ヒトデ(その他表記)star fish
sea-star

改訂新版 世界大百科事典 「ヒトデ」の意味・わかりやすい解説

ヒトデ (海星/人手)
star fish
sea-star

ヒトデ綱Asteroideaに属する棘皮(きよくひ)動物の総称,またはそのうちの1種を指す。

世界で約2000種,日本にはヒトデ,スナヒトデモミジガイ,ホシヒトデ,カワテブクロアカヒトデアオヒトデイトマキヒトデオニヒトデ,ニチリンヒトデ,タコヒトデヤツデヒトデマンジュウヒトデなど280種ほどが生息する。すべて海産で,淡水にすむものはいない。

 体の中央に盤があり,それを中心にしてふつう5本の腕が放射状にでているが,オニヒトデは13~16本,タコヒトデは22~39本もの腕をもっている。盤の腹側の中央に口があり,背側(反口側)には肛門や穿孔板がある。全身は繊毛が生えた外皮でおおわれ,内部には石灰質の骨板が多少すきまをあけて並んでいて,そのすきまから皮鰓(ひさい)がつきだし,呼吸をしている。骨板間にすきまがあることによって腕を自由にまげて運動することができる。体の表面には骨板の上にある短いとげが多数つきだし,このほかにはさみとげ(叉棘(さきよく))が散在する。はさみとげは細い柄の上に3個の強いつめをもち,これで皮膚を清潔にしたり,保護する働きをしている。

 口から各腕の正中線に沿って深い溝が腕の先端までつづき,溝の中には2列または4列に管足が並んでいる。管足は筋肉質に富んだ中空の管で,先端が吸盤になっているが,砂泥地にすむスナヒトデやモミジガイでは管足がくさび形で,吸盤はない。これらの管足を動かして体を移動させる。各腕の先端に1個の光を感ずる眼点があり,餌の影などの光の強弱を探知することができる。盤の中の大部分は胃によって占められている。胃は水平にくびれて噴門胃と幽門胃に区分され,幽門胃から1対の盲囊が腕腔にのびていて,ここからタンパク質を分解する消化液が分泌される。ヒトデはみな肉食で貝,死んだ動物などをたべる。歯がないが,ふつう噴門胃を口の外へ反転させて,包みこんで消化し,これを腕の中にのびている盲囊に送って吸収する。胃の先は短い腸で肛門につづくが,不消化物を口から吐きだす場合が多くて肛門はほとんど使われず,種類によっては肛門がなくなっている。

 大部分は雌雄異体であるが,外観から雌雄は区別できない。生殖巣は腕の中にあり,生殖口は腕の付け根に開いている。海中に産みだされた卵は孵化(ふか)したのち,ビピンナリア幼生bipinnariaになって,しばらく浮遊生活をし,水底に沈んで幼ヒトデになる。しかし,大きな卵でビピンナリア幼生にならないものがあり,また産みだした卵を母体につけて保育するもの,母体内で発育して直接発生をするものなどがあるが,このような発生をするものは,きびしい自然の寒海にすむ種類に多くみられる。またヤツデヒトデでは成熟すると盤の中央の溝から2個体に分かれ,それぞれに失われた腕を再生してやがて完全な体になる。一般に再生力が強く,1本の腕だけでも盤が付着していると足りない腕を全部再生して元の体になることもできる。

 ヒトデによる食害は大きい。1953-54年と59年にヒトデが東京湾に大発生して,養殖したアサリに大被害を与え,当時の損失額で3億数千万円といわれる。北海道のホタテ漁場には大型なニッポンヒトデDistolasterias nipponがいて,これのホタテガイの食害も大きい。またオニヒトデAcanthaster planciは暖海のサンゴ礁を形成するイシサンゴ類ポリプをたべ,各地のサンゴ礁に大きな被害を与える。北海道から東北地方に分布するタコヒトデはアワビに被害を与える。

