改訂新版 世界大百科事典 「マナス」の意味・わかりやすい解説
マナス
Manas
キルギス族の英雄叙事詩。古来,キルギス族の間に口承で伝えられ,19世紀の中葉に,ロシアのCh.Ch.ワリハーノフやV.V.ラードロフによって初めて文字に採録されて以後,その本格的な研究が開始された。50万行を超えるこの膨大な史詩は,それを語り伝えたマナス誦(よ)みmanaschiによって,少なくとも18種類以上の異本が生み出されており,その原形が,いつ頃いかなる形でつくり出されたものであるかは,現在なお明らかでない。しかしその大筋は,サリ・ノガイ族の王子マナスの誕生と,その少・青年時代の描写,マナスの結婚と,カルムク人によるマナスの暗殺,マナス亡き後に生まれたその子セメテイの,再度なるカルムク人による暗殺,セメテイの遺子セイテクによるカルムク人に対する壮絶な復讐など,草原の英雄たちが負わねばならなかった運命的な生と死の物語を主題として,その間に激情的な恋や華やかな宴,さらに英雄たちの競べ馬や壮烈な一騎打の場面などがうたいこまれている。
執筆者:間野 英二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報