改訂新版 世界大百科事典 「ミズバショウ」の意味・わかりやすい解説
ミズバショウ
Lysichiton camtschatcense (L.) Schott
寒冷地の水湿地に生えるサトイモ科の多年草。泥炭湿地では地下茎は地中に直入し,ときに1mをこえることもある。茎頂部から,外形はバショウの葉に似て長楕円形の葉身を持つ潤大な葉を根生する。葉身基部は葉柄縁に流下してやや扁平な葉柄を形成する。大型のものでは葉長は1mをこえるが,多くはそれよりも小さい。春,葉の萌芽展開と同時にボート状の白色の仏焰苞(ぶつえんほう)を有する肉穂花序を出す。肉穂花序は長い花茎を有し,円柱形で長さ10cmばかり,多数の緑色の両性花を密集する。花は外花被片2枚,内花被片2枚,おしべ4本と1本のめしべを有する完全花で,子房は花軸に埋まっていて2室,それぞれ1個の胚珠を有する。果実は緑色の状態で熟し,やがて子房と宿存する花被片がくずれ,種子といっしょにむけ落ち,水流によって散布される。本州(兵庫県以北の冷涼な地域)の日本海側にしばしば群生し,サハリンからカムチャツカに分布する。仏焰苞が黄色を帯びるアメリカミズバショウL.americanum Hulten et St.John(英名(Washington)skunk cabbage,skunkweed)が北米西海岸北部に分布する。ごく近縁なものである。
ミズバショウ属Lysichitonはザゼンソウ属に近縁で,花被片を有する両性花,葉鞘(ようしよう)部の分化しない葉柄,それに葉的性質が強く花茎に合生しない仏焰苞などといった形態的特徴から,サトイモ科では原始的な群である。両種とも春の芽立ちと開花,夏期の潤大な葉を観賞するため池辺などに栽植されることがある。夏も低温の湧水や流水のある場所が良い。若芽や根茎を食用にすることがあったが,アクが強く食用には適さない。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報