ヒトゲノム解析計画(読み)ヒトゲノムかいせきけいかく

百科事典マイペディア 「ヒトゲノム解析計画」の意味・わかりやすい解説

ヒトゲノム解析計画【ヒトゲノムかいせきけいかく】

ヒトの全遺伝子を解析することを目的とした世界的なプロジェクト。ゲノムとは,生物生存に最小限必要な1組の遺伝子のこと。ヒトでは,約10万個の遺伝子が約30億の塩基対からなる染色体DNAに分配されている。2005年頃までに,この全配列を解読し,それぞれの遺伝子の機能を明らかにしようというのが,このプロジェクトである。1988年,プロジェクトを推進する国際機関〈ヒトゲノム機構(HUGO)〉が発足。1990年頃から各国のヒトゲノム解析計画がスタートし,日本も東京大学医学研究所に〈ヒトゲノム解析センター〉を設置するなど,1991年から本格的に参加した。 現在すでに染色体地図はほぼ完成し,この地図をもとに遺伝学的手法を使って,いくつかの病気に関係する遺伝子が発見されている。日本の研究機関も,大腸癌抑制遺伝子,急性骨髄性白血病遺伝子などを明らかにするという成果を上げた。しかし,一方では遺伝子変異が見つかっても治療法がないことも多く,患者への告知などが課題となっている。米国では遺伝子診断の結果によって生命保険の契約を断られたり,就職差別や解雇につながるといった新たな問題も生じている。 2000年6月,日米欧の国際研究チームは,全ゲノムの85%に当たるDNA塩基配列の解読データ〈概要版〉を公表した。当初2005年までに解読する計画だったが,米国民間企業も参入して予定が前倒しとなり,2003年4月に米英日仏独中の6ヵ国代表が解読完了を宣言した。すでに新薬開発などポスト・ヒトゲノムの研究競争も始まり遺伝子特許が大きな問題になってきている。 日本では2000年6月,科学技術会議生命倫理委員会が,この研究に際して研究者や医療従事者などが守らなければならない〈ヒトゲノム研究の基本原則〉を定めた。そこには,個人の遺伝情報の保護厳守や遺伝子に基づく差別禁止,被害者補償などが盛り込まれている。→遺伝子工学バイオテクノロジー遺伝子治療
→関連項目バイオエシックス

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

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