翻訳|phrasing
旋律を楽句(フレーズ)に分けること。曲の構造分析の重要な手段として音楽理論の主要課題の一つであるばかりでなく,様式にかなった演奏をするためにも欠かすことのできない概念である。楽句は文章にたとえれば,句読点によって区切られ,なおかつ文としての意味をなす最小単位で,詩では詩句の1行に相当する。音楽の場合,句読点にあたる記号がなくとも,声楽では歌詞の区切りに従って,器楽でも自然な呼吸で区切られるのが原則である。とくに西洋音楽では,一般に8小節(4+4)あるいは少なくとも偶数単位のまとまりが最も自然とされている。しかし実際の音楽では,楽句は2音動機から大楽節に至るまで,さまざまな次元で成立しうる。さらに,往々にして楽句の引延し,末尾省略,連結,交錯などが行われることが多く,隠された区切りをめぐって多様な解釈の可能性も生じる。同じ曲でもいくつか異なるフレージングが試みられていることが普通である。フレージングの付け方によって旋律の性格がまったく変わってしまうので,分析と演奏にあたっては細心の注意と的確な判断が要求される。フレージングを表す手段としては,中世のグレゴリオ聖歌以来,単縦線や複縦線,短い縦線,フェルマータ,休符,コンマなどさまざまな記号が使われてきたが,現在ではスラーが一般的である。ただし,これはレガートの意味のスラーとははっきり区別されねばならない。また楽句の切れ目はリズム的な原理ばかりでなく,音の強弱や音色の変化からも感得されることがある。そこからアーティキュレーションarticulationとの混同も生じる。しかしアーティキュレーションはレガートやスタッカートなど,各音の演奏表現にかかわる概念であって,音楽的意味の区分であるフレージングとはあくまでも区別されねばならない。なお,フレージングの理論は18世紀以来盛んに論じられるようになった。とくにH.リーマンの業績は重要で,すべての楽句にアウフタクトを想定する彼の説は,その強引さのゆえに各方面から批判を呼んでいるが,耳を傾けるべき点も多い。
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 (株)ヤマハミュージックメディア音楽用語ダスについて 情報
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