メリットシステム(読み)めりっとしすてむ(その他表記)merit system

翻訳|merit system

デジタル大辞泉 「メリットシステム」の意味・読み・例文・類語

メリット‐システム(merit system)

公務員任用・異動に関して、その専門能力成績資格などを基準とする人事制度資格任用制。成績主義。→スポイルズシステム

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メリットシステム」の意味・わかりやすい解説

メリット・システム
めりっとしすてむ
merit system

人事行政上の用語で、資格任用制または成績主義と訳される。公務員の任用や昇進などを、もっぱらその人間の専門能力を基準として行う方法で、国王や議会多数党の有力政治家などが、恩恵として、また選挙運動の代償として官職や年金を与える「パトロネージ」(情実主義)や、選挙で勝利した執行部首長や彼の属する政党が党派的情実によって公務員を任命する政治的慣行である「スポイルズ・システム」(猟官制)と区別される。そして、メリット・システムは、「パトロネージ」や「スポイルズ・システム」の弊害を克服する過程において生まれてきたものである。

 まずイギリスでは、1853年にノースコート・トレベリアン報告書が出され、公務員制度改革として、情実主義の廃止と公開競争試験の実施、業務の知的事務とルーティン事務への区分、一般教養科目に重点を置いた試験方法、公務員任用手続の能率化と簡素化のための、独立の人事委員会の設置、試験の定期的実施、合格者に成績順にその志望する省の選択を許すこと、などを提案した。この報告書の提案は、1855年にはそのごく一部(人事委員会の設置など)が、そして1870年になってようやくほぼ全面的に実現された。

 他方、南北戦争後のアメリカ合衆国においても、猟官制の弊害が顕著となり、イギリスの公務員制度改革の先例に学んだ一部の議員や民間団体の改革運動が推進されていたが、1883年になって、ペンドルトン法(連邦官吏任用法)が制定され、メリット・システムが導入された。この法律は、大統領によって任免される3人の委員からなる人事委員会の設置、いわゆる「分類官職」に対する公開試験制度の実施(ただし、試験方法は、イギリスと異なって、実際的な専門試験)、公務員の政党資金供与と政治運動の禁止などを定めた。制定時においては、その適用を受けたのは、全連邦公務員の1割強にすぎなかったが、その後、若干の紆余(うよ)曲折を経ながらも、その適用範囲は拡大されていった。

 日本では1887年(明治20)に「文官試験試補及見習規則」が、ついで1893年に「文官任用令」「文官試験規則」が制定され、いちおうはメリット・システムに切り替えられたが、それによってむしろ特権的な天皇の官僚団が形成されていった。さらに第二次世界大戦後の公務員制度の改革によって、人事院の創設などアメリカ流のメリット・システムが導入された。

[田口富久治]

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改訂新版 世界大百科事典 「メリットシステム」の意味・わかりやすい解説

メリット・システム
merit system

アメリカにおいて,公務員の任用,昇進などを専門的能力,つまり資格や成績を基準にして行う制度をいう。一般に資格任用制や成績制と訳されている。アメリカでは,建国以来公務員の任命を党派的情実によって決定する政治慣習であるスポイルズ・システム(猟官制度)がはびこっていたが,この制度の下では適任者が公務員に就任するとは限らず,種々の弊害を生み出していた。1883年,連邦政府はペンドルトン法Pendleton Act(〈連邦公務員法〉の通称)を制定し,公務員が試験の成績(メリット)によって採用される基礎を築いた。この法律の特色は,(1)超党派的構成の人事委員会を設置したこと,(2)任用の条件として,公開の試験制度を導入したこと,(3)試験制度を職階に指定された公職に限定し,除外事項を認めたこと,(4)公務員が政党に対して資金を供出したり,政党活動を行うことを制限した点であった。ペンドルトン法は,1855年のイギリスの公務員制度の改革をその内容において継承したもので,現在の日本の公務員法のモデルとなったといわれている。この法律が施行された直後には,メリット・システムによる任用者は13%にすぎなかったが,1932年には80%,そして52年には93%にも達した。しかし,アメリカでは今日でも,政権が交代するたびに,各省庁の局長以上の上級公務員は大統領によって任命されており,猟官の対象となっている。
業績主義 →公務員
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百科事典マイペディア 「メリットシステム」の意味・わかりやすい解説

