デジタル大辞泉
「ブルセラ症」の意味・読み・例文・類語
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ブルセラ症
菌によって引き起こされる病気。世界各地で発症が報告されており、感染した動物の乳や乳製品などを介して人が感染することが多いという。ウシやヤギなどへの感染で酪農にも影響が及ぶ。感染した人では、発熱や疲労などの症状もみられる。人から人への感染例もあるが、極めて少ない。治療には抗菌薬を用いる。
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ブルセラ症(Gram 陰性悍菌感染症)
(14)ブルセラ症(brucellosis)
定義・概念
ブルセラ(Brucella)属の菌による感染症がブルセラ症である.人獣共通感染症の1つであり,波状熱の原因となる.ブルセラ症はマルタ熱(Malta fever)や地中海熱(Mediterranean fever)など固有の名前をもつ風土病としても知られている.なお本疾患は感染症法の四類感染症に指定されている.
原因・病因
ブルセラ属の菌は種によって感染する動物が異なり,Brucella melitensisがヒツジとヤギ,B. abortusがウシ,B. suisがブタ,B. canisがイヌに主として感染する.この中ではB. melitensisが最も病原性が強く患者数も多い.流行地域において,ヤギやウシなど感染動物のミルクやチーズを食したり,尿などの排泄物に接触して感染する.
疫学・発生率・統計的事項
本疾患は地中海地方,中南米を中心に世界中に広く分布している.動物と接触する機会が多いため,酪農家などに感染率が高い.国内ではまれな疾患であり,流行地域への渡航者が発症することがある.
病態生理
本菌は細胞内寄生菌であり,好中球やマクロファージに貪食されても殺菌に抵抗性を示し,増殖した菌はリンパ行性あるいは血行性に全身の臓器に散布され,そこで持続感染を起こす.
臨床症状
ブルセラ症を発症するとインフルエンザ様の発熱が間欠的に起こるいわゆる波状熱が長期間継続する.朝は平熱にもかかわらず,午後から夕方にかけて発熱がみられるパターンが多く,悪寒を伴う高熱の場合もある.悪心・嘔吐,下痢などの消化器症状や咽頭痛,乾性咳などの呼吸器症状,および発汗,頭痛,筋肉痛,倦怠感,さらに体重減少やうつ状態を訴えることもある.他覚的にはリンパ節腫脹,肝脾腫および関節の腫脹などを認めやすい.
検査成績
末梢血白血球数は正常あるいは低下している場合が多いが,リンパ球数はやや増加傾向を示す.赤沈は正常かやや亢進している.さらに血小板数の減少や肝機能異常を認めることがある.
診断
問診では海外の流行地域への渡航歴,さらにその地域でヤギやウシなどの乳汁や肉を摂取したかどうかを確認することがまず重要である.潜伏期間は通常2~8週間とされているが,さらに長期の場合もある.本疾患に特異的な症状はないため,不明熱として診断がつかないまま見過ごされる可能性がある.血液培養によって本菌を分離できれば診断が確定するが,血液培養陰性でも本疾患が強く疑われる場合は,骨髄穿刺やリンパ節生検を行って培養を行うことがある.検体の塗抹染色ではGram陰性の短桿菌が観察される.血清抗体価の測定は,他菌種との交差反応の問題も指摘されているが,診断上有用な検査であり,治療効果の判定にも利用できる.感染部位の検索には,骨シンチグラフィ,CT,およびMRIが有用である.
鑑別診断
臨床的には他の不明熱疾患(マラリア,腸チフス,結核,野兎病,悪性腫瘍,膠原病など)との鑑別が必要である.さらに染色や培養の結果をもとにモラクセラやインフルエンザ菌などと誤認されることがある.
合併症
本疾患はときに関節炎,心内膜炎,骨髄炎,泌尿生殖器の感染および脳炎,髄膜炎を併発する.心内膜炎はブルセラ症の死因となり得る疾患である.
経過・予後
本感染による死亡率は一般的には低率である.
