〈角(つの)〉の意から出た楽器名。広義には動物の角をそっくり用いた吹奏楽器のこと,またそれを祖とする楽器のことで,いわゆる角笛(つのぶえ)である。末広がりの〈円錐管〉を,呼気流と唇の振動とで鳴らす楽器がほとんどである。狭義には,狩猟用の角笛から生まれた金管楽器の一つを指す。優美で温和な音色をもち,目につく特徴には,管径が細く管長が長いこと,その途中を円環状に巻いて形を整えていること,管末のアサガオ状開口が大きいこと,いわゆる漏斗(ろうと)状の歌口を用いること,アサガオを後ろに向ける独特の構え方などがある。最後に挙げた構え方は,後述のような右手の演奏技法と関連するものである。今日ホルンは,(1)ヘ調のもの,(2)変ロ調のもの,(3)両者を合体させたダブル・ホルン,の3種が代表的で,よく用いられている。またそのいずれもが,ヘ調の移調楽器として扱われることが多い。つまり,高音部記号を使って楽譜を書く場合,実音より5度高く記すので,仮に1点ハが書いてあれば,実際には小字ヘを吹奏する。変ロ調ホルンは,ヘ調ホルンに比べて管長が4分の3と短く,その分だけ調子が高いが,高次倍音が吹きにくいので,実音の上限は両者ともあまり変わらない。音の深みではヘ調に分があるし,あまり目だたない低音のことだとはいえ,ヘ調なら出せて変ロ調では出せない音がいくつかある。しかし上限に近い音域での安定感は変ロ調ホルンが勝っている。ダブル・ホルンは両者の特徴を兼備していて愛用者も多い。
円環状に巻いた狩猟用ホルンは17世紀に現れてフランスを中心に用いられた。フレンチ・ホルンという別名があるのはこのことによるらしい。円環の内部は,のちに替管,あるいは弁(バルブ)と迂回管でいっぱいになったが,それがなかった当時は頸や肩に掛けて携行することもできた。この狩猟用品がときにオペラなどに利用され,ことに18世紀のイタリアやドイツでしばしば管弦楽の仲間入りをし,ついに一人前の楽器としてフランスにも逆流したのである。
現代型ホルンは3個以上の弁があって,音程を自由につくれるが,かつてはそれがなかったので,吹き分けられる音の種類がごく限られ,楽器固有の基調が楽曲の調に適合しない限りほとんど使いものにならなかった。管楽器の基調は,管の長さによって変わる。そこで考えられたのが長短さまざまな替管である。管の途中をさしかえて,曲に合わせるのである。19世紀以前の楽譜で,ホルンのパートにみられる多様な調の指定は,ほとんどが替管の指定である。音の種類を増やすもう一つのくふうは,右手をアサガオ内に入れて音を調節するストップ奏法(ハンド・ストップ,ゲシュトプトなどとも)である。音高変化とともに音色も曇るが,目だたぬように使えばよい。ときには音のひずみを目だたせて特殊効果に利用することもできる。替管とストップ奏法の完成は18世紀中葉のことで,ドレスデン宮廷楽士,ボヘミア出身のハンペルAnton Joseph Hampel(1710ころ-71)の功績が大きいとされる。その後,機構改良の試みが多く行われ,19世紀中葉には弁を備えた楽器が進出してきたが,それが大勢を占めたのは末葉になってのことである。
ホルンはビバルディ,テレマン,モーツァルト,R.シュトラウスらの協奏曲など,独自の曲目をもってはいるが,活躍の場は管弦楽,吹奏楽,室内楽など,ほとんど合奏の中である。金管合奏の剛直な強奏を支えうる力強さの反面,弦楽合奏など繊細な響きのなかに唯一つの金管として加わってもよく調和し,響きを豊かにこそすれ,場違いにならない適応性をもつ。木管楽器数本とホルン1本という合奏編成も例が多い。信号風な音型の吹奏などもよいが,ゆったりとしたロマンティックな旋律を歌う場合などに,他の追随を許さぬ表現力を示すことが多い。
執筆者:中山 冨士雄+関根 裕