ヒトデAsterias amurensisはマヒトデとも呼ばれ,北海道から瀬戸内海に分布し,沿岸から水深約100mまでの砂泥底にすむ。体は淡黄色から淡紫色まで個体によって変異があり,東京湾ではほとんど黄色のものがおり,これにキヒトデという別名がつけられている。大きい盤を中心にして長さ10cmほどの5本の腕がある。底をはうばかりでなく,体内に気体を充満させ,管足を収縮させて,休止状態になり,潮流にのって移動する。そして移動中に何かに触れると体内の気体を外にだし,管足が運動を始めて正常な生活にもどるといわれる。産卵は北海道では6月ころであるが,東京湾では1~6月に行われる。貝類,十脚類,等脚類,クモヒトデ類,多毛類,魚類などをたべるが,貝類をもっとも好み,小型より大型のものをより好んでたべる。なお,ヒトデの名はつくが,クモヒトデの仲間は,クモヒトデ綱に属する棘皮動物である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒトデ」の意味・わかりやすい解説

ヒトデ
ひとで / 海星
starfish

棘皮(きょくひ)動物門ヒトデ綱Asteroideaに属する海産動物の総称。またはそのなかの1種。体は平たく硬い星形で、中央から放射状に伸びた腕をもつ。海岸の浅瀬から深さ数千メートルの深海まで分布し、世界で1500余種、日本近海からは約200種が知られる。

[重井陸夫]

形態

腕は普通5本あるが、種類によっては8~16本のものもまれではなく、40本近いものもある。また、本来5腕の種が4本あるいは6本もつこともまれではない。腕の部分がほとんどなく、全体が五角形のものもある。体色は一般に鮮やかで、赤、青、黄、紫、茶、あるいはそれらの入り混じったものなどさまざまである。体は無数の小骨板が寄り集まってできているために硬くて重い。それぞれの骨板は靭帯(じんたい)や筋肉で結ばれていて、体をねじ曲げることができる仕組みになっている。骨板の上は薄い表皮で覆われている。体の背面や側面に棘(とげ)をもつものもある。また、叉棘(さきょく)というごく小さいピンセットのような棘の変形物をもつものもあり、皮鰓(ひさい)というアワ粒ほどの小さな呼吸用の袋を体の背面に無数にもつものもある。体の下面中心には口があり、口の部分から各腕の先端へ向かって歩帯溝という溝が走っている。溝の縁には管足が対(つい)をなして規則正しく並んでいる。腕の最先端部の管足は対をなさず、吸盤を欠き、基部に赤い眼点がある。体の内部には、口に続く部分に胃があり、盲嚢(もうのう)、生殖巣、水管系、血洞系、神経系が放射状に伸びて腕の先端近くまで達している。肛門(こうもん)のないものも多いが、ある場合には背面の中心に小さく開く。背面の中心近くには多孔板(たこうばん)といういぼのような部分があり、外界と水管系とをつないでいる。

[重井陸夫]

生態

体の移動には管足を用いる。岩の上にすむものは、管足の先の吸盤を岩に吸着させ、多数の管足の働きで体全体を片方へ押し進めながら、じわじわとはい進む。砂泥の上にすむものは、管足で砂泥をかき分けるようにしながら進む。ほとんどのものが肉食で、動きの鈍い動物、とくに二枚貝を好み、巻き貝、多毛類、小形甲殻類、棘皮動物、あるいは魚貝類の死骸(しがい)なども食べる。また、砂泥中の腐食物を食べるものもある。摂食方法は、餌(えさ)をそのまま口の中へ取り入れるものもあるが、胃を反転して口から外へ押し出し、体外消化を行うものが多い。その場合、たとえば二枚貝を食べるときには、まず貝の上にのしかかって抱きかかえるような姿勢をとり、貝殻の両側に多数の管足を吸い付けて引っ張り開けようとする。長時間のうちには、貝の殻を閉じる筋肉は疲労して貝殻がすこし開くので、すきまから胃を中に差し込んで消化を始める。

