ヘム(読み)へむ(その他表記)heme

翻訳|heme

デジタル大辞泉 「ヘム」の意味・読み・例文・類語

ヘム(heme)

ポルフィリンとの錯塩さくえんたんぱく質グロビンと結合してヘモグロビンとなり、その色素部分に相当し、酸素担体となる。

ヘム(hem)

衣服や布の端を折り返した、へり。袖口スカートの裾、上着の縁など。

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精選版 日本国語大辞典 「ヘム」の意味・読み・例文・類語

ヘム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] heme, haem ) 二価の鉄とポルフィリンで形成される錯塩。生物体中に蛋白質と結合して存在し、ヘモグロビンやミオグロビンでは酸素分子との結合部位となり、また、多くの酸化還元酵素において電子の授受を担う。〔血液の科学(1944)〕

ヘム

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] hem ) 縁(ふち)。へり。一般にスカート・ドレス・コートの裾(すそ)をいう。〔音引正解近代新用語辞典(1928)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム
へむ
heme

広義には鉄とポルフィリンの錯塩を総称し、狭義には2価の鉄イオンがポルフィリンに配位したものをさし、3価の鉄イオンが配位した錯塩は、とくにヘマチンhematinともいう。ポルフィリンの種類によって、ヘムa、ヘムb(プロトヘム)、ヘムcなどと分類される。これらはすべて赤色を呈する色素であり、生体内ではタンパク質と結合してそれぞれ特有の働きをしている。たとえば、ヘモグロビン(血色素)やミオグロビンなどは酸素の運搬貯蔵をつかさどり、カタラーゼペルオキシダーゼチトクロム類などは活性酸素を分解したり、生体エネルギーを生産する酸化還元反応を触媒する酵素の活性部分として重要な役割を果たしている。これは、ヘムが酸素や電子を運ぶ働きをもつことによる。なお、ソーセージやベーコンなどの肉製品には、発色剤として亜硝酸塩が使われている。肉類に含まれるミオグロビンやヘモグロビンのヘムの2価の鉄イオンが徐々に酸化され、褐色に変化する。これに亜硝酸塩を添加すると、ニトロソミオグロビンニトロソヘモグロビンをつくり、鉄イオンの酸化を防ぎ、美しい赤色を保つようになるためである。

[池内昌彦・馬淵一誠]

『宮地重遠編『現代植物生理学2 代謝』(1992・朝倉書店)』『ポルフィリン研究会編『ポルフィリン・ヘムの生命科学――遺伝病・がん・工学応用などへの展開』(1995・東京化学同人)』『ステファン・ゴールドバーグ著、神奈木玲児訳『臨床に役立つ生化学』(1997・総合医学社)』『毎田徹夫ほか編『医科生化学』(2000・南江堂)』

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化学辞典 第2版 「ヘム」の解説

ヘム
ヘム
heme

鉄ポルフィリン錯塩の一般名.ポルフィリンの三価鉄錯塩をヘミンというのに対し,狭義には,ポルフィリンの二価鉄錯塩をヘムという.側鎖の異なる種々のポルフィリンが存在するが,メチル基(4個),ビニル基(2個),およびプロピオン酸側鎖(2個)を有するプロトポルフィリンが生物界ではもっとも代表的なものである.これが二価の鉄に配位したフェロプロトポリフィリンをプロトヘム,または単にヘムとよぶ.C34H32FeN4O4(616.48).褐色の針状晶.ヘモグロビン,ミオグロビンは1分子中にそれぞれプロトヘム4分子または1分子をもち,ヘムは酵素と結合,解離を行い,酸素を組織へ運搬する役目をしている.また,プロトヘムは,カタラーゼペルオキシダーゼなどの酸化還元酵素補欠分子族である.そのほか,ヘムcは還元型シトクロムcの,ヘムaは還元型シトクロム酸化酵素のそれぞれ補欠分子族である.ヘムの鉄は六配位座をもち,そのうち四配位座はポルフィリンの四つのN原子で占められ,残りの二つは水分子またはピリジン,ヒスチジンなどの窒素塩基で占められる.窒素塩基と結合した場合をヘムクロムとよぶ.ヘモグロビン,カタラーゼなどは一種のヘムクロムである.ヘムクロムは400 nm 付近の吸収帯(ソーレー帯,Soret band)のほかに530,560付近に2本の強い吸収帯を示す(ピリジンヘムクロムは525,557 nm).[CAS 14875-96-8]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム
haem
heme

