ヘロン(英語表記)Hērōn

精選版 日本国語大辞典 「ヘロン」の意味・読み・例文・類語

ヘロン

  1. ( Heron ) 古代ギリシア数学者物理学者。一世紀頃にアレクサンドリアで活躍。幾何学物理学書物多数著わした。三角面の概念大砲構造などを論じ、日光反射鏡、ヘロンの噴水などを発明。生没年不詳。

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改訂新版 世界大百科事典 「ヘロン」の意味・わかりやすい解説

ヘロン(アレクサンドリアの)
Hērōn

ヘレニズム期のギリシアの機械学者,数学者。生没年不詳。1世紀に活躍したとされている。その年代については諸説があったが,近年《照準儀Dioptra》第35章の月食の記述が62年のものであることが判明している。

 彼の多数の著作は数学系列のものと,機械学系列のものに大別することができる。数学の分野で代表的な著作は《測量術Metrica》で,ここでは例えば有名な〈ヘロンの公式〉(三角形)のような幾何学を用いた各種の図形・立体の求積法,分割法が述べられている。機械学分野を代表するのは《気体学Pneumatica》と《機械学Mechanica》で,前者は真空や気圧,水圧の性質を利用した80近い装置が挿絵入り(ただしその絵は6世紀ころのもの)で解説されている。なかには消防ポンプや水力オルガンのように実用性のあるものもあるが,大部分見世物の玩具のようだったらしい。《機械学》はアラビア語訳しか残っていないが,序文,理論,実践という3段構成をとった本格的著作で,当時の力学や数学の水準を踏まえて,建築術,車輪歯車製法ほか,ウィンチ,てこ,滑車,くさび,ねじなど基本的な動力機械について解説したものである。そのほか《反射光学Catoptrica》(ラテン語訳だけ残存)など彼の名を冠する著作が多数あるが,一部に彼の手になるかどうか疑わしいものもある。彼の著作は幅広い読者を得ていたようで,フワーリズミーらアラビア数学者の著作にもその断片がみられる。その意味でヘロンは,アルキメデスやエウドクソスらのヘレニズムの伝統を,アラビア世界を介してルネサンス・ヨーロッパに伝えるうえで重要な役割を果たしたといえる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘロン」の意味・わかりやすい解説

ヘロン
へろん
Heron

生没年不詳。古代ギリシアの技術者、物理学者、数学者。62年ごろから150年ごろの間、アレクサンドリアで活躍した。著作は多く、10編余りが現存する。彼の業績は、全体としては独創性は少ないが、彼以前の幾何学や力学の成果を実用向きに整理しており、その影響はイスラム世界からルネサンスにまで及んだ。業績としては、「ヘロンの公式」として知られる三角形の三辺の長さからその三角形の面積を求める方法、古代でもっとも精密な器械といわれる照準儀の説明、不規則な線で囲まれた面積の求め方、長距離を測るための路程計、ヘロンの蒸気タービン、金を入れると自動式に水が出る聖水箱、祭壇の火で神殿の扉が開く仕掛けなどで、興味深い方法や装置が多い。これらの装置類が産業に適用されず、遊戯的なものに使われたのは、当時の奴隷制社会のなかでの技術のありようの一端を示すものであろう。

[平田 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘロン」の意味・わかりやすい解説

ヘロン[アレクサンドリア]
Hērōn of Alexandria

前 100年頃在世したギリシアの数学者,発明家。幾何学,測量法,機械学,気体装置などに関する著書が現存する。幾何学で最もよく知られた業績は,三角形の3辺の長さをそれぞれ abc として 2sabc とおけば,その面積 S で与えられるというヘロンの公式の導出であろう。技術の分野では,天体観測器械ディオプトラの測量器具への改良,コインで動く自動機械,水オルガン,歯車を利用した重量物取扱い機,サイホンなどのほか,おもちゃ用でしかなかったが,ヘロンの蒸気タービンなどがある。彼の発明には娯楽用のものが多かったが,実生活に役立ったものも多い。ユークリッド『原本』の注釈を書いており,ラテン語,アラビア語に翻訳されている。

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百科事典マイペディア 「ヘロン」の意味・わかりやすい解説

ヘロン

アレクサンドリアの技術者,数学者。生没年不詳,活躍年代も前3世紀から後3世紀まで種々の説がある。汽力球,水力オルガン,自動販売器等種々の仕掛けを考案,てこ,滑車,歯車,ねじ等を論じ,光学に関する著書では入射角と反射角が等しいことを記述。ヘロンの公式も彼の発見といわれる。
→関連項目噴水

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世界大百科事典(旧版)内のヘロンの言及

【グレート・バリア・リーフ】より

…オーストラリアの代表的な観光地で,年間30万人以上の観光客が訪れる。とくにグリーン島(ケアンズ沖合)やヘロン島(グラッドストン沖合)などが知られ,本土側の主要都市を基地とするヘリコプター,小型飛行機,船の便がある。【谷内 達】。…

