日本大百科全書(ニッポニカ) 「マッハの原理」の意味・わかりやすい解説
マッハの原理
まっはのげんり
Mach's principle
物体に働く慣性力は宇宙にある他の物質との相互作用によって生じる、とする原理。ニュートンは、その力学法則の提唱にあたって慣性の法則の成立する「絶対空間」の存在を想定し、この空間に対して円運動をしている相対空間は、そこでの静止した物体に働く遠心力の有無によって判定できると主張した。これに対して、オーストリアのE・マッハは、われわれが直接観測できる事柄は相対的な運動だけであるとした。たとえば、地球上の物体の運動においては地球の絶対空間に対する自転の影響を考慮しなければならないが、それはまた、地球は静止していて、宇宙全体が地球の周りを回転していることによって地球上の物体の運動に影響力を生ずると考えることも可能である。こうしてマッハは、地球上の物体の運動において、地球に対する宇宙全体の相対運動の影響を考慮すべきことを主張した。これをマッハの原理という。たとえば、水の入ったバケツを回転すると、遠心力で中央部の水面はへこみ、周縁部は盛り上がる。ニュートンはこれを絶対空間に対する回転とみるが、マッハは、バケツは静止していて宇宙の物質が回転することで縁が盛り上がると考える。この主張は別にニュートン法則それ自身に変更を与えたわけではなく、いわばものの見方(認識論的な意義をもつ見解)であるといえる。とくにマッハのこの考え方がアインシュタインに大きな影響を与えたといわれ、その意味で積極的な意義をもつ一方、マッハ自身原子の存在を否定するという誤りもあって、この考え方についての評価はかならずしも確定していない。
[小川修三・植松恒夫]
『E・マッハ著、伏見譲訳『マッハ力学』(1969・講談社)』▽『エルンスト・マッハ著、高田誠二訳『熱学の諸原理』(1978・東海大学出版会)』▽『エルンスト・マッハ著、岩野秀明訳『マッハ力学史――古典力学の発展と批判』上下(ちくま学芸文庫)』