翻訳|networking
もっとも一般的には、人々がつくるあらゆる種類のものを横につなげて網の目(ネットワーク)を形成することをいう。しかしこの概念が注目されるようになったのは、先進資本主義社会が情報社会とよばれるようになった段階、すなわち、あらゆる情報のやりとりがかなり自由に手軽にできるようになったことを踏まえて、価値を共有している諸個人がそのまま横に連なって自主的な組織をつくっていく動き、さらにはそれを基礎にしてこれまでつながりのなかった草の根の市民運動が横に連なって広く連帯の輪を広げていったことを意味するものとして使われて以来である。とりわけアメリカでは、この意味でのネットワーキングが「もう一つのアメリカ」を形成する運動として注目された。
このネットワーキングの紐帯(ちゅうたい)は、なによりもまず価値観である。『ネットワーキング』の著者リップナックJessica LipnackとスタンプスJeffrey Stampsはその価値を、治療、共有、資源利用、新しい価値創造、学習、成長、進化の七つにまとめている。これらの価値の脈絡のなかでネットワークづくりが行われるが、ネットワーキングでは、人間と人間の質的な社会関係、すなわちゆがめられないコミュニケーション、友人関係、信頼関係などに関心が払われる。またこの内部の相互作用、コミュニケーションによってネットワークが確認されるが、外部との明確な境界線はなく、それはオープンなままにされている。さらに個人はコミュニケーション関係の結節点をなし、個人と集団とは同等の重要性をもつことが認められ、上下関係が措定されることはない。
このようにネットワーキングは、ある種の組織であるといってよいのだが、それは人々の固定的な分業関係を階統的にまとめあげた官僚制的組織とは異なり、主体性をもった自律的な参加者が「全体と部分の一体化」を達成しようとする構造的特徴をもつ。またネットワーキングでは権限と責任が分散され、目標や手段の選択に関しても複数の選択が可能であり、多くの指導者が存在するというか、指導者とフォロワーとの区別が成り立ちにくくなる。
その後情報社会の深まり、とりわけインターネットの出現とともに、ネットワーキングは、人・もの・集団・組織などを水平的に結び付けることというもっとも一般的な意味で使用されるようになった。個々人を結び付けて特定の集団をつくることをソーシャル・ネットワーキングとよんできたが、それがオンライン・ネットワークを使うことによって、比較的容易にできるようになったからである。近代以前まで支配的であった血縁や地縁による結び付きである社会的ネットワークは、近代においては社会的事業を遂行するには欠陥が多かったが、その弱点が情報テクノロジーを使用することによって克服可能になり、ふたたびネットワーク、ネットワーキングが重要なものとして浮上してきたと考えられる。
[矢澤修次郎]
『J・リップナック、J・スタンプス著、社会開発統計研究所訳『ネットワーキング』(1984・プレジデント社)』▽『M・カステル著、矢澤修次郎・小山花子訳『インターネットの銀河系――ネット時代のビジネスと社会』(2009・東信堂)』▽『金子郁容著『ネットワーキングへの招待』(中公新書)』
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