ニッチ(読み)にっち(英語表記)niche

翻訳|niche

デジタル大辞泉 「ニッチ」の意味・読み・例文・類語

ニッチ(niche)

[名・形動]
西洋建築で、厚みのある壁をえぐって作ったくぼみ部分。彫像や花瓶などを置く。壁龕へきがん
ある生物が生態系の中で占める位置。生態的地位。ニッチェ
橋・トンネルなどのわきに設けられる非常用の退避空間。
《すきまの意》市場で、大企業が進出しない小規模な分野。また一般に、普通には気づきにくいところ。「ニッチ産業」「ニッチな趣味」

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精選版 日本国語大辞典 「ニッチ」の意味・読み・例文・類語

ニッチ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] niche )
  2. 壁に設けられた窪み。ふつうは半円形に壁がえぐられ、彫像などが収められる。ローマ建築キリスト教建築で盛んに用いられた。壁龕(へきがん)
  3. 空いている場所、領域。広く、すき間をいう。「ニッチ産業
  4. 橋やトンネルなどの脇に設けられる非常用の退避空間。
  5. ある生物が生態系の中で占める位置。生態的地位。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッチ」の意味・わかりやすい解説

ニッチ(生態的地位)
にっち
niche

C・ダーウィンが『種の起原』のなかで「自然の経済における位置」と表現した概念が、後の生態学において具体化され、ニッチ(生態的地位ecological niche)とよばれるようになった。通常は、ある生物が生物群集内で何をしているかを記述するのに用いられる。アフリカサバナダチョウのニッチはオーストラリアの草原でエミューが占める地位と似ている、といった使い方もされる。

 最初にこのことばを定着させたのは、アメリカのヨセミテの動物相を研究したグリンネルJoseph Grinnell(1877―1939)である。種というものはそれぞれ特有の生息場所ができると、そこを埋めるように進化する、と彼は考え、その最小の分布単位を生態的地位と規定した。ここでいう生息場所とは、単なる非生物的環境ではなく、植生や食物や敵、競争者も含めた環境を意味する。その後、イギリスのエルトンが、現代生態学の古典ともいうべき『動物の生態学』(1927)において「生物が群集のなかで何をしているかということ、生物的環境における位置、食物や敵に関する諸関係」とこれを定義した。ここでは生息場所を、植生を含めた空間的場所として限定し、生態的地位をいわば関係概念として規定した。

 一方、1957年にアメリカの生態学者ハッチンソンG. Evelyn Hutchinson(1903―1991)は、生態的地位を、非生物的環境諸要因に対する個体群の反応とみて、多次元空間における位置として数理的に表現する方法を提唱し、またその個体群が潜在的にもつと考えられる基本的ニッチと、競争者などとの現実の相互作用の結果として実現されているニッチを峻別(しゅんべつ)した。これを「ハッチンソンのニッチ」とよび、前述の「エルトンのニッチ」と概念的に区別される。この定式化は、よく似た生活要求をもつ2種は共存できないとする競争排除法則から出発しており、ニッチのずれや重複を競争の指標として量的に評価する試みに道を開いた。その後の野外研究や理論的展開の経緯をみると、生物群集の理解に欠くことのできない食物関係を含めた分析が要請され、ハッチンソンのニッチも、広く資源利用のスペクトルとして拡大解釈されてきたといえる。しかし、生態的地位をどのように考えるかということは、生物群集をどのように把握するかの、依然として一つの重要な鍵(かぎ)であり、単に生物群集内の位置の記述にとどまらず、むしろ関係概念そのものとして、いっそう展開されるべきであろう。

[遠藤 彰]


ニッチ(建築用語)
にっち
niche

壁を凹状にえぐった部分のこと。壁龕(へきがん)ともいう。その上部はしばしばアーチ形の装飾がついたり、半ドーム形の天井になったりしている。西洋の建物は厚い壁でつくられているので、室内意匠に変化を与えるために壁の表面に凸形の飾り柱をつけたり、凹形のニッチを設けたりした。ニッチの中には台を据えて、その上に彫刻を置いたり、花瓶を飾ったりしている。トンネルや橋梁(きょうりょう)などのわきに設けられた非常用の凹形の退避空間もニッチという。

[小原二郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「ニッチ」の意味・わかりやすい解説

ニッチ
niche

彫像,花瓶,噴水などを置くために,壁をえぐって造られた凹状の部分。壁龕(へきがん)ともいう。古代ローマ建築でとくに盛んに造られた。平面は一般に半円または長方形で,上部には半ドーム,アーチなどをかける。半ドームをかけたニッチは,コンチconchという。ニッチの床は一般に周囲の床や地表より高くするが,同じ高さとすることもある。ニッチは壁厚の範囲内に造られ,背面はアプスのように壁から外へ突出しない。
執筆者:


