翻訳|filaria
線形動物双腺綱糸状虫上科Filarioideaに属する寄生虫の総称。糸状虫ともいう。成虫は糸状細長で,各種脊椎動物のリンパ管(および節),血管,皮下組織,眼窩(がんか)などに寄生し,胎生で被鞘幼虫(ミクロフィラリアmicrofilaria)を産出し,吸血昆虫によって伝播される。
人体寄生種のおもなものには,バンクロフトシジョウチュウ,マレーシジョウチュウBrugia malayi,オンコセルカ,ロアシジョウチュウLoa loaなどがある。このうち前2者はリンパ系に寄生し,象皮病の原因となる。オンコセルカはアフリカ,中南米など赤道直下の熱帯地方に分布し,皮下に寄生して腫瘤を形成し,またしばしば目にも侵入して失明の原因となることもある。ロアシジョウチュウはアフリカ中・西部に分布し,目の結膜からしばしば見いだされるほか,全身の皮下組織内を好んで移動し,このため鳩卵大の腫瘤が突然出現したり消失したりすることがあり,これをカラバール腫張Calabar swellingという。象皮病の存在は古くから知られており,ナイジェリアから出土した前500年ころまでさかのぼれる時代の作品と思われる彫像のなかに,象皮病による巨大な陰囊を有するものがある。しかし,バンクロフトシジョウチュウの感染がカにより媒介されることを明らかにしたのはマンソンPatrick Mansonで,1878年のことである。感染者の末梢血管中に出現したミクロフィラリアは,吸血によってカ体内に入ると,中腸で脱鞘して胸筋に移行し,ソーセージ状の虫体となり,さらに2回脱皮して感染幼虫となる。そして,胸筋から体腔に出て吻(ふん)に集まり,吸血に際して人体内に侵入する。すなわち,ネッタイイエカなどイエカ属のカやシナハマダラカなどハマダラカ属のカが,バンクロフトシジョウチュウの中間宿主である。また,マレーシジョウチュウの中間宿主はヌマカ属のカであるが,オンコセルカのそれはブユの類であり,ロアシジョウチュウのそれはアブの類である。
以上4種のヒトを固有宿主とするフィラリアのほかに,動物寄生種がある。なかでもイヌシジョウチュウDirofilaria immitisは世界中に広く分布し,しばしばその幼虫がヒトにも感染して肺の血管に栓塞を起こし,胸部X線撮影で肺結核や肺癌と誤診されるような銭形陰影を呈することがある。また皮下や,まれには腹腔内や子宮内にも寄生することがある。
執筆者:小島 荘明
犬心臓糸状虫症ともいう。カの媒介によって伝播するイヌの病気で,イヌシジョウチュウと呼ばれるセンチュウが,イヌの右心房室や肺動脈に寄生して心機能をはじめ循環器機能を障害する。このセンチュウは卵胎生で,寄生する成虫は血流中へ幼虫を放出する。この幼虫を夏季にカが病犬から吸血する際に体内へ取り込み,その幼虫はカの体内で感染幼虫に発育する。カが他のイヌから吸血する際に感染幼虫はカの口吻から外へ出て,カの刺入孔を通ってイヌの体内へ入る。イヌの体内へ侵入した感染幼虫は,イヌの体内を旅行しながら成長し,最後には右心房室へ到達し,そこを生涯の住居とする。病犬の血流中の幼虫が,そのまま発育して成虫になることはない。成虫の体長は雄が約17cm,雌は30cm近くにもなり,乳白色の細いそうめん状である。感染幼虫がイヌの体内を移行する経路は不明だが,期間は3~6ヵ月といわれている。心臓内の成虫が数匹という少数の場合には,イヌはまったく症状を現さないことが多いが,多数寄生したり,少数でも肺動脈を閉塞すると,著明な循環器障害を起こし,肝臓,腎臓などの機能障害を併発して死亡する。予防はカに刺されないことが第一であるが,日本ではカの撲滅は困難である。しかし,感染幼虫をカによってうつされても,それを体内移行中に殺滅する内服薬が開発され,その薬を継続して内服することで発病を防ぐことができる。しかし,この薬は必ず獣医師の診察に基づき,その指示に従わなければならない。心臓内の成虫を手術で摘除,または薬で殺滅して治療する方法もあるが,危険を招くことが少なくなく,もっぱら予防的内服療法が推奨される。
執筆者:一木 彦三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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線形動物門双腺(そうせん)綱糸状虫目(しじょうちゅうもく)に属する寄生虫のこと。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一般に,小型種ほど単位体重当りの必要熱量は多い。
[病気]
イヌの病気は種々あるが,飼主が注意しなければならないのは,ジステンパー,伝染性肝炎,パルボウイルス腸炎,レプトスピラ病,消化器寄生虫病,フィラリア症,皮膚病などがおもなものである。ジステンパー,伝染性肝炎,パルボウイルス腸炎の病原はウイルスで,ワクチンの接種で予防できる。…
…また筋肉の運動はリンパ液の灌流を促進するので,半身不随などでは麻痺側に水腫がおこりやすい。フィラリア糸状虫がリンパ管内に多数寄生すると,下肢・外陰部に高度の水腫がおこり,象皮病となる。 水腫がおこると,組織は膨張し,しわはのび緊張し,蒼白,貧血状となり,温度も下がる。…
※「フィラリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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