生体物質の一種。呼吸に関与するタンパク質であるヘモグロビン,チトクロムなどに含まれている。化学的にはポルフィリンとⅡ価鉄の結合体で,特有の色調を呈する(吸収極大は581,545,415nmにある)。酸素運搬体であるヘモグロビンでは,酸素分子はヘムの鉄原子と結合する。鉄原子は,ポルフィリン環の中央に位置し,塩基と配位結合をしている。遊離のヘムは酸化されやすく,酸素分子と反応して,Ⅲ価鉄のヘマチンhaematinになる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム
heme

一般に,生体内に存在する鉄-ポルフィリン錯化合物をヘムと呼ぶ。プロトヘムはその代表的なもので,プロトポルフィリン IXと2価の鉄イオンとの錯化合物。褐色針状晶として得られ,酸化されやすく,鉄原子が3価に酸化されてヘマチンが,また塩素イオンの存在下では (クロロ-) ヘミンが得られる。逆にこれらのものを適当な条件で還元するとヘムをつくることができる。細胞中に遊離状態でも微量存在するが,多くの場合,蛋白質と結合してヘモグロビンミオグロビンとして存在し,酸素の運搬や貯蔵に関与している。ヘム (プロトヘムも含む) には酸化還元に関係する酵素の補欠分子団となるものがある。このようなヘムを必要とする酵素をヘム酵素と呼ぶが,チトクローム系やペルオキシダーゼなどはその例。

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栄養・生化学辞典 「ヘム」の解説

ヘム

 C34H32N4FeO4 (mw616.50).

 ヘム色素ともいう.ヘモグロビン,ミオグロビン,シトクロムなどの色素部分で赤色を呈する.二価の鉄を含む.

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百科事典マイペディア 「ヘム」の意味・わかりやすい解説

ヘム

ポルフィリンと二価鉄との錯体。ヘモグロビンの色素部分に相当。

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世界大百科事典(旧版)内のヘムの言及

【補酵素】より

… なおグリコーゲンホスホリラーゼに結合しているピリドキサルリン酸は,補酵素としての役割が上記とまったく異なり,リン酸基が基質としてのグリコーゲン分子の分解に関与すると理解されている。(7)その他 テトラピロールに鉄が配位したポルフィリンの誘導体としてのヘムは各種酸化還元酵素の補酵素として,またユビキノンubiquinone,すなわち補酵素Q(CoQと略記)も電子伝達系で重要。テトラヒドロ葉酸はホルミル基などのC1ユニットの転移に,ビタミンB12としてのコバミド補酵素cobamide coenzymeはH,Cその他の分子内転移をめぐる脂質,核酸代謝に(欠乏症としては貧血が有名),ATPはリン酸基転移に,S‐アデノシルメチオニンはメチル基転移にというぐあいに,多くの補酵素が生体反応で重要な役割をになっている。…

【ポルフィリン】より

…ポルフィリンに鉄,銅,マグネシウムが結合した分子内錯塩は天然に存在し,生理的に重要なものが少なくない。例えばチトクロム,カタラーゼ,ヘモグロビンなどは鉄ポルフィリン誘導体のヘムやヘマチンを含有しており,植物の葉緑体にはマグネシウムポルフィリンとしてのクロロフィル(葉緑素)が含まれる。 ポルフィリンの物理化学的性質は側鎖の種類で大きく変わる。…

※「ヘム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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