バイオマーカー(読み)ばいおまーかー

知恵蔵「バイオマーカー」の解説

バイオマーカー

人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標で、観察、診断、治療に用いられる。非常に多様で分類の仕方も様々であるが、生化学検査、血液検査、腫瘍(しゅよう)マーカーといった臨床検査値、CTやMRI、PETなどの画像診断データのほか、広い意味に捉えた場合には体温や脈拍など日常の診察に使われるバイタルサインまでも含む。
疾患を特定するための診断マーカー、経過を予測する予後マーカー、薬剤がどう作用するかを診る薬力学マーカー、ある治療による効果を予測する予測マーカー、臨床試験の効果を測る代替マーカー、症状の推移や治療への反応を診るモニタリングマーカー、薬の安全性や毒性を判断するための安全性・毒性マーカーなど、目的別に分類することがある。例えば、1~2カ月間の平均的な血糖値を示すHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)は糖尿病の診断マーカーでありモニタリングマーカーでもあると言える。他に前立腺がんの有無を知りたい場合に調べるPSA(前立腺特異抗原)は診断マーカー、乳がんの治療法を決める際に診るHER2は予測マーカー、乳がんや頸(けい)がんの発病に関与する遺伝子BRCA1とBRCA2は予後マーカーである。
患者の遺伝子を調べその人に合った治療法を選んで行う個別化医療(オーダーメイド医療)には、診断、予後、薬力学、モニタリングなどの目的にかなったバイオマーカーが欠かせない。また、新薬開発におけるリスクと負担を軽減する存在として、製薬業界でもバイオマーカーの重要性に注目が集まっている。

(石川れい子  ライター / 2014年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「バイオマーカー」の解説

バイオマーカー
ばいおまーかー
biomarker

人間などの生物の体内に存在するさまざまな分子のなかで、その生物の状態や変化を客観的に把握できる物質、ならびにその物質を検査項目とすることをさす。生物指標または生物指標化合物ともよばれる。現在は、「生物指標」よりも「バイオマーカー」という名称のほうが一般的である。

 バイオマーカーの利用や開発は、医療、環境、農業、食品などのさまざまな分野において進んでいる。開発はいずれも、数値化したデータを評価の際の指標として活用したいという要望にこたえる目的で進められている。そのなかでも、とくに病気の診断や検査、健康診断を中心としたヘルスケア分野におけるバイオマーカーの利用は、2000年代初頭ぐらいからとくに活発化している。その理由として、そのころからバイオマーカーの使用目的・診断対象分野・検査対象物質が多様化したことがあげられる。

 たとえば、使用目的からみると、(1)診断、(2)病気の進行状態などの判断、(3)薬の副作用などの予測、(4)病気を処置した後の状態を把握する予後評価などの患者に直接的にかかわる部分に加えて、創薬とよばれる薬の基礎研究分野でも役だっている。具体的には、(1)安全性・毒性評価、(2)有効性評価、(3)薬の作用機序の薬力学的検証などのさまざまな目的に、バイオマーカーは使われている。たとえば肺がんなどの治療で広く使用されている薬剤「イリノテカン」に対する副作用は患者によって個人差があるので、薬の投与前にDNA遺伝子検査で予測することが日本でも承認されている。

 次に疾患分野でみると、がん、心臓疾患、糖尿病などの代謝性疾患や免疫性疾患など多様な疾病をカバーする。がんマーカーは他の疾患に係るバイオマーカーよりも種類・販売量とも格段に多く、今後とも増えると予測される。たとえば国立がん研究センターのがん情報サービスでは、現在のところ14種のおもながんの補助診断手段として腫瘍(しゅよう)マーカーによる検査が列記公表されている。1種類のがんであっても、発症部位や進行状態等で複数のバイオマーカーから選択することになる。

 また、検査物質も、タンパク質以外にDNAやRNAといった遺伝子にまで拡大していて、新しい研究成果が、続々と日本や世界で発表されている。2021年(令和3)12月には、大手臨床検査装置製造企業のシスメックス社が、アルツハイマー病の診断補助手段として、血液中のバイオマーカー・アミロイドβ(ベータ)(Aβ)の蓄積状態を把握するための検査試薬について製造販売の承認を申請した。さらに、うつ病などの精神疾患分野においても、バイオマーカーを応用する研究が進んでいる。こうした研究は、既存の製薬企業とベンチャー企業、ならびに電気通信分野の基礎研究や独創的な研究を得意とする機関が連携して推進されている。そのうえ、将来は、スマートフォンやウェアラブルデバイス(腕時計型・リストバンド型・帽子型など、身体に装着したり着用したりするタイプのコンピュータ端末)等から得られるデータを活用しながら、既存のバイオマーカー等の臨床分析データや、さらに人工知能解析を組み合わせたデジタルバイオマーカーの分野も拡大すると予測される。デジタルバイオマーカーは、高血圧や睡眠時無呼吸などの複数の健康障害への応用が期待される。

 バイオマーカーの世界的な市場規模は着実に拡大傾向にある。調査企業と用語の定義によって規模の判断は大きく異なるが、あるレポートでは、2020年時点で60億円(5181万米ドル)以上と推測されている。世界的な人口高齢化と慢性疾患の有病率の増加や、副作用予測診断などの個別化医療の普及などが、バイオマーカー市場の拡大に貢献しているのは明らかである。

[飯野和美 2022年7月21日]

『ニュートンプレス著『からだの検査数値――健康診断の数値の意味と、病気のサイン・予防法がよくわかる』新訂版(2020・ニュートンプレス)』『日経バイオテク編『日経バイオ年鑑2021・2022』(2020、2021・日経BP社)』『西道隆臣著『アルツハイマー病は治せる、予防できる』(集英社新書)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『腫瘍マーカー検査とは』 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/marker.html(2022年6月閲覧)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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