ナシ族(読み)なしぞく(英語表記)Naxi

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナシ族」の意味・わかりやすい解説

ナシ族
なしぞく / 納西族
Naxi

中国の少数民族。人口は32万6295(2010)。四川(しせん)省およびチベット自治区にも一部居住するが、麗江(れいこう)市のある雲南省に大半が生活している。かつては漢語を使う側からの他称として「モソ(表記は麼些など)」が用いられた。その祖先は古代中国西北の氐(てい)や羌(きょう)などの遊牧民に由来するともいわれるが、牧畜民と農耕民が融合した集団という見方が、近年優勢である。ナシ語はチベット・ビルマ語系イ語派に分類される。

 主たる生業は農業で、小麦、米、トウモロコシ、ジャガイモ、豆類を産する。家畜の飼育や林業も盛んである。女性の服装は、麗江地域では七つの円盤状の飾りのついたヒツジの皮をまとう点が特徴となっているが、永寧地域などでは大きなターバンと何段かつなげたプリーツスカートを身につける。

 麗江地域の宗教的職能者「トンバ(東巴)」が儀礼時に詠唱する経典は、独自の象形文字で記され、「東巴経」として名高い。それは、彼らの祖先や事物の起源、過去の社会状況などを語る貴重な歴史的資料である。トンバを中心とする宗教信仰に古代チベットのボン教の影響がみられるほか、チベット仏教も伝来し、チベット文化の影響が少なくない。元代以降に中央朝廷から任命された世襲土司(どし)による統治体制がとられ、その体制は、麗江地域では清(しん)代の改土帰流(かいどきりゅう)まで、永寧地域では1950年代の民主改革まで維持された。永寧地域は従来は母系制で、人々は母系家族ごとに暮らし、男性が夜間に女性のもとに通うのが常だった。現在は、それに加えて嫁入り婚など多様な婚姻と家族のあり方が混在している。彼らのなかには近年、「モソ」と名のって麗江などの「ナシ」との区別を望む声がある。

[横山廣子]

『西田龍雄著『生きている象形文字』(中公新書)』『諏訪哲郎著『西南中国納西族の農耕民性と牧畜民性』(1987・学習院大学研究叢書16)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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