1920年代に起こったアメリカ・プロテスタント教会内の保守的な神学運動をいい,〈根本主義〉と訳される。そのルーツは19世紀に英米で何度か燃えひろがった千年王国運動や信仰復興(リバイバル)運動の中にあるが,1910-15年に《The Fundamentals》という小冊子が広範に頒布されてから,一挙に社会問題へと発展した。1925年,テネシー州デートンの公立学校の教師スコープスJohn T.Scopesが進化論を教えたかどで告発され有罪とされた事件(スコープス裁判)は,その典型的な例であった。この事件にみられるように,ファンダメンタリズムは第1次大戦後の共産主義,労働問題,人種問題,暴力など政治経済的もしくは社会心理的要因と結びついているが,元来は近代化に伴う合理主義,世俗主義はキリスト教信仰の根本要素を危うくしているという宗教的批判である。この立場に立つ人々は,聖書の権威,キリストの神性,贖罪の効力,罪人の回心や聖化を強調した。しかし進化論を拒絶し,近代的聖書批評学の成果を無視して逐語霊感説(聖書は一字一句に至るまで神の霊感によってなったもので無謬であるとする説)を墨守し,自分たちの信仰にくみしない者を排他的に非難攻撃するなどの偏狭な態度はやがて大勢の支持を失う結果となった。他方で,人々の弛緩した信仰や世俗化した生活に反省をうながし,純潔な敬虔を保存したことは評価される。50年代以降は,この立場の人々は頑迷の代名詞のように扱われるファンダメンタリズムを,保守的福音主義と改称して,その宗教的立場を継承しようとしている。なお,一般に根本原理を忠実に遵守する思想や運動もしばしばファンダメンタリズムと呼ばれる。
→モダニズム
執筆者:小倉 義明
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根本主義。1920年代、アメリカ・プロテスタント諸教派内に起こった論争的保守的運動。進化論や聖書の高等批評を容認したり社会的福音(ふくいん)に同調する神学的近代主義に抵抗し、逐語霊感説による聖書無謬(むびゅう)、キリストの処女降誕、刑罰代償説、キリストの復活、キリストの再臨などをキリスト教信仰の根本教義と主張し、その「ファンダメンタルズ・真理の証言」(1910~15)はアメリカ国内に驚異的支持を得た。熾烈(しれつ)な論争が起こり、とくにバプティスト派や長老派において異端摘発や追放、分裂を引き起こした。南部諸州で栄え、テネシー州では公立学校から進化論を閉め出した(1925)。しかし30年代には影響力が衰え、排他的・攻撃的性格を弱め、50年代以降福音派がそれを継承し、その指導的人物はビリー・グラハムである。
[小笠原政敏]
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…とくに19世紀末以来第1次世界大戦まで,時代思潮の影響の下に進歩史観にもとづく聖書宗教思想の解釈が風靡(ふうび)した。この近代主義に反発したのが,ファンダメンタリズムといわれるアメリカに始まった運動であり,聖書の霊感と無謬(むびゆう)性,キリストの神性と処女降誕,代理的贖罪(しよくざい),体のよみがえり,再臨の五つの根本教理を堅持し,他を自由主義者と呼んで区別した。第1次大戦後の進歩主義への幻滅と人間の問題性の深い認識は,聖書の歴史的解釈の限界を自覚させ,実存主義的・神学的解釈を生み出した。…
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