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ドイツの美術家。フランクフルト近郊のミヘルシュタットに生まれる。パフォーマンス作品をはじめ、シュルレアリスティックな装置、インスタレーション、映画などその作品は多岐にわたるが、主題となっているのはいつでも人間の身体や感覚である。
10代のころからレーモン・ルーセルなどのシュルレアリスム文学を読み、シュルレアリスムはもちろん錬金術やナンセンスなものに関心を抱く。1964年から1970年まで、ハンブルクの絵画芸術高等学校に学ぶが、当時の彼女が大きな関心を抱いていたのは、フランツ・カフカやジャン・ジュネらの文学、またルイス・ブニュエルやピエル・パオロ・パゾリーニらの映画であった。とくにカフカの文章は、後に1994年の『カフカの連作』など作品の主題としてたびたび現れる。
だがこの間1968年に肺病にかかり、制作に使う素材を制限せざるをえなくなる。とくに彫刻制作のための素材には、弱った肺に深刻な影響を与えるものがあったからである。サナトリウムで療養を続け、ベッドを離れることのできない日々のなかで、彼女はいやおうなく自分の身体について、あるいはその自分の身体を日常的に取り囲む医療器具、医療用品について強く意識するようになった。ホルンはまず、身体につけるさまざまな医療器具をモチーフにした作品を制作する。たとえば1968年の『腕の延長』では、足首から腹部までをがんじがらめにした包帯状の布が、そのまま両腕に巻き付けられ、ちょうど極端に長くしたギプスのように、両腕を地面まで延ばす。拘束具のようでも補助具のようでもある両義的なこの器具は、しかし、いずれにせよ人間とその外部世界との接触の仕方を変える。この「人間とその外部世界との関係の変容」というテーマは、このころの彼女の作品に共通している。
さらに1970年ごろから、ホルンはこれらの器具を装着した人間によるパフォーマンス作品を制作する。その代表的な作品に1970年の『一角獣』がある。この作品でホルンはまず、町でみつけた女性に頼んで上半身裸になってもらう。彼女はこの女性の身体に、やはり拘束具のようにして包帯を巻き付け、それをこんどは頭部を経由してそのまま頭上高く、ちょうど一角獣の角のように伸ばした状態で固める。女性はその姿のまま一人で公園を歩いてゆく。むきだしになった乳房はあからさまに女性を象徴するだろうし、一方、頭上にそびえる一本の角は男性の象徴としてのペニスを想起させる。この作品にもやはり両義性、とくにセックスの両義性が示されている。またホルンは、同じころ、こうしたパフォーマンス作品をフィルムやビデオに収める。これらはしだいに映像による作品として独立し、1990年には一般公開用の長編映画『バスターの寝室』Baster's Bedroomを監督した。
1970年代の終わりごろより、しだいに、実際に人間の身体が登場する作品から、自動的に動いて人間の身体や動きを感じさせる、機械のような装置が登場する作品へと移行する。この傾向を代表する作品としては、『羽毛の牢獄(ろうごく)=扇』(1978)、『無政府状態のためのコンサート』(1990)がある。前者は羽毛でつくった直径2メートルほどの大きな扇を2枚、向かい合わせにしてシェルターの形にしたものであり、これは人間をその中に入れた状態で、モーターによって自動的に開閉する。後者は天井からグランド・ピアノを逆さ吊(づ)りにし、一定の時間になると鍵盤がピアノ本体から吐き出されるように出てきて、混沌(こんとん)とした音を出したあと、また引っ込む、というものである。いずれもその動きに意味があるわけではないが、まさにその点がどこか愛嬌(あいきょう)を感じさせる作品となっている。
[林 卓行]
2009年(平成21)~2010年、東京都現代美術館で日本初の個展を開催。2010年には世界文化賞(彫刻部門)を受賞した。
[編集部 2024年10月17日]
