メスティソ(その他表記)mestizo[スペイン]

デジタル大辞泉 「メスティソ」の意味・読み・例文・類語

メスティソ(〈スペイン〉mestizo)

メスチゾ

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改訂新版 世界大百科事典 「メスティソ」の意味・わかりやすい解説

メスティソ
mestizo[スペイン]

先住民(インディオ,インディヘナ)と白人混血を指す。広くは,いろいろな人種の混血を意味する。現在のラテンアメリカでは国民文化担い手とされているが,植民地時代の社会的地位は低かった。とくに,16世紀には不法な交わりから生まれた者として社会的に認められず,ムラート(白人と黒人との間の混血)とともに法的には最下位を占めた。しかし,時代が下るにつれ人口も増え,社会的地位も安定し,植民地時代における平均的地位は,次のように各種の人種の中間に位置した。高いほうから列挙すると,(1)ペニンスラール(イベリア半島人=スペイン人),(2)クリオーリョ(新大陸生れの白人,クレオール),(3)メスティソ,(4)ムラートサンボ(インディオと黒人の混血),自由身分の黒人,(5)奴隷(黒人,ユダヤ人,イスラム教徒),(6)インディオ,の順であった。時代が進むにつれ,ペニンスラールはクリオーリョに凌駕(りようが)され,19世紀初頭に諸国で起こった対スペイン独立運動は,クリオーリョを主力として推進された。そして,国民国家の樹立以降,数的に多く,社会的・文化的にも大勢を占めるメスティソが徐々に台頭してきた。とくに,メキシコでは1910年の革命以降メスティソの指導権が確立し,経済面では土地改革,イデオロギー面ではインディヘニスモを旗印とした。現実には,メスティソは先住民を搾取する立場にありながら,先住民文化にルーツを求めたのである。20年代にはナチスの純粋人種主義の弊害を批判してホセ・バスコンセロスは《宇宙人種》(1925)を著し,混血の価値と可能性の高さを唱えた。こうして,国家形成の進展と並行して,メスティソは国民文化の担い手となった。現在,メキシコに限らず多くの国で,メスティソ文化はナショナリズムと国民統合の要(かなめ)となっている。

 現在,メスティソの名称は地域によって異なり,メキシコでは一般にメスティソ,メキシコでもチアパス州ではラディノladino,グアテマラでもラディノ,ペルーではチョロcholo,ときによりクリオーリョ,ブラジルではカボクロと呼ばれる。メスティソという用語は必ずしも人種概念ではなく,社会的・文化的アイデンティティを示すものである。先住民でもスペイン語を習得して,メスティソ的価値を身につけた場合はメスティソとして認識される。また,先住民が村に居るときは先住民としてくらし,都市に出るとメスティソ風に行動して,二つのアイデンティティを場に応じて活用することもできる。メスティソ文化は国民的アイデンティティなので,日常生活ではメスティソと呼ばれるわけではなく,メキシコ人とかペルー人と呼ばれる。

 メスティソ文化の特徴は国により差があるが,ギリンGuillinの研究(1949)を参考にして,あえて概略すると次のようである。(1)実用主義や経験主義よりも人間中心的思考が向いている。(2)家族中心主義で,拡大家族のつながりが政治,実業,催し事に機能する。(3)カトリックの擬制親族が社会的に重要で,コンパードレ(代親。コンパドラスゴ)どうしの関係が強い。(4)個人の人間としての価値が評価の対象となり,敏速にして才気縦横の心性,創造力,ユーモアの精神が重視される。弁舌の巧みさが好まれ,口先で逃げをうったり,人を説得するのも才能の一端とされ,悪賢さも美徳とされがちである。(5)セレナーデを伴う求婚やロマンティックな恋愛も重要とはいえ,結婚は原則として家族間の連合である。(6)マチスモの観念が支配的で女性に〈自由〉が少ない。(7)カトリックのため離婚は好まれないが,男子が愛人をもつのは自由である。(8)結婚後,女性の活動圏は家族内に制限され,主人を仲介にしてしか外界,とくに家族外の男子に接する機会がなくなる。一方,男子は結婚後もバーやクラブを活用し,男どうしのつきあいを手広く続ける。この特徴は中産と上流のもので,下層になると,女性も自由に行動し,家族はむしろ母親中心の家族となる。(9)遊びに一定のスタイルがあり,一定のダンス(メキシコのハラベ,ハラナ,サパテアード,ペルーのマリネラ,バルス・ワリオーリョ),音楽(メキシコのマリアッチ),物語詩(コリード),風刺詩(コプラ),乗馬(チャロ),闘牛,闘鶏,にぎやかなパーティ(メキシコのパチャンガ,フィエスタ,ペルーのハラナ),最近ではサッカーや自動車競走も好まれる。(10)食物にも一定の好みがあり,スペイン料理と土着の食物との混交がみられる。料理に地域性が強く,概略しがたいが,メスティソ料理としてとくに顕著なものはペルーのリマを中心とする海岸部に普及している〈クリオーリョ風料理〉である。これは上流の白人系のクリオーリョのものではなく,リマの中産と下層のメスティソの料理であり,田舎では上層の人々の間に普及している。この料理にもピスコチチャが飲物として出され,土着の味も幅をきかせている。以上みてきたように,メスティソ文化には,ある種の特徴があるとはいえ,国,地域,階層によってかなりの差がある。
インディオ
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百科事典マイペディア 「メスティソ」の意味・わかりやすい解説

