改訂新版 世界大百科事典 「メボウキ」の意味・わかりやすい解説
メボウキ
basil
sweet basil
Ocimum basilicum L.
バジルまたはバジリコと称し,香辛料や香草として知られるシソ科の一年草。メボウキ属Ocimumはアフリカ,東南アジアから太平洋諸島に50~60種が分布する。そのなかで日本で香辛料として栽培されるのは,本種だけである。高さ40~50cm,葉は波状の欠刻のある卵状披針形で,強烈な香りがする。夏には茎の先にシソに似た花穂を立て,紫白色の6輪の小花を輪生して咲き上がるが,とくに観賞価値はない。種まきは4~5月,小鉢で育苗したものを5~6月に鉢または花壇に植える。根は細かく多数で移植には強く,挿芽繁殖もまた容易である。メボウキは江戸時代に渡来したというが,目にその種子を入れると寒天様物質が出て目のごみをぬぐいかすみ目に効くとして目箒の名がつけられた。全草に香りと淡い甘みをもつのでパスタ料理,シチュー,またソーセージなどの香辛料として,また矯臭,鎮咳,解熱に用いられる。黒葉種Dark Opalは,花壇に黒色の彩りを添えることができる。
インドや東南アジアではメボウキのほかにO.gratissimum L.(英名shrubby basil,tree basil),O.kilimandscharicum Guerke(英名camphor basil),O.canus Sims(英名hoary basil),カミメボウキO.tenuiflorum L.(=O.sanctum L.)(英名sacred basil,holy basil)などの種が同様に利用されている。
執筆者:浅山 英一
民俗,象徴
メボウキはヨーロッパでは墓の象徴とされる。これにはボッカッチョとキーツが描いたイザベラの物語がかかわっており,彼女は殺された恋人の頭蓋を壺に入れ上にメボウキを植えて毎日涙を注いだ。やがて草は大きく育ち,すばらしい香を放ったという。ギリシアでは古くこれを貴族が香水などに用いたところから,バシリコンbasilikon(〈高貴な(王の)草〉の意)と呼び,バジルやバジリコの語源となった。しかしバジリスクと似た名称であったことから混同が生じ,この怪物の毒気を消す霊草と信じられるようにもなった。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報