治療・予防・リハビリテーション
本疾患の治療には,再燃を予防するため長期間(6~8週間以上)の治療が必要とされている.テトラサイクリン(ドキシサイクリン),アミノ配糖体(ゲンタマイシン),リファンピシン,ST合剤,およびキノロン系薬の中から2薬剤を併用した治療が推奨される.ワクチンは家畜には用いられているが,副作用が強いのでヒトには応用されていない.[松本哲哉]
■文献
Corbell JM: Brucellosis: an overview. Emerg Infect Dis, 2: 213-221, 1997.
Longo, DL et al ed: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed, McGraw-Hill, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
ブルセラ症(波状熱)
ブルセラしょう(はじょうねつ)
Brucellosis
(感染症)
ブルセラ症は、ブルセラと命名されたグラム陰性球桿菌を病原体とする感染症で、感染症法では4類感染症に分類されます。
この病気は本来、家畜(ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ)などの動物の感染症ですが、ヒトにも伝播する「人獣共通感染症」のひとつです。動物にとっては終生持続する慢性疾患で、感染動物では乳汁、尿、胎盤などからブルセラ属菌が濃厚に検出されます。
この菌は世界中に分布しており、とくに地中海沿岸地方、アラビア半島、インド亜大陸などに多く、今日の日本での発病者は極めてまれです。ヒトへの感染は、感染動物との濃厚な接触、さらに低温殺菌されていない乳製品を摂食することなどで起こります。
ヒトの体内にブルセラ属菌が侵入してから、通常2~4週間で発病します。急性型と慢性型があり、症状としては発熱、関節痛、背部痛、発汗、全身倦怠感、食欲不振、頭痛、さらにうつ状態などがあります。
長期間にわたって治療をしなかった場合は、繰り返す発熱が特徴的で、これが波状熱という病名の由来になっています。
診断は、患者さんの血液や組織液などの検体からブルセラ属菌を証明することによります。しかし、この細菌は検出が難しく、また症状が多様なため、流行国にあっても診断が困難であることが報告されています。
流行地域での動物との濃厚な接触、流行国から輸入した乳製品の摂食などの生活歴も、診断のきっかけになります。
鑑別の対象となる病気は、発熱を主な症状とする多くの疾患(感染症、悪性腫瘍、膠原病など)です。
最も基本的な治療法は、抗菌薬(抗生物質)の投与です。
しかし、抗菌薬のなかにはこの感染症に無効なものも多く、また、複数の抗菌薬を計画的に長期間(通常6週間)使い続けることが必要です。しかも再発することが多いため、治療開始前にブルセラ症であることをしっかり診断したうえで、抗菌薬投与を開始する必要があります。
万一、中枢神経と心臓にブルセラ感染を合併すると、治療はさらに困難になります。
患者さん自身が、この病気にかかったかもしれないと考えた時は、総合病院の内科(感染症科、総合内科など)を受診して、検査を受けてください。
増田 剛太
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
ブルセラ症 (ブルセラしょう)
brucellosis
ブルセラ属Brucellaの細菌による人獣共通伝染病の一つ。マルタ島で発見されたためマルタ熱Malta feverともいわれ,また慢性型では波状的に発熱することから波状熱undulant feverともいわれる。ロシア,アフリカ,中東,南北アメリカでみられ,感染は罹患した動物の分泌物や排出物に直接接触することによって起こり,ヒトからヒトへの感染はないといわれる。潜伏期間は5~21日。全身倦怠,頭痛,発熱などの症状とともに,無気力,性欲減退などを伴い,肝臓や脾臓,性器,長骨などに膿瘍をつくることがある。治療には抗生物質が有効であるが,膿瘍があるときは外科的に排膿することが必要となる。
執筆者:川口 啓明
家畜のブルセラ病brucellocis
