ピュロン(その他表記)Pyrrhōn

デジタル大辞泉 「ピュロン」の意味・読み・例文・類語

ピュロン(Pyrrhōn)

[前360ころ~前270ころ]古代ギリシャの哲学者懐疑派の祖。人間の生活理想は心を乱されない静けさアタラクシア)にあり、そのためにはあらゆる真偽善悪の判断中止エポケー)しなければならないと説いた。ピロン

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精選版 日本国語大辞典 「ピュロン」の意味・読み・例文・類語

ピュロン

  1. ( [ギリシア語] Pyrrhon ) 古代ギリシアの哲学者。懐疑論の祖。真偽善悪の判断はすべて誤謬をおかす可能性があり、心の動揺がここに原因するとして、すべての判断の中止を行ない、心の平静を得るようにと説いた。(前三六〇頃‐前二七〇頃

ピュロン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ギリシア語] pulōn ) エジプト建築の楼門。量感のある壁を築き、下部に入口を設けたもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「ピュロン」の意味・わかりやすい解説

ピュロン
Pyrrhōn
生没年:前360ころ-前270ころ

〈懐疑派の祖〉と呼ばれるギリシア哲学者。エリスの人。画家として出発し,やがてデモクリトス学派の哲学者アナクサルコスAnaxarchosに学び,師に従ってアレクサンドロス大王のインド遠征に参加する。そこで彼はヨーガ行者たちに出会って,これまでの生き方,考え方を一変させる衝撃を受けたといわれる。いっさいは無常であり,万物について,何ひとつ積極的に〈何か〉であると確言することはできない。移ろいゆく現象を永遠の実在と錯覚することから魂の苦悩が始まる。それゆえ,いっさいの判断を〈留保〉(エポケー)し,魂を何ものにもかき乱されない〈寂滅〉(アタラクシアataraxia)に導くことこそ人生の目的であり,人間の完成であるとした。後世の懐疑派がもっぱら認識論的批判に終始するのに対し,彼は魂の安らぎを求める実践的観点から懐疑を主張したのである。なお,ピロニズムPyrrhonism(懐疑論)の語は彼の名に由来するもの。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピュロン」の意味・わかりやすい解説

ピュロン
Pyrrhōn

[生]前365頃.エリス
[没]前275頃.エリス
ギリシアの哲学者。古懐疑学派の祖。デモクリトス学派のアナクサルコスに学び,アレクサンドロス大王のインド遠征に従ったが,前 330年頃故郷へ帰って教え,信望を集めた。その思想ティモンの嘲笑詩の断片から知られるのみである。彼によれば,われわれの事物に関する表象は真偽の判定の埒外にあり,各人各様知覚ないし認識の可能性があるから,客観的真実や学問の存在は不可能である。したがってわれわれは客観的真実を語るという意味でのあらゆる積極的な主張をやめるために,一切の判断を差し控えること (→エポケー ) が哲学者のとるべき適切な道であり,同時にそれが心の平穏 (→アタラクシア ) へ導く唯一の道であるとした。 (→懐疑学派 , 懐疑論 )  

ピュロン
pylon

塔門。古代エジプトの神殿の正面入口に立つ塔形式の門。一般に上部が水平な断面となり,塔身は方形で内側に傾斜し,厚い壁でおおわれている。内部には階段があり,大きなものには小室が設けられている。起源は明確ではないが,神殿の造営が盛んになった第 18王朝以後数多く建造されている。大神殿では2つ以上ある場合もある。代表的な遺構はカルナック神殿ルクソール神殿の塔門など。

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百科事典マイペディア 「ピュロン」の意味・わかりやすい解説

ピュロン

古代ギリシアの哲学者。懐疑論の祖とされ,英語pyrrhonismなどはその名に由来する。アレクサンドロスの東征に従い,インドのヨーガ行者に出会って,この世の一切が不確実であること,それによる魂の苦悩を避けるには,判断中止(エポケー)をして,心の平安(アタラクシア)を求めるべきことを説いたといわれる。
→関連項目ティモン

ピュロン

古代エジプトの神殿の入口の両側に立つ石造の塔門。台形状の高く厚い壁で,前面は象形文字浮彫で飾られた。
→関連項目ルクソル神殿

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世界大百科事典(旧版)内のピュロンの言及

【神殿】より

…しばしばこれとならんで建てられる地上の神殿は,住宅や宮殿と同じように中央に中庭があり,神室は中庭に開いていた。
[古代エジプト]
 古代エジプトの神殿は,正面に二つの塔の間に入口を開くピュロンpylōn(塔門)があり,その内に柱廊をめぐらした中庭,多柱室(ハイポスタイル・ホール)と呼ばれる列柱広間をへて,付属室をともなった聖所に達する。現存する典型的実例はカルナックにあるコンス神殿(カルナック神殿)であり,時代は下るが,エドフのホルス神殿やデンデラのハトホル神殿も保存の良好な実例である。…

【門】より

…一方,建物の一部をなす出入口には,格門,版門,歓門など各種の形式があり,それらはむしろ日本でいう扉や玄関の類型に属するが,言語としては今日でも両種の意味に用いられている。【田中 淡】
【西洋】
 古代エジプトの神殿にはピュロンpylōn(パイロンpylon)と呼ぶ塔門があり,傾斜した壁面をもつ二つの台形の建物をつなぎ,その中央に戸口を設けていた。ナイル川上流に多数建造された要塞の門も,二つの塔のあいだに扉口を設ける形式をとっていた。…

【エポケー】より

…〈判断中止・停止〉を意味する哲学用語。古代ギリシアの懐疑論者ピュロンは,さまざまな哲学説の真偽を判定しようとしたが徒労に終わり,いたずらに苦悩を増すだけであった。それゆえ彼は心の平静を得るべく,判断停止を決意した。…

【懐疑論】より

…古代の懐疑派は通常三つの時期に区別される。初期にはピュロン(その名に由来するピュロニズムは懐疑論の別名となった)とその弟子ティモンTimōnがおり,彼らは何事についても確実な判断を下すのは不可能であるから,心の平静(アタラクシア)を得るためには判断の留保(エポケー)を実践すべきことを説いた。中期はプラトンゆかりの学園アカデメイアの学頭であったアルケシラオスArkesilaosとカルネアデスKarneadēsに代表される。…

※「ピュロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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