ニッチ(生態学)
niche

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニッチ」の意味・わかりやすい解説

ニッチ
Nitzsch, Karl Immanuel

[生]1787.9.21.
[没]1868.8.21.
ドイツのルター派神学者。ウィッテンベルク神学校教授 (1817) ,ケンベルクの地方監督 (20) ,ボン大学教授 (22~47) ,ベルリン大学教授 (47) をつとめる。調停神学の代表者。シュライエルマッハーの影響を受け,当時の合理的,思弁的なキリスト教理解に反対し,宗教感情の直接性を主張した。主著"System der christlichen Lehre" (29) ,"Praktische Theologie" (3巻,47~67) ,"Urkundenbuch der evangelischen Union" (53) 。

ニッチ
niche

生態的地位などと訳す。ある生物が特有の生活形態に応じて占有する生息場所をいうこともあるが,むしろより包括的に,ある生物群集のなかでのその生物の役割,生態学的位置づけを意味することが多い。このような見方の場合には,食物連鎖のうえなどで類似の位置にあれば,異なる種でも異なる生物群集内では同じニッチを占めるものがあることになる。ただし同一群集中では,一つのニッチを占めるのは,ただ一つの種のみとされる。

ニッチ
niche

建築用語。装飾のために厚い壁面をえぐって造られたくぼみ台。壁龕 (へきがん) ともいう。中近東,ヨーロッパ建築に古くから用いられた。通常台部平面は半円形,上部は半ドーム形をなすものが多く,一般に床からある程度高い位置に造られる。台部に花器,彫像などを置いて飾るが,この部分が装飾的泉水などになったものもある。また壁面を実際にくぼませず,トロンプ・ルイユで描き込んだものもみられる。

ニッチ[生態学]
ニッチ[せいたいがく]

生態的地位」のページをご覧ください。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「ニッチ」の解説

ニッチ

ニッチとは「隙間」の意味である。大企業がターゲットしないような小さな市場や、潜在的にはニーズがあるが、まだビジネスの対象として考えられていないような分野を意味する。大企業は収益が低いとの理由からニッチに手を出さないことが多いため、中小企業やベンチャービジネスが参入し、確固たる地位を築くことが可能な領域といわれている。ニッチを狙って、利益を上げようとする戦略を「ニッチ戦略」といい、戦略に成功し、ニッチでトップシェアをとった企業を「ニッチ・トップシェア企業」と呼ぶ。

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マーケティング用語集 「ニッチ」の解説

ニッチ

場セグメントの中で、サブグループをさらに狭めた小さなグループのこと。
隙間市場のため市場規模は小さいが、特定のニーズにマッチしたマーケティング・ミックスを展開することにより、顧客はプレミアム価格を容認する傾向にあります。従来は中小規模の企業が競争できる市場として認識されていましたが、近年では大企業もニッチ市場に対してのマーケティングを行い始めています。

出典 (株)マインズマーケティング用語集について 情報

知恵蔵 「ニッチ」の解説

ニッチ

生態的地位」のページをご覧ください。

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

家とインテリアの用語がわかる辞典 「ニッチ」の解説

ニッチ【niche】

壁面の一部に設けたくぼみ。もともと古代ローマ建築など石積みや煉瓦(れんが)積みの建物に多く、上部はアーチ状になっている。現在は一般の住宅にも壁面のアクセントとして採用され、花瓶などを置く飾り台として利用される。◇「壁龕(へきがん)」ともいう。

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百科事典マイペディア 「ニッチ」の意味・わかりやすい解説

ニッチ

生態的地位

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リフォーム用語集 「ニッチ」の解説

ニッチ

壁の一部を凹状にくぼませた部分。小物などの飾り棚的に利用されることが多い。

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世界大百科事典(旧版)内のニッチの言及

【生態的地位】より

…ニッチともいう。生態学における重要な概念。…

【エクセドラ】より

…本来は,古代ギリシア・ローマ建築で,室内の一隅,ないし庭に面して外に張り出した部分などにおかれる談話席,ややおくれて教会堂内陣の聖職者席を指したが,ルネサンス以後,とくに大きく半円形にくぼんだ壁面,ニッチの巨大なものを指すようになった。こうした巨大なニッチは,帝政期ローマのバシリカやフォルムなどに見られ,内部空間に方向性を与える手法であったと思われるが,近世ヨーロッパの建築家たちはエクセドラに儀式的,演劇的な特質を見いだし,壮大な都市空間の演出のために用いた。…

※「ニッチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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