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ハイパー原子核 ハイパーゲンシカク

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デジタル大辞泉の解説

ハイパー‐げんしかく【ハイパー原子核】

ハイパー核

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ハイパー原子核
はいぱーげんしかく
Hypernucleus

原子の中心にある「普通の原子核」は、陽子pと中性子n(あわせて核子という)の集団で構成されている。これに対して、多数の核子のほかにハイペロン(超核子)と総称される素粒子ラムダΛ、シグマΣ、グザイΞ)を1個以上含んでいるような原子核は、「ハイパー原子核」または単に「ハイパー核」とよばれて、普通の原子核とは区別されている。ハイペロン粒子の質量は、核子の質量の1.2~1.4倍とやや重い。しかし大事なことは、核子とハイペロンをあわせた8種類の粒子(p、n、Λ、Σ+、Σ0、Σ-、Ξ0、Ξ-)が、素粒子の分類においては対称性をもったファミリー(組)の構成員として同類だという点である。そのため、これら粒子群は、重粒子族の「八重項」とよばれる基本的な組合せとして有名である。いいかえれば、ハイパー原子核に含まれるハイペロンは、物理学上は陽子、中性子と同族とみなすべきというだけでなく、自然界ではきわめて重要な役割をもっている。
 ハイペロンと核子との違いは、クォーク模型で表現するとわかりやすい。すなわち、核子がp[uud]、n[udd]のようにuクォークとdクォークだけからできているのに対して、Λ[uds]やΞ-[dss]の例のように、ハイペロンはsクォークを構成要素として含んでいるところに特徴がある。このsクォークは、「ストレンジネス(奇妙さ)」とよばれる内部量子数Sの物理的実体であり、S=-(sクォークの数)という関係がある。すなわち、ハイペロンは、ΛとΣがS=-1、ΞがS=-2のようにストレンジネスは0ではないが、sクォークをもたない陽子と中性子はストレンジネスがない(S=0)。このために、ハイペロン粒子を含んでいるハイパー原子核は「ストレンジネスをもった原子核」ともよばれ、ストレンジネスをもっていない(S=0)「普通の原子核」と区別されているのである。
 ハイパー原子核を表示するには、ハイペロンのもつ正負の電荷も含めた核全体の電荷の代数和(陽子数でなく)を原子番号に対応させた元素記号を使い、その左肩に重粒子数(質量数)を付記し、含まれているハイペロンを左下に添え書きする。たとえば、ヘリウム4原子核4HeにΛが加われば質量数5の「ΛハイパーHe原子核」Λ5Heとなり、シリコン27原子核27SiにΞ-が加われば質量数は27+1=28であるが、荷電は14-1=13となりアルミニウムに相当するので「ΞハイパーAl原子核」Ξ28Alと表す。2個のΛを含んだ「二重ハイパー核」も数例が報告されているが、8Be原子核に2個Λが加わったものは質量数が8+2=10なので、ΛΛ10Beのように書き表す。
 ハイパー原子核の発見は、1952年9月、ポーランドのダニーツM. DanyszとプニエフスキJ. Pniewskiが、高エネルギー宇宙線のあたった写真乾板の中で長さ約90μm(マイクロメートル)の奇妙な飛跡を数例見いだしたことに始まる。それらは、生成されたΛ粒子が付着した核分裂片すなわち「Λハイパー原子核」であるとして、数週間後にワルシャワ近郊で開催された小研究会で発表された。たとえば宇宙線衝突によりハイペロン粒子が単独で生成された場合に、その電荷が0ならば写真乾板の中で飛跡は見えないが、ある時間経ったのちに陽子pとπ-中間子に崩壊すると、電荷が正負逆なので飛跡が2股に分かれて松葉またはピンセットの形になる特徴をもっている(すなわちΛの形になることからΛ粒子という名前がつけられた)。このようにハイペロンは宇宙線の自然衝突や加速器によって生成されるが、やがて弱相互作用によって崩壊し核子に変わる。その寿命は10-10秒程度である。これと同じように、ハイペロンが付着してできたハイパー原子核も、同程度の寿命でもって核子だけの集団すなわち通常の原子核に変化してしまう。したがって、地球上のあらゆる物質の構成要素である原子の中心に残っているのは「通常の原子核」ばかりである。
