次世界大戦前は独占禁止法が制定されていなかったにもかかわらずトラストの形成はあまりみられず、1907年(明治40)に帝国製麻が近江(おうみ)製麻などの製麻会社を合併して製麻トラストとなった事例のほかは、三井財閥系の製紙トラストとしての王子製紙が1932年(昭和7)富士製紙などの製紙会社を合併して成立し、また半官半民の製鉄トラストとしての日本製鉄が1934年に成立したのが目だつ程度であった。これは、日本における企業集中の形態が、水平的結合としてのトラストに先行して、多角的結合としてのコンツェルンが財閥として形成されたため、財閥の資本系列に阻まれてトラスト的大合同にまで至らなかったからであった。

 第二次世界大戦後になると、産業構造が重化学工業へ傾斜していく過程で、しだいに重化学工業部門の巨大企業が経済力を集中し、市場における主導的な地位を占めるようになった。しかし、1947年(昭和22)に独占禁止法が制定されていることもあって、これらの巨大工業会社、たとえば1964年の三菱(みつびし)重工業の合同や1970年の八幡(やはた)・富士両製鉄会社の合併による新日本製鉄(現、日本製鉄)の成立をみても、有力な競争会社が他に存在していて、完全独占という意味でのトラストとはなっていない。

御園生等]

『御園生等著『日本の独占』(1960/新版・1965・至誠堂)』『上林貞治郎他著『現代企業形態論』(1962・ミネルヴァ書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「トラスト」の意味・わかりやすい解説

トラスト
trust

競争制限を主目的とした企業間の水平的結合をいい,〈企業合同〉ともいう。ときには,この企業結合行為ばかりでなく,企業結合の結果として成立した独占的市場支配力をもつ巨大企業そのものをいう。トラストという用語は,アメリカにおいて1870年代に発生した〈受託者方式(トラスティー方式trustee device)〉による企業結合に由来する。その発端となったスタンダード・オイル・トラスト(1879成立)を具体例としてみると,同社は,アメリカの石油精製能力の約90%を占める約40社の株式がJ.D.ロックフェラーを中心とする9人の受託者に委託される協定を基礎にして成立した企業である。この受託者方式による企業結合は,1890年に成立したシャーマン法(アメリカの独占禁止法の基本法。〈アンチ・トラスト法〉の項参照)によって規制対象となったので,それ以降の企業結合は持株会社holding company方式ないし企業合併corporate merger方式に移った。したがってトラストは,(1)受託者方式のトラスト,(2)持株会社方式のトラスト,および(3)企業合併方式によるトラスト,に分類できる。受託者方式のトラスト(本来のトラスト)は1870-90年代初めに最盛期を迎え,持株会社および企業合併方式のトラスト(新方式のトラスト)はアメリカにおける第1次合併運動(1897-1904)の主要形態となった。

 当時のトラスト運動の実態を数字でみると,1895年から1904年にかけてのトラストによる新設会社数は313社(授権資本100万ドル以上のもの)にのぼり,このうち86社はそれぞれの産業において著しく高い市場シェアを占めるに至った。なかでも次の企業は独占に近い(かっこ内はトラスト成立時の市場シェア)。アメリカン・シュガー(95%),アメリカン・タバコ(93%),アメリカン・キャン(90%),インターナショナル・ハーベスター(85%),ユニオン・タイプライター(75%),USスチール(66%)など。このような多数の巨大トラストがこの時期に成立したために,アメリカは〈トラストの母国〉といわれる。しかし1914年のクレートン法および50年のセラー=キーフォーバー法Celler-Kefauver Actの制定によって,競争を実質的に制限するおそれのある株式取得および資産取得が制限されることになったため,新方式のトラストの成立も制限された。さらに1900年前後に成立した巨大トラストの多くが,上記の反トラスト諸法によって企業分割措置を受けることになった。
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百科事典マイペディア 「トラスト」の意味・わかりやすい解説

トラスト

同一業種の諸企業が市場支配のため結合した高度な独占体。企業合同とも。カルテルより結び付きが強く各企業は独立性を失う。結合の仕方は,合併による合同,持株会社,営業授受,リース,株式の信託などを包括している。米国で著しく発達し,シャーマン法などの反トラスト法も制定。→コンツェルン
→関連項目企業集中鉄鋼業独占禁止法独占資本USスチール[会社]ユニリーバ[会社]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トラスト」の意味・わかりやすい解説

トラスト
trust

同一産業部門における資本の結合を軸にした独占的企業結合で,企業合同ともいう。おもな形態としては次の3つがある。 (1) 株式の信託。数個の企業の株主がその株式を受託者団に信託し,受託者団はこれらの株式の議決権を行使することによって当該数企業を統一的に支配することができる。 (2) 持株会社。他の会社の株式を所有することによって,支配を行う会社を中枢におく。少い資本で多数企業の効率的な支配が可能となる。 (3) 合併。数企業が合併して一個の企業となるため,巨大な独占力を有する。このほかに営業譲り受け,営業の賃貸借,経営の委任,利益共同契約などがトラスト形成の手段としてある。カルテルの場合は結合企業がそれぞれ独立性を有しているのに比べ,トラストの場合は結合企業の独立性は失われることになる。トラストの発展的な形態としてコンツェルンがある。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「トラスト」の解説

