ミオグロビン(読み)みおぐろびん(その他表記)myoglobin

翻訳|myoglobin

デジタル大辞泉 「ミオグロビン」の意味・読み・例文・類語

ミオグロビン(myoglobin)

筋肉に含まれる、たんぱく質グロビンと鉄を含む色素ヘムとが結合した色素たんぱく質。代表的な鉄たんぱく質の一であり、ヘムたんぱく質に分類される。ヘモグロビンよりも酸素と結合する力が強く、筋肉中に酸素を貯蔵する。

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精選版 日本国語大辞典 「ミオグロビン」の意味・読み・例文・類語

ミオグロビン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] myoglobin ) 哺乳類の筋肉細胞内にあるヘモグロビンに似た赤色のヘム蛋白質。酸素を貯蔵する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミオグロビン」の意味・わかりやすい解説

ミオグロビン
みおぐろびん
myoglobin

哺乳(ほにゅう)類の筋肉細胞内に含まれる赤色のヘムタンパク質で、ヘモグロビンの単量体によく似ている。濃い赤身の牛肉1グラム中に15ミリグラム程度含まれている。分子量は約1万7000で、アミノ酸153個が連なる1本のポリペプチド鎖(グロビン)と二価の鉄1原子を含む1個のプロトヘムからなる。等電点は水素イオン濃度指数(pH)6.9で、ヘモグロビンより水溶性が大きい。

 1960年イギリスのケンドルーペルツがX線結晶解析法によってマッコウクジラのミオグロビンの立体構造を決定した。これがタンパク質の立体構造(三次構造)を解明した最初の例となり、前記の2人は1962年ノーベル化学賞を受賞した。ミオグロビン分子の大きさは45×35×25オングストローム(Å)で、全アミノ酸の77%が八つの部分(A、B、C、D、E、F、G、H)に分かれて安定な棒状のα(アルファ)-ヘリックス構造(ポリペプチド鎖がとりうる安定な螺旋(らせん)構造の一つ)を形成し、7か所の非螺旋部分(NA、AB、CD、EF、FG、GH、HC)で屈曲している。極性のアミノ酸はほとんどが分子表面にあり、非極性あるいは疎水性のものは分子内部に多い。ヘムは疎水性アミノ酸からなるポケットに分子表面に対して直角にはめ込まれており、ヘムの鉄には二つのヒスチジン側鎖が配位して二価鉄の酸化を防いでいる。結合した酸素分子は、これと反対側に配位し、もう一つのヒスチジン側鎖と水素結合をつくる。ヘモグロビンと比べ、酸素に対する親和性が大きく、一酸化炭素に対する親和性は小さい。酸素飽和曲線はヘモグロビンのシグモイド(傾いたS字形)と異なり双曲線で、アロステリック効果(タンパク質分子が一つの低分子との相互作用によって高次構造に変化を生じ、他の分子との相互作用に変化をきたすこと)を示さず、またボーア効果(酸素解離平衡のpH依存性)も示さない。

 ミオグロビンの生体内での役割は、ヘモグロビンによって運ばれてきた酸素を筋肉組織中に貯蔵しておくことと考えられている。ヘモグロビンのα鎖やβ(ベータ)鎖と構造が似ているので、共通の祖先遺伝子をもつと考えられるが、これから進化してきたそれぞれ別個の遺伝子に基づいて生合成される。

 なお、類似のヘムタンパク質が神経組織、マメ科植物の根粒、ゾウリムシ、酵母などにもあり、組織ヘモグロビンともいう。

[野村晃司]

『Max Perutz著、黒田玲子訳『タンパク質――立体構造と医療への応用』(1995・東京化学同人)』『有坂文雄著『スタンダード 生化学』(1996・裳華房)』『Robert K. Murray著、上代淑人監訳『ハーパー・生化学』(1997・丸善)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ミオグロビン」の意味・わかりやすい解説

