プラスチック汚染(読み)プラスチックおせん(その他表記)plastic pollution

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プラスチック汚染」の意味・わかりやすい解説

プラスチック汚染
プラスチックおせん
plastic pollution

人がつくったプラスチック製品が環境中に蓄積され,野生動物とその生息地だけでなく,人間にまで問題を引き起こす状態をさす。1907年に硬質プラスチックのベークライトが発明されると,合成樹脂の商業生産が始まり材料革命が起こった。便利になった一方,20世紀末には,プラスチックが残留性汚染物質として,エベレストから海底まで幅広い環境空間に見られるようになった。プラスチックは高分子化合物である。自然界にもゴムなど高分子化合物は大量に存在するが,環境中に残留しない。しかしプラスチックは基本的に微生物によって分解されないため,自然環境の中に残留して環境汚染につながってしまう。加えて,生産されたプラスチックの約半数を使い捨ての軽量プラスチック製品や包装資材が占めるが,その多くはごみとして埋立て地リサイクルセンター,焼却場などに運ばれず,不法投棄されている。このことが問題を深刻化させていると考えられる。
ヨーロッパプラスチック製品工業協会によると,世界のプラスチック生産量は 1950年の約 150万tから 2010年には推定 2億7500万tへと増加した。沿岸国ではそのうち 400万~1200万tが,毎年海に不法投棄されている。ガラスアルミニウムなど 20世紀前半に広く使用された材料と比べて,プラスチックの回収率は低い。リサイクル率は国により大きな差があるが,50%を上回るのは北ヨーロッパ諸国のみである。いずれにせよ,リサイクルではプラスチック汚染を根本的に解決するのは難しい。リサイクルされるのは正しく処分されたプラスチックであり,プラスチック汚染のおもな原因は不法投棄にあると考えられるためである。2014年に,世界の海に浮かぶプラスチックごみの量を初めて調査した結果が発表された。それによると,世界の海に浮かぶプラスチック微粒子は 5兆2500億個以上に上り,重量は約 24万4000tに達すると推定された。海に浮遊するプラスチックごみは,中緯度域に位置する五つの亜熱帯循環系に蓄積されている。特に北太平洋・南太平洋亜熱帯循環系には浮遊物が多く,東部の地域は太平洋ごみベルトとして知られる。
海生哺乳類がプラスチックの漁具にからまったり餌とまちがえてプラスチックを食べたりして命を落とすこともある。調査の結果,動物性プランクトンクジラ類イルカ海鳥ウミガメなどあらゆる生物種が,ライター,ビニール袋,ペットボトルのキャップといったプラスチックの破片やごみを簡単に食べてしまうことがわかった。日光と海水でプラスチックが劣化し,最後には小さなかけらに砕かれるため,動物性プランクトンなど小型の海洋生物の体内にも取り込まれてしまう。プラスチックは消化されず栄養がないうえ,海水中の汚染物質を吸着して数百万倍にも濃縮し,誤ってごみを食べた生き物の体内に高濃度の汚染物質を移行させてしまう。
プラスチック汚染は陸地にも影響を及ぼす。ビニール袋やプラスチックフィルムなどが排水路を詰まらせ,洪水をもたらす。絶滅の危機を逃れたカリフォルニアコンドル(→コンドル)をはじめ,陸鳥の胃の中からプラスチックが見つかっており,ごみをあさる動物たちはプラスチック包装材のせいで腸閉塞を起こすこともある。世界中に広がったプラスチックを除去するには膨大な費用がかかるため,不法投棄の防止や特定のプラスチック製品の使用制限に重点をおいた対策が進められている。

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