家畜ではウシ,ブタ,ヤギ,ヒツジにみられ,家畜法定伝染病に指定されている。病原菌はB.abortus,B.suis,B.melitensisは,それぞれウシ,ブタ,ヤギ,ヒツジが自然宿主となっており,これらの動物種間またヒトとの間にも交差感染がみられる。B.abortusはウシの流産胎児から分離された(1887)。菌を含む乳汁や流産前後の乳汁,流産後の子宮浸出物,胎盤または胎児などから,直接的,間接的に経口,経気道あるいは経皮的に感染する。ウシは常在地では感染してもほとんど症状を示さないが,妊娠7~8ヵ月になって突然,流産あるいは産後直死が起こる。診断には凝集反応および補体結合反応が用いられる。特異的予防法として弱毒生菌ワクチンが一部の国で接種されているが,日本では行われていない。
執筆者:本好 茂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
知恵蔵
「ブルセラ症」の解説
ブルセラ症
ブルセラ属菌による、人獣共通の感染症。ウシ、ブタ、ヤギ、イヌ、ヒツジの感染症だが、その細菌がヒトにも感染して発症する。感染した動物やその分泌・排泄(はいせつ)物、死体などに接触したり、汚染された殺菌されていない牛乳や加熱不十分な肉を飲食したりすることによって感染する。また、細菌を吸い込むことでも感染する。人から人への感染は、極めてまれであるとされる。
日本では計画的な検査と淘汰によって、家畜のブルセラ症はほぼ壊滅状態である。ただし犬のブルセラ症は発生が報告されている。犬のブルセラ症は、不妊症、死産、流産を引き起こす。犬を繁殖させようとして死産、流産を繰り返すため、検査をして感染がわかることが多いという。
ヒトがブルセラ属菌に感染すると、発熱や筋肉の痛みなどインフルエンザのような症状が現れる。それらが繰り返されることから、ブルセラ症は「波状熱」という別名もある。潜伏期間は通常1~3週間だが、数カ月になることもある。診断のためには、血液培養検査が必要である。
軽症の場合、治療をしなくても通常2~3週間で回復する。一方、進行すると慢性化して数年にわたり発熱を繰り返したり、脳、髄膜、心臓、肝臓、骨などが侵されたりすることがある。
治療には2種類の抗菌薬を併用する必要がある。成人に対するWHO(世界保健機関)の推奨する治療法は、リファンピシン600~900ミリグラムと、ドキシサイクリン200ミリグラムを6週間投与する方法である。
ブルセラ症に対するヒト用のワクチンはない。予防のためには、動物と接触したあとはせっけんなどで手を洗うこと、そして動物の尿や体液などには直接手で触れないようにすることが必要である。
ヒトのブルセラ症は、医師に届出義務のある4類感染症である。
日本におけるブルセラ症のヒトの発症例は、2013年2例、14年10例、15年5例、16年2例、17年2例と、極めてまれである。
感染リスクが高いのは、酪農・農業従事者や獣医、屠畜(とちく)場従事者などである。
18年3月、千葉県で50代の男性がブルセラ症を発症していることが明らかになった。この男性は獣医師であったため、患畜からの感染の可能性が考えられる。
一方、18年5月に発表された、長野県の64歳の男性がブルセラ症と診断された例や、18年7月に64歳男性の近隣の40代女性とその家族3人がブルセラ属菌に感染していることが公表された例については、ブルセラ属菌に感染していることがわかったものの、その菌種がこれまで知られているブルセラ属菌とは異なるものであることが明らかになった。また、海外渡航歴もなく、感染動物に接する機会もないことから感染経路も特定されていない。国立感染症研究所では、新たな感染防止のため、この未知の菌種の解析や宿主動物、感染経路に関して更なる調査が必要であるとしている。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
ブルセラ症
ぶるせらしょう
brucellosis
ヒトにも感染する獣疫(ウシやヤギなどの草食動物およびブタに多い感染症)の一種で、世界に広く分布する。感染症予防・医療法(感染症法)では4類感染症に分類されている。起炎菌はブルセラ属のグラム陰性の短桿菌(かんきん)で、ヒトへの感染は畜産業や獣医師など病畜と接触する機会のある職業の人に多い。動物ではおもに生殖器が侵され、流産や不妊症の原因となるが、ときに関節炎や膿瘍(のうよう)形成がみられることもある。ヒトでは肝臓、脾臓(ひぞう)、骨髄、リンパ節などの細網内皮系がおもに侵される。潜伏期は通常14日で、不快、倦怠(けんたい)、衰弱などの症状が現れたのち、発熱、悪寒とともに発汗、頭痛、各部の疼痛(とうつう)を伴う。多くの例では体温の動きが特徴的で、日内変動は夕刻に高くて早朝に低い間欠的熱型を呈し、これが1~3週間経過すると数日の無熱期があり、その後にふたたび間欠的熱型がみられる。このように有熱期と無熱期が波状的に現れるので、波状熱(はじょうねつ)ともよばれる。治療としては、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシンなどが有効とされている。予後は良好で、回復までの期間は平均2、3か月であり、死亡率は1~5%である。予防として、動物に弱毒生ワクチンが用いられているが、日本では血清反応検査による摘発淘汰(とうた)方式が行われている。