【エネルギー】より

…英語ではエナージーenergyという。
【エネルギー概念の発展】

[仕事と力学的エネルギー]
 エネルギーの概念が確立したのは19世紀後半であるが,これと深いかかわりをもつ仕事の概念の歴史はずっと古く,すでに紀元1世紀ごろ,アレクサンドリアのヘロンは,てこや滑車などの機械による仕事について,力に関する利得が速さまたは移動距離に関する損失で帳消しにされるということを述べている。これは現在仕事の原理と呼ばれるもので,詳しくいうと次のようになる。…

【オートメーション】より

…生産工程の一部または全部が,人間の手を離れて機械だけで行われることであり,autom(atic)+ationという造語法で(あるいは,autom(atic)(oper)ationという短縮法によって),1940年代のアメリカで成立したことばだとされている。アレクサンドリアのヘロン(1世紀)の作った自動人形はオートマトンと呼ばれたが,このオートマトンということばは,機械を用いた生産が人間の社会に及ぼす影響を重大な問題として考察した19世紀の思想家たちによって,機械による生産が行きつく果てをイメージさせることばとして愛好された。つまり彼らは生産機械がオートマトン(自動人形)のように,すべての加工動作を人間の手を借りないで自分でやってしまう未来を予感したのである。…

【ガスタービン】より

…この上昇するガスで羽根車を回す装置がガスタービンの先祖である。アレクサンドリアのヘロンもこのような装置を考案していたといわれている。日本に古くからある回り灯籠も同じ原理である。…

【からくり】より

… 人間とそっくりのもの,生きてひとりで動くものをつくること――それは人間が太古の昔から追ってきた大きな夢であった。自動人形の起源といえば,遠く古代エジプトやギリシア,ユダヤの時代の神話伝承の世界にさかのぼるが,自動人形の夢が現実の技術と結合した最古の作品といえば,紀元前後のギリシア人ヘロンにはじまる。彼は人間の手をいっさいつかわず,すべてを機械仕掛けで演ずる自動人形劇を考案し,また祭壇の点火によって神殿の扉が自動的に開閉する仕掛けなどをくふうし,設計図を書きのこしている。…

【機械】より

…メカネがラテン語に入ってマキナmachinaになり,それがヨーロッパの各近代語に変わったのである。ギリシアでメカネと呼ばれたものは,アレクサンドリアのヘロンによれば,てこ,ろくろ,くさび,ねじ,滑車である。ヘロンはこれらを〈一定の力によって一定の重量物を動かすことのできるメカネ〉と呼んだ。…

【自動販売機】より

…このほか通貨で操作される機械として公衆電話機やジュークボックス,ゲームマシンなどの娯楽機もあるが,これらはその用途からみて,通常は自動販売機の範疇(はんちゆう)には含めない。
[歴史]
 自動販売機の起源は古く,1世紀に活躍したアレクサンドリアのヘロンは《気体学》の中で,硬貨を入れるとその重みで栓が開き,数滴の水が出るという聖水自動販売機を紹介しており,エジプトの神殿に設置されたともいわれている。このアイデアはその後17世紀に入ってイギリスで復活し,さらに広く欧米に伝播(でんぱ)して,タバコ,切手,書籍,菓子などの自動販売機の考案に生かされた。…

【蒸気タービン】より

…そして羽根を出るまでに蒸気の流れの方向を変え,その際羽根が蒸気から受ける反力を利用して羽根を回転させることによって仕事を行うものである。
[歴史]
 蒸気を用いて回転運動を行わせる装置の着想は1世紀ころにさかのぼり,アレキサンドリアのヘロンは,ボイラーから発生する蒸気が,支柱管を通って球状の回転体に入り,これに取り付けられた2本の曲管から互いに反対方向に高速噴流となって吹き出し,球体がその反動で蒸気の噴出方向と逆向きに回転する装置を考案しているが,これは後で説明する反動タービンの原型といえるものである。長い空白ののち,1629年ごろに至って,イタリアの建築家G.ブランカによって,後述の衝動タービンの原型というべき考案が記録されている。…

【噴水】より

…乾燥した大気の中の水が与える涼感,動きと音,光のきらめきの多彩な効果によって,噴水は古代から人々の愛好するところとなり,そのための水力学上の技術が開発された。前1世紀ころに活躍したアレクサンドリアのヘロンは,サイフォンの原理を応用した〈ヘロンの噴泉〉の考案者として知られている。古代ローマにおいては,水道の建設技術の展開と庭園の愛好があいまって,宮殿や住宅,ウィラの庭を噴泉が彩るのが見られ,ポンペイの廃墟などに,その遺構を見ることができる。…

※「ヘロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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