リップリード(唇を振動源とする)の気鳴楽器。一般的にはヨーロッパで発達した金属製の楽器(フレンチ・ホルン)をさすが、広義には角笛(つのぶえ)や法螺貝(ほらがい)の類全般をさすこともある。楽器分類では、諸民族の角笛系統の楽器を、円筒管を基本とするトランペット系と、円錐(えんすい)管を基本とするホルン系の2種に分ける場合もあるが、実際には管の形状からこのどちらかに分類してしまうことには無理がある。ホルンボステルとザックスの楽器分類法では、ホルンという名称がトランペットの下位分類として扱われている。
フレンチ・ホルンの外形上の特徴としては、細長い管を丸く巻いてまとめていること、ベル(朝顔)の直径が約30センチメートルと急激に広がっていることがあげられる。しかし、管全体の内径は、ベルの近くまでそれほど大きくなってはいない。マウスピースはトランペットやトロンボーンなどのカップ型と違って細長く、内面が緩やかにすぼまったじょうご型である。これが、管の形状と相まってホルン独得の丸い深みのある音色を生み出す。現在用いられているホルンはF管(管長約3.7メートル)が標準であるが、それより短いB♭管(管長約2.8メートル)やF管・B♭管双方の機構を備えたダブル・ホルンを用いることも多い。また、これらよりも1オクターブ高いものなどもつくられている。音高変化のためのバルブはロータリー式とピストン式の2種類があるが、今日ではロータリー式が優勢である。通常、人差し指・中指・薬指で操作する三つのバルブがあるが、ダブル・ホルンにはF管とB♭管を切り替えるために親指で操作する第四のバルブがある。またこのバルブの操作によって、同一の音高がいくつかの指使いで得られるため、音色の変化をつけることができる。
ホルンは、唇を調節して倍音を変えることと、左手でバルブを操作することで必要な音高を得るが、その奏法上の特徴としては、右手の使用があげられる。奏者は体の右側にベルが後ろ向きになるように楽器を構え、右手をベルの内側に入れている。そして必要に応じて、手をベルの奥に入れて音色・音高を変化させるのである。手の入れぐあいを加減することで微妙な変化をつけることも可能である。これはストップ奏法とよばれ、ホルン特有のものである。
ビバルディ、モーツァルト、R・シュトラウスらがホルンのための協奏曲を作曲しているが、おもにホルンは管弦楽や吹奏楽のなかで用いられ、とくにゆったりとしたロマンチックな旋律を歌うのに適している。ウェーバーのオペラ『魔弾の射手』やブラームスの交響曲第3番などが好例であろう。
[卜田隆嗣]
ハンガリーの政治家。7月5日ブダペストに生まれる。1954年にドン・ロストフの経済・財政学大学を卒業。経済学博士候補資格を得る。1954~1959年財務省の課長、その後外務省の旧ソ連関係部の外交官補となる。ブルガリア、旧ユーゴスラビアでハンガリー大使館の書記官および顧問となり、ハンガリー社会主義労働者党本部の国際関係部長を務める。1985~1989年外務省の長官、1989~1990年外務大臣。1980年代末から、ハンガリーの改革運動に主導的な役割を果たす。この時代に、韓国、イスラエルとの外交関係を確立し、その後オーストリアとの国境にある鉄条網「鉄のカーテン」を開き、当時の東ドイツの住民がハンガリーから西側に逃れるのを助け、それによりドイツの再統一を側面援助した。さらに、ハンガリーから旧ソ連軍が撤退する協定を準備し、最終的にそれを実現した。