なお、ブルセラ属のうちBrucella melitensisによるものをマルタ熱とよび、またB. abortusによる場合はバング病のほか、地中海熱、ジブラルタル熱、山羊(やぎ)熱などいろいろな呼び方がある。
[松本慶蔵・山本真志]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
家庭医学館
「ブルセラ症」の解説
ぶるせらしょうはじょうねつ【ブルセラ症(波状熱) Brucellosis】
[どんな病気か]
ブルセラ属の細菌の感染でおこる感染症で、本来は、ヤギ、ブタ、ウシがかかる病気ですが、人にも感染することがあります。
ただ、日本ではまれな病気です。
この細菌の混入した生(なま)の乳類、野菜、水などの摂取でおこることが多いのですが、この病気にかかっているヤギ、ブタ、ウシなどに接触したり、排泄物(はいせつぶつ)に触れたりしたときに、皮膚の傷、目や気道の粘膜(ねんまく)から感染することもあります。
[症状]
感染して5日~3週間後に発病します。
頭痛、腰痛(ようつう)、関節痛、筋肉痛、神経痛のような痛み、くびのリンパ節(せつ)の腫(は)れとともに、特有な発熱が始まります。熱は、午後になると高くなり、夜間になると発汗とともに下がります。このような熱が2~3週間続き、つぎの1~2週間は平熱となり、また同じような発熱がおこります。このような発熱と解熱を、数か月から1年あまりくり返します。
[治療]
ストレプトマイシンとテトラサイクリンの併用がよく効きます。
入院して安静を守り、栄養をとることがたいせつです。
乳類は、必ず殺菌処理をしたものを飲むようにしましょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
ブルセラ症【ブルセラしょう】
ブルセラ菌属の細菌による病気。元来はウシ,ヒツジ,ブタなどの伝染病。日本ではウシに多く,流産,不妊,睾丸(こうがん)炎,関節炎,乳房炎などを起こす。家畜法定伝染病。ヒトに感染すると,高熱の持続と解熱を繰り返すので,波状熱ともいう。予防にワクチン,治療に抗生物質が有効である。
→関連項目細菌兵器|風土病
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
ブルセラ症
ブルセラ属菌によって引き起こされる、人と動物の両方に感染する感染症。波状熱、マルタ熱などの名称でも呼ばれる。感染動物との接触や非加工乳製品の摂取などで感染する場合が多い。人が感染すると約1~3週間の潜伏期を経た後、発熱、悪寒、倦怠感のほか、関節炎やリンパ節腫脹などの症状が現れる。動物が感染すると、不妊症や死産、流産などの原因となることがある。感染動物の根絶や乳製品の加熱処理などで日本国内ではほぼ撲滅されたとみられていたが、2018年5月と7月に国内外に存在しない新種の菌に感染した例が判明。国立感染症研究所が感染源や経路などを調査している。
出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報
ブルセラ症
ブルセラしょう
brucellosis
波状熱。ブルセラ (グラム陰性の桿菌) の感染症で,人畜共通感染症の一つ。ヤギ,ウシ,ブタなどに流行する獣疫であるが,ヒトが感染すると,1~3週間の潜伏後,有熱期と無熱期が交互に来る特有な熱型を示すので,波状熱とも呼ばれる。症状としては,悪寒,発汗,頭痛,全身痛,リンパ節のはれなどが現れる。ヤギ型ブルセラによる場合はマルタ熱,ウシ型ブルセラによる場合はバング病と呼ばれる。日本には少い。治療にはテトラサイクリンとストレプトマイシンの併用が有効。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報