 このように、不安定で限られた寿命をもった粒子集団であるにもかかわらず、1980年前後から、ハイパー原子核の構造や崩壊形式が物理学界で大変注目を集めている。たとえば日本の「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」やアメリカのブルックヘブン国立研究所の陽子加速器、あるいはアメリカのジェファーソン国立研究所の電子線加速器などにより、ハイパー核生成実験が盛んに行われて、核物理学の視野もストレンジネスを含む広範な分野へと研究が大きく進展してきた。さらに、KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で建設を進めている「大強度陽子加速器計画J-PARC(ジェイパーク)」においても、ストレンジネス核物理学の研究は重要なテーマとなっている。そのおもな理由を三つにまとめてみよう。
(1)新重粒子多体系の示す構造 ハイパー原子核の寿命10-10秒は大変短いようにみえるが、原子核の世界における標準的な時間の長さ(10-23秒程度)に比べて十分長いといえる。すなわち、ハイペロンを含む新しい多粒子集団(ハイパー核)は、従来にない物質系として存在意義をもっているわけである。たとえば、パウリ原理の制限のないハイペロンの参加する新多体系の構造や運動形態は、従来みられない新奇な特徴を含んでいるはずである。
(2)新相互作用の知見 通常核を構成する核子の間に働く核力の性質はよく研究されてきたが、重粒子族「八重項」の仲間であるハイペロンと核子の間、あるいはハイペロン同士に働く強い相互作用の性質は少ししか知られていない、あるいは未知に等しい。ハイパー核構造や崩壊の分析が注目を集めているのは、「八重項」全体を支配する相互作用の知見を探るうえで重要な窓口になっているからである。また、弱い核力(相互作用)のメカニズムも、ハイパー核の崩壊過程を調べて知ることができるからである。
(3)天体核物理学への貢献 星の生成や爆発など進化の過程においては、陽子・中性子だけでなくハイペロンなど数多くの素粒子が生まれては変化してゆく。その種々の段階の星は超高密度の世界であり、いわば巨大な原子核の集団ということができ、しかも種々の素粒子を含んでいる。たとえば、中性子星の直径を理論的に推定するためには、ハイペロン同士や核子との強い相互作用の知識が不可欠となる。加速器によるハイパー原子核や多様な不安定原子核の研究は、宇宙進化のシナリオを探求するうえで貴重な知識源となっている。
 このような新しい研究を進めるためには、地上で加速器によりハイパー原子核を大量に生成し、精度よく計測しなければならない。ハイパー原子核を人工的につくる方法は、高エネルギー加速器でどんな種類のビームをつくり、原子核(核子)を標的にしてハイペロンをいかに生成するかによっている。ハイパー核研究の歴史において、実験的にも格段の進展をみたのは、1970年代に入って数年後、ヨーロッパ合同原子核研究機構(CERN(セルン))の陽子シンクロトロンで発生させたK中間子を入射ビームとして原子核に衝突させ、(K--)反応の現代的カウンター実験が開始されてからである。反応式K-n→Λπ-により中性子nをΛに変える方法は、K中間子のもっていたsクォークが注入されて中性子のもっていたdクォークと入れ替わるので、「ストレンジネス交換反応」とよばれている。他方、π(パイ)中間子を加速して衝突させる方法は、反応式π+n→ΛK+で表され、対生成によるsクォークがΛをつくり、反sクォークはK+中間子として外にでてゆく。この反応の運動量移行が大きいことを利用して、核内の深いエネルギーのΛ状態を明確に生成することができる。Λハイパー核の大きな角運動量状態が選択的に励起(れいき)されるので、アメリカのブルックへブン国立研究所や日本の高エネルギー研究所の陽子加速器で大きな成果をあげた。このようにつくられたΛハイパー核の状態から放出されるγ(ガンマ)線の同時精密測定も先駆的に実施されるようになり、分光学的な研究に大きく貢献している。さらに、最近進展をみているアメリカのジェファーソン国立研究所のハイパー核生成実験は、反応式ep→e’ΛK+に基づいており、高エネルギー電子線を用いて陽子pをΛに変換するプロセスという点でユニークである。一方、日本で建設中の多機能な大強度陽子加速器計画J-PARCの施設では、重点課題の一例として、反応K-p→Ξ-K+によりストレンジネス-2をもつ「Ξハイパー原子核」をつくる計画も進行中であり、いままでにないΞ粒子と核子間相互作用や新しいハイパー核の知見が得られるものと期待されている。
 以上のように、ストレンジネスS=-1のΛやΣハイパー原子核から、S=-2のΛΛ二重ハイパー原子核やΞハイパー原子核に至るまで、多彩で同時に統一的な視点でもって、ハイパー原子核物理学(ストレンジネス核物理学)が今後いっそう進展するであろう。[元場俊雄]

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