1989年ハンガリー社会主義労働者党の改名に際し、その改革派を結集したハンガリー社会党の創設者の一人。1989年10月にハンガリー社会党国家常任幹部会のメンバー。1990年にハンガリー社会党の議長となる。この時代に、社会党は周辺国の社会主義政党とともに、社会民主党型のスタイルを受け入れるようになり、国際社会民主主義運動、社会主義インターナショナルに加盟。1990年の総選挙で国会議員となり、外務省議会資格委員会の議長。1994年ハンガリー社会党の党候補者名簿の第1位となり、同年、首相に任命される。旧共産党の官僚からあがってきた人間であるにもかかわらず、その政治手腕と素朴な人格ゆえに国民の間に安定した支持を得ていた。しかし、1998年5月の総選挙で社会党は敗北、政権の座を降りた。
[羽場久浘子]
スウェーデンの軍人、政治家。1687年以後ハンガリー軍、オランダ軍などに勤務。のち、皇太子時代のカール12世の側近となった。1700年大北方戦争が始まると、国王とともに大陸に遠征。1706年伯爵となり、国務院議官として帰国を命ぜられ、以後本国の政界で活躍、1710~1719年宰相となった。この間、軍事・財政政策をめぐってしばしば国王と対立。1720年議会議長として反絶対主義憲法の制定を実現した。同年ふたたび宰相となり、1721年大北方戦争を終結させ、対外的には協調主義、とくにロシアとの協調を基軸として国政を指導した。また、1724年航海条例を制定し、新興産業を保護育成した。1730年ごろから対外強硬論を基調とする反対勢力「ハット党」の結集を招き、1738年の議会においてハット党の圧力により辞任を強いられた。
[本間晴樹]
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…圏谷が背中合せとなる稜線はぎざぎざなやせ尾根(ナイフ・リッジ)となり,グラートGrat,アレートarêteなどと呼ばれる。三つ以上の圏谷に囲まれた山頂は角錐形となり,ホルンと呼ばれる。圏谷底は周囲の圏谷壁からの崖錐に埋められやすいが,逆傾斜をするように深く圏谷底が削られた場合には圏谷湖が見られることもある。…
…二つの圏谷に挟まれた岩稜は,鋭い岩塔や針状峰が並ぶ鋸歯状の氷食山稜arêteとなる。三つ以上の圏谷の切り合う所には,マッターホルンのような角錐状の尖峰(ホルンHorn)を生ずる。流域の降水量が同じとした場合は,氷食は河食に比べて強く働くので,氷食谷は深く幅広くU字形にうがたれる。…
…カール底はほぼ雪線の高さに形成されるので,氷期に形成された圏谷底高度から当時の雪線高度を推定することができる。急なカール壁を両側にもつ稜線は瘦せ尾根(アレートarête(フランス語)あるいはグラートGrat(ドイツ語))となり,三方からカール壁に囲まれるところには,マッターホルンで有名なホルンHorn(ドイツ語)あるいはエギーユaiguille(フランス語)と呼ばれる鋭峰が形成される。 カール底から下流部へは横断面形がU字形をした氷食谷(U字谷)が続く。…
…二つの圏谷に挟まれた岩稜は,鋭い岩塔や針状峰が並ぶ鋸歯状の氷食山稜arêteとなる。三つ以上の圏谷の切り合う所には,マッターホルンのような角錐状の尖峰(ホルンHorn)を生ずる。流域の降水量が同じとした場合は,氷食は河食に比べて強く働くので,氷食谷は深く幅広くU字形にうがたれる。…
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…中国で軍楽等に用いられた角(かく)や,ユダヤ教のショファル等がそれで,前者は仏画の奏楽場面にも登場し,日本の阿弥陀来迎図にまで及んでいる。洋楽のホルン,コルネット等も金属製になってはいるが,角から来た名であり,ビューグルは〈牛飼いの角笛〉という意味のフランス古語に由来している。これらの多くは放牧,狩猟,警備,軍事等に関連して信号用などに,あるいは宗教や呪術に関連して用いられてきた。…
※「ホルン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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