日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストレンジネス」の意味・わかりやすい解説
ストレンジネス
すとれんじねす
strangeness
強い相互作用をもつ素粒子の仲間をハドロンと総称するが、これらの粒子、たとえば陽子と中性子(核子と総称)、あるいはπ(パイ)中間子(+e、0、-eの電荷をもつ)などはすべて電荷の値が異なるだけで、質量その他の性質が非常に似た仲間をつくっている。この事実を理解するために、抽象的空間(アイソスピン空間)を考えて、ハドロンの粒子はそこでの角運動量(アイソスピン)Iをもつものとする。量子力学ではこのIの値は、整数か半整数であり、またその成分、たとえば第3軸成分I3は、2I+1個のとびとびの値をもつ。核子のIは1/2、I3は陽子に対して+1/2、中性子に対して-1/2とする。π中間子に対してはI=1,I3=1,0,-1と置く。次に重粒子(バリオン)数Bを核子に対して1、π中間子に対して0とすると、粒子の電荷Qは、eを単位にしてQ=I3+(B/2)と表せる。つまりハドロンの粒子はアイソスピン空間で、それぞれ一定の大きさの角運動量Iをもち、その角運動量の向きが第3軸となす傾きによっていろいろな電荷の値をとる、とみなすのである。
高エネルギー実験の進展とともに新しい一連の素粒子が発見されるにつれ、ハドロンには前記のアイソスピンやバリオン数のほかに、新しく整数値をとる量子数S(ストレンジネス)を付与しなければならないことが判明した。核子やπ中間子ではS=0であり、S≠0の粒子をストレンジ粒子とよぶ。こうしてハドロン全体に対して、粒子の電荷はQ=I3+(B+S)/2と表すことができ、この関係を中野‐西島‐ゲルマン則という。またB+S≡Yと書いて、ハイパーチャージといい、これら定義式に現れた量子数は、強い相互作用や電磁相互作用によるハドロンの反応ですべて保存される。
クォーク模型では、sクォークが-1のストレンジネスをもつので、sクォークを含むバリオンいわゆるハイペロンの仲間のΛ(ラムダ)粒子、Σ(シグマ)粒子はsクォーク1個をもつのでSが-1、Ξ(クシー)粒子は、sクォーク2個を含みSが-2、Ω(オメガ)粒子は3個のsクォークからなるのでSは-3となる。2008年に茨城県の東海村に建設された大強度陽子加速器施設(J-PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)では、ハイペロンを含む原子核、いわゆるハイパー核の研究が進められている。
[小川修三・植松恒夫]