トラスト

同一の産業部門に属する企業が,(1)営業の受託,(2)持株会社の設立,(3)合併,を通じて単一の意思決定主体のもとに結合した組織形態。基本的目的は市場の独占,価格の規制にあると理解される。参加企業が法的独立性を失っている点で,カルテルより強度の独占形態。日本では主として(3)の方法がみられた。東京人造肥料を中心とする大日本人造肥料の設立(1908~10),上位企業の合併による東洋紡の設立(1914)が先駆的事例だが,市場規制力は低位にとどまった。1930年代の官営八幡製鉄所と民間系企業の合併による日本製鉄の設立,王子製紙による富士製紙の合併,大日本麦酒による日本麦酒鉱泉の吸収・合併が市場規制力を強化した点で,日本のトラストの典型的事例とされる。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「トラスト」の解説

トラスト
trust

アメリカ産業界で発達した独占体の形態。トラストは元来「信託」の意だが,議決権付き株式の委託が独占的支配の方式となり,のちの持株会社方式を含め独占体の総称となる。南北戦争後の急激な経済発展を背景に,1879年スタンダード石油トラストが結成され,20世紀初めまでに鉄鋼や重化学工業部門などに拡大。反トラスト法が制定されたが,資本集中を阻止できなかった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「トラスト」の解説

トラスト
Trust

同種の生産にたずさわる企業が,市場の独占を目的として合同する独占の一形態
カルテル(企業連合)より強い独占形態。原料購入・生産制限・独占価格決定に効力をあげる。アメリカではスタンダード石油トラスト(Standard Oil Trust)をはじめとし,日本では1907年に設立した帝国製麻をはじめ,'21年日本石油,'32年王子製紙,'34年日本製鉄などが代表的。第二次世界大戦後,財閥解体に伴い独占禁止法で禁止された。

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「トラスト」の解説

トラスト

正式社名「株式会社トラスト」。英文社名「TRUST CO., LTD.」。小売業。昭和63年(1988)設立。本社は名古屋市中区錦。VTホールディングス子会社の中古車販売会社。海外個人向けに輸出販売を行う。インターネット上の自社ウェブサイトを利用。アフリカ・中南米中心。東京マザーズ上場。証券コード3347。

出典 講談社日本の企業がわかる事典2014-2015について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「トラスト」の解説

トラスト
trust

参加企業が経済的独立性をもつカルテルに対し,多数の企業を同一の資本系統に結合し,生産の合理化をはかりながら市場の独占を行うもの。「企業合同」と訳される
特にアメリカで発達し,1882年に成立したスタンダード石油トラスト(精油生産の80%を独占)がその最初である。

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世界大百科事典(旧版)内のトラストの言及

【アメリカ合衆国】より

…しかし,20世紀に入り,国家機能の拡大に伴い行政業務も増大し,ことにF.D.ローズベルト大統領時代に,内にニューディール,外に第2次大戦と,政府の機能は飛躍的に拡大し,大統領の強い政治指導が要請されるにいたった。ここに多忙な,強力であるべき大統領にとってその分身ともいうべき側近が必要とされ,ローズベルトの時代にはブレーン・トラストとしてスタッフが強化されたが,1939年には大統領府Executive Office of the Presidentが設置され,今日ではホワイト・ハウス事務局,管理予算局,国家安全保障会議,中央情報局(CIA)など強力な機関が各省と別に大統領に直属している。ことに,ホワイト・ハウス事務局の補佐官は,大統領の政策決定に大きな影響力をもち,大統領とこれらのスタッフに広範な権限が集中され,ついにはニクソン大統領時代の〈帝王的大統領〉制との批判をうけるまでにいたる。…

【企業】より

…(a)企業連合は,二つ以上の独立企業が協定によって相互に結合する形態で,市場統制の目的をもって形成される企業連合がカルテルである。(b)企業合同は,各企業が独立性を放棄して,完全に一体となって結合する形態で,市場統制を目的として形成される企業合同がトラストである。(c)コンツェルンは,独立したいくつかの企業が資本的に強く結合している企業集中の形態である。…

【独占】より

…また,市場の売手側に独占が生じることが多いので,経済学は売手独占を分析することが多かったが,最近では買手独占にも関心がもたれている。
[独占力と独占の形態]
 一定の商品の地理的に限定された市場における独占力が独占力の基礎的概念であり,この独占力を発揮する目的でカルテルトラストという形態の独占が形成される。法律的に独立な複数の企業が協定を通じて,生産,投資,顧客などを割り当て,価格を固定して,競争を制限することをカルテルという。…

【持株会社】より

…このピラミッドの頂点にある最高持株会社は,子会社を直接支配するだけでなく,孫会社以下の全傘下企業を間接的に支配する。多産業にわたって構成されたピラミッド型支配構造がコンツェルンであり,同一産業内のそれがトラストである。持株会社による企業集中は,アメリカではコモン・ローによって違法とされた受託者トラストに代わる形態として,19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んに行われたが,1914年のクレートン法(アンチ・トラスト法)によって設立に制限が設けられた。…

※「トラスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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