日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハダカイワシ」の意味・わかりやすい解説
ハダカイワシ
はだかいわし / 裸鰯
lanternfish
硬骨魚綱ハダカイワシ目ハダカイワシ科Myctophidaeの総称、またはそのなかの1種。南極海から北極海を含む世界の全海洋に分布し、大部分の種は深海に生息している。世界に32属235種が分布し、そのうち、日本には23属90種ほどが知られている。体は側扁(そくへん)し、長楕円(ちょうだえん)形から楕円形まで見られる。目は大きく頭の前端近くに位置する。吻(ふん)は短く、吻長は眼径よりも著しく短い。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下か、あるいはそこを著しく越える。ほとんどの種で口は頭の前端に開く。上下両顎に多数の小さい歯からなる歯帯がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨にも歯がある。すべてのひれは軟条からなり、棘(きょく)がない。背びれは体の中央近くにあり、その後方に脂(あぶら)びれ(背びれの後方にある1個の肉質の小さいひれ)がある。臀(しり)びれは背びれ基底(付け根の部分)の中央部下、あるいはわずかに後方から始まる。背びれは9~26軟条、臀びれは11~27軟条。側線は多くの種でよく発達し、体の中央部を走る。鱗(うろこ)は一般に円鱗(えんりん)ではがれやすく、これがハダカイワシの和名の由来の元になっている。まれに櫛鱗(しつりん)をもつ種類もある。脊椎骨(せきついこつ)数は27~46個。すべての種に発光器があり、体側にある大きい一次発光器はいくつかの群をなして配列し、その位置関係が種類を区別する重要な特徴である。それ以外に、頭、体および不対鰭(ふついき)(垂直鰭ともいう。背びれ、臀びれ、尾びれの総称で、対をなさないひれ)に小さい二次発光器、さらに、頭、尾柄(びへい)部およびひれの基底にさまざまな形の発光腺(せん)をもつ種がある。尾柄の発光腺には二次性徴をもつ種がいる。一般に深いところにすむ種は褐色または黒色で、浅いところにすむ種は銀白色である。緑色や青色の金属光沢のある種もいる。ほとんどの種は中深層にすみ、夜間に水深200メートル以浅まで日周鉛直移動をして、甲殻類、浮遊性軟体類、小形魚類などを食べる。中形、大形の魚類や海生哺乳(ほにゅう)類の餌(えさ)として重要であり、海洋における食物連鎖の重要な部分を占める。一部を除いて食用とはされない。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2024年11月18日]
代表種
ハダカイワシDiaphus watasei(英名watases lanternfish)は、青森県以南の太平洋および島根県以南の日本海、沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)、台湾、インドネシア海域、オーストラリア北西岸など西太平洋、およびマダガスカルの西岸など西インド洋に分布する。体は長楕円形で、体高は中くらい。体長は体高のおよそ5.0~5.5倍。上下両顎の歯は小さく絨毛(じゅうもう)状である。背びれと臀びれは14~16軟条、胸びれは10~13軟条、腹びれは8~9軟条。側線鱗数は36~38枚。鰓耙(さいは)は上枝に7本、下枝に15~16本。
また、発光器は種の重要な特徴である。頭部にある発光器のうち、眼上発光器Suo(図中④、以下同)と眼下発光器So(⑤)はないが、小さい鼻部背側発光器Dn(①)と鼻部腹側発光器Vn(②)はある。鼻部背側発光器は鼻孔よりも小さく、鼻部腹側発光器は三角形状で、眼窩(がんか)の前縁下方と上顎の間に位置する。眼前上部発光器Ant(③)は1個で小さく、眼窩の前縁背部の直前にある。体側にある発光器では、胸びれ上発光器PLO(⑦)は側線よりも胸びれ基底近くにある。肛門(こうもん)上発光器SAO(⑫)は3個で、斜め直線状に並び、最上のものは側線からやや離れたところにある。体側後部発光器Pol(⑭)も同様に、側線からやや離れたところにある。胸部発光器PO(⑩)は5個。尾びれ前発光器Prc(⑱)は4個で、最上のものは側線から離れたところにある。胸びれ下発光器PVO(⑧)は2個で、上のものは胸びれ基底上端よりも下にある。前部臀びれ発光器AOa(⑬)は6個で、最初と最後のものは高位にある。後部臀びれ発光器AOp(⑮)は5個。尾柄には発光腺がない。
最大体長は17センチメートルほどになる。水深100~2000メートルにすみ、夜間に水深100メートル以浅まで日周鉛直移動をする。南日本の大陸棚およびその斜面で普通に底引網により採集される。
[上野輝彌・尼岡邦夫 2024年11月18日]