インド南部,タミル・ナードゥ州チェンナイ(旧マドラス)の南56kmにあるパッラバ朝の代表的ヒンドゥー教遺跡。かつては貿易港として栄えた海岸沿いの花コウ岩台地に,10余りの石窟,九つの岩石寺院,さらに石積寺院や磨崖彫刻も残っている。石窟はいずれも小規模であるが,バラーハ・マンダパVarāha-Maṇḍapa,マヒシャマルディニー・マンダパMahiśamardinī-Maṇḍapa,トリムールティ窟,アーディ・バラーハ窟は建築,彫刻ともに傑出している。堂全体を岩塊から彫出した岩石寺院を当地ではラタratha(車)と呼んでいる。大叙事詩《マハーバーラタ》の主人公の名をとったドラウパディー,アルジュナ,ビーマ,ダルマラージャ,サハデーバの五つのラタやガネーシャ・ラタは,さまざまな形態の当時の木造建築の姿を伝えていて興味深く,インド南型建築の祖型を考える上で貴重である。浮彫ではバラーハ・マンダパの〈ガジャ・ラクシュミー〉,マヒシャマルディニー・マンダパの〈水牛の姿をしたアスラを退治するドゥルガー〉,約9m×26mの巨大な磨崖彫刻〈ガンガー川の降下〉(一説に〈アルジュナの苦行〉),クリシュナ・マンダパの同じく磨崖彫刻〈ゴーバルダナ山を持ち上げるクリシュナ〉などが代表作で,自然な表現,きゃしゃで肉付けの柔らかい群像の律動的な構成を特色とする。以上はおもに7世紀中期から後期の造営で,パッラバ朝の盛期マーマラ様式に属し,ほかに7世紀前期のコーティカル・マンダパとダルマラージャ・マンダパは初期マヘーンドラ様式に,8世紀初期の石積みの海岸寺院は中期ラージャシンハ・ナンディバルマン様式に属する。
執筆者:肥塚 隆
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インド南部にあるパッラバ朝の代表的ヒンドゥー教遺跡。タミル・ナド州チェンナイ(マドラス)から南へ56キロメートルの、ベンガル湾に面した海岸にある。この地方は古くから商業・貿易の中心であったが、海岸に東西2.5キロメートルにわたり高さ約30メートルの花崗(かこう)岩の丘があり、それを中心に多くの石窟(せっくつ)、岩石寺院、岩壁彫刻、石積み式の海岸寺院がある。石窟の代表的なものはバラーハ・マンダパ(マンダパはインド建築用語で列柱・広間のある寺院をさす)、マヒシャマルディニー・マンダパ、トリムールティ窟、アーディ・バラーハ窟である。岩石寺院はこの地方ではラタ(車)とよばれ、『マハーバーラタ』の主人公の名をとった五つのラタや、ガネーシャ・ラタなどが岩から彫り出されており、南インドの木造建築の型を伝えている。それらの大岩壁には数々のヒンドゥー教神話が浮彫りされ、群像の構成、律動感に特色がある。いずれも7世紀中葉から8世紀初期の建造で、南インド建築・彫刻を知るうえに欠かせない遺跡である。これら建造物群は1984年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
[永井信一]
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…その少し南にさらに2棟の小堂(ガトットカチャ,ビマ)があり,北にダラバティと呼ばれる小堂がある。これらの堂の名称は叙事詩《マハーバーラタ》からとられ,建築技術とともに南インドのパッラバ朝のマハーバリプラムあたりから移入したものと思われる。多くの堂の平面は4m内外の正方形の主室に入口と階段突出部の付いた凸字形である。…
※「マハーバリプラム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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