メスティソ

メスチソとも。スペイン語で混血,混血児の意味で,アメリカ大陸,主として中南米に分布するスペイン人,ポルトガル人とインディオとの混血をさす。植民地時代には社会的地位は低かったが,時代が下がるにつれて人口が増え,白人とインディオの中間に位置するようになった。さらに独立後は社会的文化的に大勢を占め,ラテン・アメリカでは国民文化の担い手とされている。
→関連項目ガウチョケーナ混血チャベストゥパック・アマルーペルーボリビアマチスモムラートメキシコ(国)ラテン・アメリカ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メスティソ」の意味・わかりやすい解説

メスティソ
めすてぃそ
mestizo

ラテン・アメリカのスペイン語圏で白人と先住民(インディオ)の混血をさす語。スペインによる征服以来混血が進み、多くの国で混血が人口の大きな部分を占めるようになり、混血は白人と先住民の間にたつ中間層となってきた。メスティソは混血をさすといっても、生物学的な意味での混血を意味する概念ではない。ラテン・アメリカにまったく白人の血が混じっていない先住民はいないと考えられているのである。先住民出身であっても、都市の労働者や、故郷とは違う場所に移住したものもメスティソのなかに含めて考えられる。この意味ではメスティソは、先住民の共同体を離れて、より文明化した生活様式を選び取った人々と考えることができる。このような人々をペルーの白人たちはチョロCholoとよび、先住民はミスティMistiとよぶ。パラグアイでグァラニGuarani、ブラジルでカボクロCabocloとよばれる地方農民もメスティソである。

[木村秀雄]

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世界大百科事典(旧版)内のメスティソの言及

【エクアドル】より

…特にグアヤス,マナビ両州の未開拓地が開発されるに伴って,山地からの労働人口が大量にこの地域へ流入した。海岸地方の人種構成には,スペイン系の白人と黒人との混血ムラート,黒人とインディオとの混血モントゥビオが含まれるが,山地では白人とインディオとの混血のメスティソが主体であり,この点からも山地と海岸地方の住民の顔かたちにわずかな相違が認められる。メスティソと呼ばれる住民には通常純粋のインディオをも含み,社会・人種的にみてエクアドルはペルーおよびボリビアと同様,〈インディオの国〉と言われる。…

【混血】より

…こうしたことから人種的純粋性と同質的民族国家意識の強い英語系植民地では混血が避けられ人種隔離が行われたが,スペイン・ポルトガル系植民地ではそれほど混血が嫌われず,結果的には植民地に多数の混血が誕生し人種的階級が成立した。優秀白人人種と劣等人種とされた人々(先住民インディオ)の間に生まれた混血は,ムラートメスティソなどと呼ばれた。また黒人と先住民との混血はサンボなどと呼ばれ,いずれも社会的には両者の中間に置かれ,多かれ少なかれ差別されている。…

【ペルー】より

…これは国土の10分の6を占めるが,人口は少なく,開発も遅れている。
【社会】
 ペルー社会は征服,植民地化の歴史を反映して,先住民(インディオ),白人(クリオーリョ),および両者の混血(メスティソ)により構成されている。ただし人種的な意味で純粋な先住民は,モンタニャに居住するアラワク語系,パノ語系その他の諸族を別にすれば,ほとんどかあるいはまったく存在しない。…

【ボリビア】より

…ボリビアにおいては,その人種区分は,文化的・社会的な要素が重視され,とくに使用言語によるところが大きく,単に身体的特徴や血統によるものではない。白人とインディオの混血のうちでも白人の要素が優越している人々はメスティソと呼ばれている。これに対して,チョロcholo(半ば白人化したインディオ)というひとつの社会階層概念を表す語で呼ばれている人々がいる。…

【ラテン・アメリカ】より


[旧イギリス領アメリカとの違い]
 ラテン・アメリカの名が示すように,基本的にはスペイン,ポルトガルによって代表されるラテン系ヨーロッパ文化がこの地域の文化的骨格をかたちづくっているが,コロンブス到着以前に長い歴史的展開を示した先住民文化や,16世紀以後奴隷として連れて来られたアフリカ人の文化も,それぞれの地域の文化に強烈な特色を与えている。同じくヨーロッパ人,先住民,アフリカ人によって人口構成の基礎がつくられたアメリカ合衆国の場合は,各民族集団間の隔離が特色であったのに対し,ラテン・アメリカでは,3者間に非常な血の混合が起こり,メスティソ(白人と先住民の混血),ムラート(白人と黒人の混血),サンボ(先住民と黒人の混血)などの集団が多数発生して,社会的に重要な意味をもっている点が注目される。先住民についていえば,アメリカ合衆国やカナダの狩猟民や小規模な農民社会と違い,アステカ,マヤ,インカなどの文明地帯には,安定した農村社会と密集した人口があり,また金銀などの鉱物資源が早くから発見されたため,スペイン人の征服後,彼らの労働力徴発による生産体系が急速に成立した。…

※「メスティソ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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