翻訳|photon
光子,光量子ともいう。物質は光(電磁波)をエネルギーの塊として吸収し,あるいは放出する。そのエネルギー塊の大きさは電磁波の振動数νで決まり,プランク定数をhとしてhνと書ける。この塊の大きさは相手の物質によらないから,これは物質との相互作用の機構によるものではなく,光の本性とみなければならない。この塊は,また大きさhν/cの運動量とh/2πの自転角運動量(スピン)をもつ(cは光の速さ)。光のエネルギーと運動量のこの塊をフォトンと命名したのはG.N.ルイスで1926年のことであった。こうした光の粒子性の典型的な現れは光電効果とコンプトン効果である。光電効果においては,金属内の電子が外から当てた光のフォトン1個を吸収し,そのエネルギーで外に跳び出てくる。この場合には,フォトンが与える運動量の効果は電子と金属内の他の粒子との相互作用のためぼやけてしまう。それが直截的に見られるのは自由電子とフォトンの衝突で起こるコンプトン効果においてである。振動数の高い電磁波(γ線)のフォトンは物質に衝突して,電子・陽電子の対創成を起こしたりもする。シンクロトロンで加速され円軌道を描く電子が放射する多数のフォトンを利用に供する施設は,日本のフォトンファクトリーのように,光の波動性による物質のミクロな構造解析に利用される。
歴史的には,1900年にM.プランクが熱放射のエネルギーがhνずつの塊になっていることを発見,これを光と物質の相互作用の機構から理解しようと骨折った。05年に,アインシュタインは,プランクの放射則が古典物理学と相入れないことから,実験事実に立ち返る統計的分析により,hνを光の本性と結論し,そこから逆に光と物質の相互作用の新法則を探ることを提案,このとき光電効果は傍証として引用された。アインシュタインの提案を実行することは彼自身にもむずかしく,ようやく1916-17年に彼は原子や分子によるフォトンの放出と吸収は確率的に起こるとし,吸収の確率はそこにあるフォトンの密度ρに比例するが,放出の確率はρに比例する部分(誘導放出)とρ=0でも残る部分(自然放出)からなるとすれば,プランクの放射則が自然に導かれることを示した。この確率の導入は統計力学的なものとみて容認するとしても,フォトンが運動量をもつ以上,その放出はいずれか一方向に起こるほかないと考えられるのに,自然放出には方向を定める要因が一つもないという事実が,アインシュタインの決定論的物理学像に反し彼を悩ませた。なお,1913年にはN.ボーアがフォトンの考えを足場の一つにして原子スペクトルの理論をたて成功していた。
今日,フォトンは量子力学の体系の中に位置づけられている。場とは空間の場所ごとに物理量が分布している系であるが,古典力学を一般化すると,場を空間の各点に振動子が分布しているとして見ることもできる。光の伝播(でんぱ)はそうした振動子の振動が隣へ隣へと受け渡されていくこととなる。この振動子系を量子力学で扱うのが場の量子化である。その結果,光がときに波のように回折・干渉し,ときに粒子のように放出・吸収されること(波動と粒子の二重性)も自然に理解される。ただし,その量子電磁力学には発散の困難が内在し,真に完成した理論とはみなされない。
→素粒子 →量子力学
執筆者:江沢 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 第3は物質とともに宇宙を構成している光の大局的な分布についてで,A.A.ペンジアスとウィルソンR.W.Wilson(1936‐ )によってマイクロ波電波として検出された(1965)宇宙背景放射は,その後の観測によって約3Kの黒体放射であることが確かめられた。この温度における黒体放射のフォトンの数密度は約5.5×108/m3であるので,現在の宇宙では平均するとフォトンと核子(陽子,中性子)の個数比は10億程度であることを示している。
【宇宙論】
[有限宇宙から無限宇宙へ]
コペルニクスの時代に至るまでの宇宙は,恒星天に囲まれた有限な宇宙であった。…
…アインシュタインは,光は波としての性質のほかに粒子としての性格も合わせもっていると考えた。すなわち振動数νの光は,エネルギーがhνである粒子(光子,またはフォトンという)としてふるまい,その強度は光子の数に比例するという仮説を立てた。ここで定数hは,これより少し前に黒体放射スペクトルを説明するのにM.K.E.L.プランクが導入したプランク定数に等しいとアインシュタインは考えた。…
…これらのいずれの相互作用もゲージ粒子と呼ばれるスピン1(重力相互作用の場合はスピン2)の粒子によって媒介されると考えられている。それぞれのゲージ粒子は,重力の場合はグラビトン(重力子),電磁力はフォトン(光子),弱い力はZ粒子(Zボソン)およびW粒子(Wボソン),強い力はグルオンであるが,このうちグラビトンについてはまだ粒子として発見されているわけではなく,またグルオンは理論的にふつうの状態では独立した粒子として観測されることはないと予想される。さらに上記の4相互作用のほかにヒッグス粒子と呼ばれるスピン0の基本粒子によって媒介される相互作用が存在する可能性があり,ゲージ粒子も上記の4種類のほかにいくつか存在する可能性もある。…
…このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。第2次世界大戦前までに,この3種類の粒子のほかにも,光子(フォトン),中性微子(ニュートリノ),電子の反粒子である陽電子などが素粒子の仲間に加えられ,素粒子の種類も増えていったのであるが,素粒子の存在が明らかになったことでミクロの世界の探究は一段落し,素粒子がミクロの世界の主役となった。 第2次大戦後は宇宙線研究の進歩や加速器の発達もあって続々と新しい素粒子が発見され,現在ではその数は何百にも達している。…
…量子化された場は,量子と呼ばれる粒子の集団と同等であることが示される。例えば電磁場を量子化すればフォトン(光子)という量子の集団となる。一方,質点の量子力学(例えば電子の理論)では,状態はシュレーディンガーの波動ψ(x,t)で表され,これも場である。…
…現在では光速度の値として, c0=2.99792458(1.2)×108m/sが得られているが((1.2)は下端の桁の誤差),これは一つのレーザーの発する光の波長λ0と振動数νとを測定し,c0=λ0νなる関係を使って求められたものである。 さて,光は波動であるが,その振動数をν,真空中の波長をλ0としたとき,物質との相互作用の際に,E=hνのエネルギーと,向きが光の進行方向で大きさがp=h/λ0の運動量をもつ粒子としてふるまい(hはプランク定数),この粒子をフォトン(光子)と呼ぶ。
【波動としての光】
光学の歴史は古く,古代ギリシアのユークリッド(エウクレイデス)は光が直進することや反射の法則について記述を残しているが,光学が近代的学問としての装いを整えるようになるのはさまざまな光学器械が登場する16世紀以降のことであり,また,これに伴って,光の本性をめぐっての論争も活発化する。…
…だからといって電子が分解して空間に拡散してしまったわけではなく,電子の位置を観測すれば電子は(かけらではなく,まるまる)1点に見いだされることになり,ここに粒子性が現れるのである。また光は,波動のようにふるまって回折したり干渉したりもするが,たとえば電子に衝突する場合には一定のエネルギーと運動量をもったかたまり(光子,フォトン)の姿で現れる。原子が光をだす場合にも,光はじわじわとにじみ出るのではなくエネルギーのかたまりとして瞬間的に出るのである。…
※「フォトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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