ニッパヤシ(読み)にっぱやし(その他表記)nipa palm

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッパヤシ」の意味・わかりやすい解説

ニッパヤシ
にっぱやし
nipa palm
[学] Nypa fruticans Wurmb
Nipa fruticans Wurmb

ヤシ科(APG分類:ヤシ科)ニーパ属、1属1種のヤシ。東南アジア、オーストラリア原産で、海岸河口湿地帯に生育する。無茎、無刺のヤシで、根茎地中で分岐して伸び、地際から葉が多数発生する。葉は斜め上に伸び、長さ3~10メートル、緑色で光沢がある。羽状に全裂し、小葉は披針(ひしん)形、長さ60~90センチメートル、幅3~6センチメートル、50~80枚がV字状に対生する。葉柄は短く、背下面は半円の凸面となり、上面が凹面をなし、葉鞘(ようしょう)が幹を深く包んでいる。肉穂花序は長さ1~2メートルで、地際から突出し、雌雄個別に分岐する。花柄は径3~4センチメートルで、多数の包葉がある。雄花は鮮黄白色で長さ8ミリメートル、多数が花軸に放射状に密生し、長さ9センチメートル、幅2.2センチメートルの蒲(がま)の穂状を呈し、2~3本が花柄に頂生する。雄しべは3本で細長く、長さ5ミリメートル、花弁は3枚、細長い舟形で、長さ5ミリメートル。雌花は大きく、径10センチメートルの集合頭状花序をつくる。果実特大のクリを思わせ、扁平(へんぺい)な倒卵形で、長さ10センチメートル、幅7.5センチメートル。表面は滑らかで黒褐色を呈し、縦縞(たてじま)の脈条がある。果実の両側には稜角(りょうかく)があり、頂部には堅い鉤(かぎ)状の曲折した突起がある。集合果をなし、成熟すると散落し、発芽する。種子は倒卵形、胚(はい)は下部にある。果実の結実には30℃以上を要する。

 果実は食用とし、花柄の切り口から得られる乳汁は飲料とするほか、砂糖やアルコールの原料となる。葉は屋根に葺(ふ)くほか壁材とし、また籠(かご)、帽子など編物に用いる。沖縄県の西表島(いりおもてじま)と内離島(うちばなりじま)に自生し、西表島のものは船浦のニッパヤシ群落として国の天然記念物に指定されている。

[佐竹利彦 2019年5月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ニッパヤシ」の意味・わかりやすい解説

ニッパヤシ
nipa palm
Nypa fruticans Wurmb.

マングローブ林のすぐ後方に生ずるのがふつうで,よく大群落をつくるヤシ科の植物。地上茎はほとんどなく,地中をはって分岐する根茎は直径45cmに達する。葉は羽状全裂で大きく,長さ5~10m,羽片は線状披針形で,裏面脈上に褐色の圧毛がある。ニッパヤシは同じ湿地に生えるサゴヤシの若い木によく似ているが,この褐色の毛で区別できる。花は雌雄同株,雌の頭状花序は多くの苞と小苞で包まれている。頭状の集合果は直径約30cmになり,果実はやや扁平な卵円形で,長さ10~15cm,濃褐色。中果皮は繊維が多く,中果皮と内果皮の間に空間があるので海水によく浮かび,日本南部の海岸にもよく漂着する。1属1種でインド,マレー半島から東はソロモン群島,オーストラリアに分布し,北はマリアナ諸島,琉球の西表島まである。葉は小屋の屋根ふき材や壁材に,またバスケットなどの編物に用い,葉柄は壁や弓矢用にし,花軸の液からはアルコール,砂糖をとる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニッパヤシ」の意味・わかりやすい解説

ニッパヤシ
Nypa fruticans; nipa palm

ヤシ科の植物。インドから太平洋諸島,オーストラリアに広く分布し,海岸のマングローブ林のへりなどに生じる。幹はなく土中に横たわる根茎が地中で分枝し,葉は地上から叢生する。披針形の羽状葉で,長さ3~10m,光沢がある。雌雄同株。長さ1~2mの肉穂状の花序を地上から雌雄別々に直立させる。雄花は黄白色で花軸に放射状に密生し,雌花は径約 10cmの集合状の頭状花序をなす。果実は多数の花柄に放射状に密生,扁平な倒卵形で光沢のある黒褐色,長さ約 10cm,幅 7.5cmぐらい。果実を食用にするほか花柄からとれる乳汁を飲料にし,またこれから砂糖をつくる。葉は屋根ふき材として重要でこの葉で屋根をふいた家をニッパハウス nipa houseという。籠,むしろ,帽子などもつくる。

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百科事典マイペディア 「ニッパヤシ」の意味・わかりやすい解説

ニッパヤシ

インド〜南太平洋諸島特産のヤシ。海岸のマングローブ地帯の湿地にはえ,日本では沖縄西表(いりおもて)島の河口に見られる。地上茎がなく,泥中の根茎から直接,扇状に葉をつける。葉は常緑の羽状複葉で,長さ5〜10mに達し,小葉は長さ約1mで線形。雌雄同株。葉は屋根ふき材や壁材などとし,樹液から砂糖,アルコールをとる。
→関連項目ヤシ(椰子)

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世界大百科事典(旧版)内のニッパヤシの言及

【ヤシ(椰子)】より

…また,この多数の属や種の多くは限定された狭い地域にのみ分布するという,固有性の強い植物群でもある(図)。 幹(茎)は単一で直立するものが多いが,シュロチクのように株立ちになるもの,トウのようにつる性のもの,あるいはニッパヤシ(イラスト)のように地表を横走するものもある。葉は葉鞘(ようしよう),葉柄,葉身の三つの部分に分化しており,しばしば大型となり,ニッパヤシのように10mをこえることもある。…

※「ニッパヤシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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