 繁殖期になると雌雄はおのおの放卵、放精し、海中で受精がおこる。受精卵から孵化(ふか)した幼生は普通、浮遊生活に入るが、直接親が保育する種も多数ある。無性的に体全体が分裂したり、腕の自切によって増えるものもある。腕は一般に切れやすいが、再生しやすく、1本の腕から完全な個体を再生する例もある。

[重井陸夫]

ヒトデとよばれる種

本来、動物群の総称を特定の種の名前にあてることは望ましくないが、学名Asterias amurensisという種について、古くからヒトデという和名が与えられている。キヒトデあるいはアムールヒトデの名でよばれることもあるが定着していない。この種は日本産ヒトデ類のうちもっとも普通のものの一つで、各地の内湾の砂泥上あるいは港の岩壁などに群生している。腕の長さは15センチメートル以上になり、付け根がややくびれ、表面がざらざらしている。東京湾以南では全身黄色のものが多いが、東北地方や北海道方面のものは青や紫色の地に一部黄色が混じったものが多い。ホタテガイ、カキ、アサリ、ハマグリ、アコヤガイなどの養殖場の貝類を食い荒らす有害動物で、かつて東京湾で大発生したことがある。九州以北、日本海、黄海、北太平洋の浅海に分布する。

[重井陸夫]

人間生活との関係

前述のように養殖場の二枚貝を食害する有害動物として古くからよく知られている。利用価値はほとんどなく、一部のものが生物学の研究材料や室内アクセサリー、あるいは肥料として用いられるにすぎず、食用にはならない。

[重井陸夫]


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百科事典マイペディア 「ヒトデ」の意味・わかりやすい解説

ヒトデ

広義には棘皮(きょくひ)動物ヒトデ綱全体の総称。普通5本(まれにそれ以上)の腕をもち,体は扁平。クモヒトデ(クモヒトデ綱)と違って中央の盤と腕との区分はない。背面には穿孔(せんこう)板があり,肛門が開くこともある。腹面には口を中心として深い歩溝が各腕に走り,その中に2列または4列に管足が列生。盤内にある胃は大きく,ときに口からくり出して餌をおおって捕食する。雌雄異体。普通卵生で,ビピンナリア,ブラキオラリアの幼生を経て成体になる。再生力が強い。潮間帯〜深海までの岩礁や泥底などにすみ,現生約1700種。日本付近でもアカヒトデイトマキヒトデモミジガイヤツデヒトデなど200種ほどがすむ。ときに大発生して貝類の養殖に大害を与える。狭義にはヒトデ綱アステリアス科に属する一種をいい,直径30cm。色は白,赤,淡紫色など個体変異が大きい。北海道〜瀬戸内海の沿岸〜水深100mまでの砂泥底にすむ。
→関連項目棘皮動物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒトデ」の意味・わかりやすい解説

ヒトデ
starfish

(1) Asterias amurensis棘皮動物門ヒトデ綱叉棘目ヒトデ科。腕は5本で,全体が星形を呈する。腕長2~20cm。体色は黄白色のものから紫色の地に黄白色斑をもつものまであり,変異に富んでいる。寒流性で北西太平洋に広く分布し,日本では北海道,東北地方に多い。ときに大発生し,アサリ,ハマグリ,カキなどを食害する。 (2) 広義にはヒトデ綱 Asteroideaに属する種類の総称。腕は5本の種が多いが,オニヒトデ (13~16本) ,ヤツデヒトデ (7~10本) などそれ以上のものもある。世界で 1200種余が知られている。

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世界大百科事典(旧版)内のヒトデの言及

【星】より

…タロットの〈星〉の札にはこれが描かれることが多い。 なお,ヒトデはその形状から,ラテン語ではstella maris(〈海の星〉の意),英語ではstar‐fishと呼ばれる。その多くが五芒星形である。…

※「ヒトデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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