バルトルシャイティス(その他表記)Jurgis Baltrušaitis

改訂新版 世界大百科事典 「バルトルシャイティス」の意味・わかりやすい解説

バルトルシャイティス
Jurgis Baltrušaitis
生没年:?-1988

リトアニア出身の美術史家。同名の父(1873-1944)は高名な外交官,詩人。形態論的美術史の旗手H.フォシヨン娘婿であり,学問的にも彼の直系に位置する。1939年までカウナスの大ビータウタス大学の美術史教授の職にあり,その後パリに定住し,歴史学,考古学,神話学,神秘学などの該博な知識を駆使したユニークな美術史を講じた。初期論文《ロマネスク彫刻の文様様式論》(1931)は,歪められた形態世界の背後にある構成のメカニズムを解き明かした点で高い評価を得ている。中世幻想と異形族のイメージの普遍的図像化の問題を論じた《アルメニアグルジアの中世美術研究》(1929),《シュメール美術ロマネスク美術》(1934)では,ロマネスクの形態論的基調が,西欧と東洋の両文明にまたがる歴史的・伝説的な典拠を通して再考されている。中世美術研究の集大成ともいえる《幻想の中世》(1955),《覚醒驚異》(1960)の二部作は,ゴシック美術の生成における古代世界の再生と東方世界の寄与を浮彫にした代表的著作である。また,視覚の戯れとそれがもたらす思考変質を論じた《アナモルフォーズ》(1955),《アベラシオン》(1967),《鏡》(1978)の一連の研究は,われわれの文明の一側面をかたちづくる幻視的世界の起源を探ろうとする試みとして,大いに注目されている。
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百科事典マイペディア 「バルトルシャイティス」の意味・わかりやすい解説

バルトルシャイティス

リトアニア出身,フランスの美術史家。同名の父〔1873-1944〕は高名な外交官,詩人,義父はH.フォシヨン。《幻想の中世》(1955年),《覚醒と驚異》(1960年)はゴシック美術に対する古代と東方の寄与を独自の視点と図像構成から明らかにしたもの。《アナモルフォーズ》《アベラシオン》《鏡》《イシス探究》などを含め,神秘学から光学に及ぶ博識と才筆に支えられた著作には,ワールブルク学派と共通する問題意識が見られる。

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世界大百科事典(旧版)内のバルトルシャイティスの言及

【海】より

…ジグムントは死んだシンフィエトリを,渡し守に変装したオーディンに引き渡し,彼はその死者を海を渡って運んで行った。《ベーオウルフ》の死せるスクルドは,宝物を積んだ舟に乗せられ,北欧神話のバルドルの死体は海浜の舟の上で火葬されたのである。フランスの民間信仰でも,死者の行くところは地中の海とされている。…

【涙】より

…オウィディウスによれば,カエサルの死を予見して多くの場所で象牙の神像が涙を流したという(《転身物語》)。また,北欧の《スノッリのエッダ》によれば,オーディンの子である善良なバルドルが死んだとき,冥府の女神ヘルは世界中の生きているものと死んでいるものが彼のために泣けば生き返らす,と約束した。人間も動物も大地も石も木も,すべての金属も泣いたが,悪神ロキが化けたと推測される女巨人ソックだけが涙を流さなかったために,バルドルはよみがえらなかった。…

【ヤドリギ】より

…ヤドリギが古くから神聖視されたのは,冬になって宿主である落葉樹のオークが葉を落としているのに反し,宿生しているヤドリギだけは青々とした葉をもち続けており,その結果,いったん葉を落としたオークの木が再生したかのようにみえたからである。北欧神話には,オーディンの息子バルドルが,いったんは悪神ロキによってヤドリギでつくられた矢で射殺されるが,その後生きかえるという話が伝えられているが,これもヤドリギにまつわる死と復活のイメージに関係するものと思われる。【山下 正男】。…

※「バルトルシャイティス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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