メリット・システム

成績制とも訳す。公務員の任用,昇進などを試験成績と能力の実績に基づいて行う制度で,猟官制(スポイルズ・システム)に対するもの。行政の能率向上と中立を確保するために確立された,近代公務員制度下の科学的人事管理方式である。日本の公務員法でもこれを採用している。→業績主義

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メリットシステム」の意味・わかりやすい解説

メリット・システム

資格任用制」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のメリットシステムの言及

【公務員】より

…他方,選挙権の拡大とともに,情実任用による選挙区の培養も不可能となり,また官界の腐敗や無能官吏に対する世論の批判も高まってきた。こうしてノースコートとトレベリアンの報告に基づいて,1855年に人事委員会が設立され,70年には公開競争試験制度が全面的に実施され成績主義(メリット・システムmerit system)の原則が確立された。この改革によってもたらされた公務員制度の構造は,当時イギリスの支配下にあったインドの公務員制度にならったもので,二つのクラスに区分されていた。…

【情実任用】より

…その後,この慣習は政党政治の金権政治化とともに,選挙運動や党資金のために利用され,腐敗と非能率を生み出した。そこで公務員制度改革の気運が高まり,83年〈連邦公務員法〉の成立によって資格任用制merit systemへの第一歩が踏み出された。このように情実任用は,一定の歴史的時期には,固定した特権的官僚制の成立を妨げるという民主主義的意義をもっていたが,他面,それに付随する腐敗や非能率という消極的側面をさけることができなかった。…

【政治家】より

…大統領選挙における自党の勝利につくしたという資格だけで,いわば素人の政治家が上は重要な官職から下は地方の郵便局長にまで任命されるこの猟官制度(スポイルズ・システムspoils system)は,当然に腐敗と浪費をともなったが,イギリス,アメリカがともにヨーロッパ大陸諸国のような官僚制統治を長く免れた理由はこの政治家の自治能力の高さにあった。そのイギリス,アメリカにおいても,19世紀半ば以降,公務員の任用についての資格試験制度(メリット・システムmerit system)が導入され,公務員の地位が保障されると同時に公務員の政治参加に一定の制限が加えられることになり,政治家とはもっぱら選挙制による中央,地方の議員,地方自治体の首長,大統領を指すようになった。それとともに,実務への献身と中立性という官僚の資質とは別の,むしろそれとは対照的な資質が,政治家にたいして期待されるようになる。…

【キャリア・システム】より

…とくにアメリカでは,終身雇用,年功序列の強い日本とは異なり,スポイルズ・システム(猟官制度)と呼ばれる政治的情実任用が広範に行われてきた。その後,メリット・システム(業績主義)による資格任用制が拡大してきたが,今日でも高級公務員については,依然として政治的任用が広く行われている。したがって高級公務員をふくめて,生涯職公務員制度career service systemを確立しようという改革提案が提唱され,さまざまな改革の試みがなされている。…

【政治家】より

…大統領選挙における自党の勝利につくしたという資格だけで,いわば素人の政治家が上は重要な官職から下は地方の郵便局長にまで任命されるこの猟官制度(スポイルズ・システムspoils system)は,当然に腐敗と浪費をともなったが,イギリス,アメリカがともにヨーロッパ大陸諸国のような官僚制統治を長く免れた理由はこの政治家の自治能力の高さにあった。そのイギリス,アメリカにおいても,19世紀半ば以降,公務員の任用についての資格試験制度(メリット・システムmerit system)が導入され,公務員の地位が保障されると同時に公務員の政治参加に一定の制限が加えられることになり,政治家とはもっぱら選挙制による中央,地方の議員,地方自治体の首長,大統領を指すようになった。それとともに,実務への献身と中立性という官僚の資質とは別の,むしろそれとは対照的な資質が,政治家にたいして期待されるようになる。…

※「メリットシステム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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