翻訳|pampas
アルゼンチン中央部の大平原。ブエノス・アイレス州,ラ・パンパ州,サン・ルイス州,コルドバ州,サンタ・フェ州にまたがり,総面積は53万5000km2で,国の大陸部面積の19.3%を占める。総人口は約1980万(1995)で,アルゼンチンの57.2%が居住する。パンパとはもとケチュア語で〈平原〉を意味するが,その語義どおり標高150m以下の起伏の少ない平原が延々と続く平地で,丘陵や山塊は存在しない。樹木も少なく,高さ十数mに達するオンブーombú(草の一種)が随所に存在する。この広大な地域は気候によって湿潤性パンパと乾燥性パンパに大別される。前者は年間降雨量が500~1000mmに達し,土壌は腐植質に富むので肥沃で,農牧業の最適地となっている。小麦,亜麻,トウモロコシ,ヒマワリ,モロコシなどパンパの農産物の多くを産出し,アルファルファと呼ばれる牧草の生長にも適し,牧畜業の中心地でもある。乾燥性パンパは,パンパの西部,とくにラ・パンパ州を中心に広がり,年間降雨量は500mm以下で,灌木が多く,ほとんど不毛である。
パンパは16世紀にスペイン人が渡来した当時,西部にはアラウカノ族,東部のラ・プラタ川周辺にはケランディエ族が居住していたが,植民者に対し反抗的で,植民者の目ざした貴金属も産出されなかったため,永らく〈無用の地〉とみなされていた。わずかに植民者の持ち込んだ牛がパンパで自然増殖した野生牛を捕獲してその皮を輸出することが細々と行われたにすぎなかった。この野生牛の捕獲という困難な仕事がガウチョという勇敢な牛童を生むことになったのである。18世紀に入り,スペイン王室が農業に力を入れはじめるとパンパもようやく注目を集めるが,パンパが本格的に開発されるのは19世紀後半以降だった。当時独立後の政治的混乱を一応収拾したアルゼンチンは,外国移民と資本をパンパに大量に導入することで農牧業を発展させ,ヨーロッパ(とくにイギリス)の食糧需要の増大にこたえようとした。この政策は大成功を収め,パンパに流入した移民は移住地で農業生産に従事するか,あるいは小作人として小麦などの農産物や牧草(アルファルファ)の植付けにたずさわった。一方,イギリス資本などによってパンパに網の目のように張りめぐらされた鉄道は農牧産品を港まで輸送する役割を果たし,さらに,アルゼンチン政府は国の軍隊を動員してパンパからインディオを駆逐し,農牧業のための処女地を解放した。こうした一連の要因に支えられて,パンパの農牧業は飛躍的発展を遂げ,第1次大戦直前アルゼンチンは世界屈指の農牧産品の輸出国に成長した。だが,パンパの農牧業にあまりに依存したこの発展パターンは,アルゼンチンをイギリスの周辺国としての従属的立場に追いやり,工業化の立遅れを招く因をなしたことも否定できない。今日なおパンパは国の農牧業の7割近くを産出しているが,ブエノス・アイレス市やロサリオ市などの工業地帯も中に含まれ,全国の工場の約8割がパンパ地域に集中している。
執筆者:松下 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
アルゼンチンの首都ブエノス・アイレスを中心に広がる平原の名称。パンパスともいう。ケチュア語で木のない草原を意味しており、19世紀までプレーリーに似た丈の高いイネ科草原が広がっていたが、その後の開拓で広大な農耕地、牧場地帯に変化した。現在ではアルゼンチンの全人口の7割、耕地の8割、牧草地・放牧地の6割が集中する同国の核心地域となっている。また同時に世界的な穀倉地帯の一つとして、ヨーロッパ諸国やわが国に小麦やトウモロコシ、牛肉などを輸出している。面積は60万平方キロメートル、アルゼンチン全土の5分の1を占める。年降水量は500~1000ミリ程度で、土壌はきわめて肥沃(ひよく)である。主としてラ・プラタ川流域に属する。
パンパの開発は新しい。スペイン人がやってきたのは16世紀初めであったが、ここでは金銀は出ず、農民も原住民との抗争に敗れたため、定住は進まなかった。ただ彼らの持ち込んだ牛馬は野生化し、急速にその頭数を増やしたため、それを狩猟する職業が成立した。それがガウチョである。パンパの開発が進むのは19世紀末にインディオが討伐されてからである。当時ヨーロッパでは人口が増え、小麦や牛肉の需要が増加しつつあった。このためパンパでも牧場経営や小麦の栽培が始まり、インディオを排除した土地に大量のヨーロッパ移民が入植した。また機械力や鉄道も導入された。ただインディオから奪い取った土地は、討伐軍の将校たちに分け与えられたため、大農園エスタンシアが発生し、大地主と、牧童として雇われたガウチョや小作人として入植した移民との間に、著しい貧富の差が生ずることになった。その体制は現在まで引き続いており、さまざまな社会問題を引き起こしている。
[小泉武栄]
「パンパス」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… このステップは,東西文明の伝播路として,古来,重要な役割を果たしてきた。
[プレーリーprairieとパンパpampa]
北アメリカ中西部にはウシクサ属を中心としたイネ科草本が優占する温帯草原が広がり,プレーリーと呼ばれる。東側では降水量が多く,1m近くも厚く堆積する黒土をもち,草丈が2~3mに及ぶ高茎草原で,世界の一大農業地帯が発達している。…
…国境は東・北側がラ・プラタ川およびその支流によってウルグアイ,ブラジル,パラグアイ,ボリビアと,西・南側はアンデス山脈によりチリと接し,東・南側は大西洋と南極の海に臨んでいる。 西側に第三紀の褶曲山地であるアンデス山脈が走り,東方に広大な平原パンパが広がる。アンデス山地,ブラジル高原に源を発するウルグアイ,パラナ,パラグアイ,サラド川などの支流を合わせてパンパを貫流するラ・プラタ川は,豊かな水資源と交通の便を提供する。…
…アルゼンチンとウルグアイにまたがるパンパの牧童(カウボーイ)。ベネズエラやコロンビア東部ではリャネロllanero,ブラジルではガウショgaucho,チリではワッソhuasoという。…
… このステップは,東西文明の伝播路として,古来,重要な役割を果たしてきた。
[プレーリーprairieとパンパpampa]
北アメリカ中西部にはウシクサ属を中心としたイネ科草本が優占する温帯草原が広がり,プレーリーと呼ばれる。東側では降水量が多く,1m近くも厚く堆積する黒土をもち,草丈が2~3mに及ぶ高茎草原で,世界の一大農業地帯が発達している。…
※「パンパ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新