ミオグロビン
myoglobin

筋肉中にあって酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する色素タンパク質。クジラ,アザラシ,イルカなど水中にもぐる哺乳類は大量の酸素を貯蔵しなければならないので,これらの筋肉にはとくに豊富に含まれている。一般に動物の筋肉が赤いのはこのタンパク質に由来する。酸素結合能がヘモグロビンより強いので,血中のヘモグロビンから酸素を受け取り貯蔵することができる。その構造と機能はヘモグロビンと類似性が高いが,ヘモグロビンが四量体であるのに対して単量体である点が大きな違いである。X線解析法で三次構造が解かれた最初のタンパク質として有名で,1960年にケンドリューJ.C.Kendrewらはマッコウクジラのミオグロビン結晶を使って2Åの分解能でその全構造を明らかにした。153個のアミノ酸残基から成り,1個のヘムをもち,分子量は約1万7800である。酸素分子はヘム鉄に結合し,タンパク質は8個のα-らせんをもち,それらがヘムをとり囲んでいる。
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化学辞典 第2版 「ミオグロビン」の解説

ミオグロビン
ミオグロビン
myoglobin

ヘムタンパク質の一種.酸素分子と可逆的に結合する.潜水ほ乳動物,鳥類の筋肉中に豊富に存在する.分子量は種によって異なるが1.6×104~1.8×104,153個のアミノ酸残基からなる1本のポリペプチド鎖と1分子のヘムからなり.ミオグロビン1分子は酸素1分子と結合する.酸素の結合する部位はヘム鉄である.酸素親和性はヘモグロビンより高いが,ヘモグロビンにみられるヘム間相互作用(ボーア効果)はない.酸素を血流中のヘモグロビンから受け取り,筋肉組織内での貯蔵あるいは運搬の役割を果たす.マッコウクジラから得られたものはアミノ酸配列順序,およびX線回折法により,立体構造まで決定されている.立体構造はヘモグロビンのβ鎖にきわめてよく似ているが,ヘモグロビンの構成要素ではない.

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百科事典マイペディア 「ミオグロビン」の意味・わかりやすい解説

ミオグロビン

筋細胞内にみられる鉄を含んだ色素タンパク質。分子量は1万7800。153のアミノ酸からなり,ヘム1個を含み,酸素分子の結合能にすぐれ,水生哺乳(ほにゅう)類の筋肉に特に多量に含まれる。その三次元構造はケンドルーらによってタンパク質として初めて決定された(1960年)。構造と機能はヘモグロビンに似るが,ヘモグロビンが四量体であるのに対して,単量体である点が異なる。
→関連項目テオレル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミオグロビン」の意味・わかりやすい解説

ミオグロビン
myoglobin

筋色素,筋肉ヘモグロビンともいう。筋肉中にあるヘモグロビンに似たヘム蛋白質。ヘモグロビンの4分の1ぐらいの分子量で1分子中にヘム1分子を含む。酸素に対する親和性が大きく,筋組織中に酸素を貯蔵する役目を果している

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栄養・生化学辞典 「ミオグロビン」の解説

ミオグロビン

 筋肉の色素タンパク質で,ヘムをもつ.分子量17k,アミノ酸153個からなる.筋肉に酸素を保持させる機能がある.

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世界大百科事典(旧版)内のミオグロビンの言及

【青肉】より

…日本では一般にマグロの青肉と呼ぶ。青肉の発現には,筋肉色素ミオグロビンと海産魚介類の筋肉中に普遍的に含まれるトリメチルアミンオキサイド(TMAO)が関与する。とくにTMAO含量の高いマグロが青肉になりやすく,ビンナガの場合,尾部肉100g当りのTMAO窒素が7~8mg以上のものは蒸煮後,青肉になることが経験的に知られている。…

【呼吸色素】より

…酸素結合特性は同じ種類の色素でも動物の種によって異なっており,その違いは色素の酸素飽和度を縦軸に酸素分圧を横軸にとって表した酸素平衡(解離)曲線によって示される。これらの血液色素と違ってミオグロビンは筋肉組織中にあって酸素の貯蔵や拡散促進に関与している。ヘモグロビンにくらべてミオグロビンは酸素親和性がはるかに大きく,低酸素分圧で飽和する。…

【鉄】より

…鉄を含むタンパク質は総称して鉄タンパク質と呼ばれるが,ヘム基(ポルフィリン環に鉄が配位したもの)をもつものと,ヘム基をもたず,SH基を介して鉄と結合しているものの2種がある。前者はヘムタンパク質と呼ばれ,動物赤血球中のヘモグロビン,筋肉中のミオグロビンなどがその例で,おのおの4分子,1分子のヘム基をもち,酸素分子の運搬,貯蔵の役割をしている。後者には,光合成の際,電子伝達の役割を果たすフェレドキシンなどがあるが,総称して鉄硫黄タンパク質と呼ばれる。…

※「ミオグロビン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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